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2024年02月02日21:00

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1月31日 池袋演芸場余一会「抜かれた俺たち」昼の部

 まだ1月だというのに、なんだか良くないことが起こりすぎているのではないか。この嫌な感じ、阪神大震災や地下鉄サリン事件が起きた1995年を思い出す。何かどんどん悪手ばかりを重ねてしまいそうな、不幸の連鎖が止まらない感じ。余計な気遣いであればよいのだが。

 世相は陰れども落語協会は3月からつる子、わん丈抜擢昇進披露目の祝い事。抜擢があったということは抜かれた二ツ目がいたということで、そんなメンバーがやなぎの声掛けで集まって、抜かれた悔しさを胸に秘めつつつる子、わん丈を明るく送り出そうという、あんまり聞いたことがない主旨の落語会。客席は八割強入ってほぼ満席という感じかな。出演者は二ツ目ばかりだからもう少し客も若くてもいいんじゃないかと思ったが、平日昼間とあってか驚くほど高齢者が多かった。

●オープニング
 冒頭スーツ姿のやなぎが缶ビール片手に千鳥足で登場。酔った体で去年の三月、今回の抜擢が明らかにされて以来の恨み言を吐露(というコント)。

●遊京「時そば」
 ロビーでつる子の横に並んで披露目チケットを販売していた遊京。自分はあまり聞いたことがなかったのだが、サービス精神旺盛な「時そば」面白かった。不味いそば屋の店主が「ウチにはご贔屓がいるので(景気は良い)」と云う件、「この味でよく贔屓客がつくな!」と毒づくと「大食いのお客様がひとり」。最後払いすぎたお金を戻すオチ付き。

●花飛「死ぬほど律儀」
 つる子が楽屋入りしたとき、とても可愛かったので「笑うとキングボンビー(桃鉄かいな!)に似てるね」と云ったとか。似てないでしょ!と思ったが、確かにつる子って、いつも顔中クシャクシャにして笑っている印象ある。抜かれることには何の感慨もないが、抜かれることを気遣われるのが居心地悪いとのこと。恩義を受けた人には必ずお礼をしたいという律儀な男が出てくる新作落語。ちょっと古風なので協会の新作落語台本募集の作品?と思ったが、シブラク「しゃべっちゃいなよ」でかけた自作なのか。

●始「首ったけ」
 抜かれることに忸怩たる思いはあるだろうが、秋には夜の部に出演する花ごめ、朝之助と共に昇進が決定している。表情筋を駆使してマンガチックに演じる。そうそう師匠もこういうところある。志ん輔だとそこをクサいと見てしまうのだが、軽さがある始だと全然許容範囲。この人の披露目は見に行こうと思う。

●はな平「短命」
 ただ一人の真打。昨年三月の抜擢発表後、五月にはこの会のために池袋を押さえ、抜かれた二ツ目全員に出演交渉していたというやなぎ。だが中入り前のゲスト出演は決めておらず、はな平によると三日前に急遽出演依頼が来たそうな。ただこの人はつる子の兄弟子であり、同門でつる子に抜かれたなな子との関係なども近くで見ている。前座時代から良い意味で佇まいが変わらない感じ。察しの悪い八五郎に伊勢屋の婿が続けて亡くなる理由を教える隠居、後半ほとんどパントマイムになっていた。

<中入り>

●トーク やなぎ つる子 はな平
 昨年夏、芸協カデンツァの会に招かれたわん丈が抜擢昇進にまつわるよもやま話をしていたが、なんでもつる子は自分が追い抜くことになった兄、姉さんたちに、会って次第を伝えていたらしい。「オレはそんなことしない」とわん丈は云っていたが、つる子なりの気遣いなんだろう。今回の抜擢について自分のnoteアカウントで書いていたはな平によれば落語の世界、一日でも先に入門していれば先輩という厳然たる上下関係が築かれているにも関わらず、真打昇進については抜擢という特例がある不思議。「でも、これが一般企業だと考えれば、後輩の方が先に昇進するとか普通にあることでしょ?」の問いかけに、やなぎも「(前座仕事の同期で)みんな手をつないで一緒にゴールみたいに思っていたけど・・・そうじゃないんですよね・・・」と頷く。。
 

●やなぎ「つる」
 本公演の企画者として大活躍。お馴染み「黙って飛んできた・・・」のオチの後も「オスのつる子とメスのつる子が〜」とつるこ(鶴光)の似てないマネまで入って終わらない終わらない(笑。夜もあるのに!

●けい木「親子酒」
 昨年4月のふう丈企画「破壊落語」に出ていた時も、抜擢ネタについては割とノンシャランと構えていた。まだ年齢が若いからと云うのもあるかもしれませんね。今日はヒザの出番なので、ネタをやった後、色物代わりにと、コロナ自粛中にSNSで動画をアップしていた噺家物まねを見せてくれた。雲助や彦いち、六代目圓楽など、まあまあという感じだったが、話の合間にちらっと正楽の仕草が入っていたのがなんか嬉しかった、

●つる子「紺屋高尾」
 実はそんなに聞いていない。女性だからと避けているつもりはないけれど、前座のころ何回か聞いて、少し上擦った声が苦手だったのだ。久蔵が流山の醤油問屋の若旦那ではなく、紺屋職人だと知った時の高尾太夫のあまりにおぼこい「ウソつかれた!」感出しと、久蔵の思いが通じた途端に廓の里ことばではなく、一人の女として自分の言葉で話すところが「新しい」のかな。全国各地の地域寄席席亭さんからの支持も多かろうし、人気者として、またパワハラだの古い体質からの脱却を求められている今にあって、彼女の昇進は明るい話題となることだろう。
 

 今日の高座を見る限りでは、抜かれたメンバーにつる子、わん丈に劣るところがあるとは思えない。やなぎはわん丈と同じく横浜にぎわい座小ホールのレギュラーで独演会を催しているし、けい木は天下の週刊少年ジャンプで「あかね噺」の監修を担当して若い世代に落語の楽しさを広く伝えている。それでも抜擢の二人を見れば、まあ納得の昇進なのかなとも思えるし・・・。真打昇進が落語家としての「上がり」ならばつる子とわん丈は勝ち組になるわけだが、新たに引かれたスタートラインでしかない以上、抜かれた側にも今後ブレイクスルーする可能性はまだまだあるということ。この先が長いのが芸の道なのだ。 

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