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2023年12月15日13:23

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映画「首」北野武のデタラメ狂気の戦国エンタメ映画

話題作、北野武の6年ぶり新作である。編集段階で原作・製作のKADOKAWAと契約トラブルになり、一時は公開が危ぶまれたらしいが、無事公開となった。

初期のころの北野武映画、『ソナチネ』や『3‐4×10』、『HANA-BI』あたりには、死の気配が映画全体に充満していた。感情を描かず虚無的なニヒリズム、乾いた暴力、即物的な死がそこにあった。それが衝撃だった。死へ向かっているかのような凄味があった。次第に北野武映画はエンターテインメント性が増すようになって、『アウトレイジ』以降は即物的な暴力そのものを描きながらも、持ち前のサービス精神を発揮し、役者たちを自在に操りエンタメ的暴力映画を作るようになった。今作もその延長上にあるとも言えるが、ややエキセントリックで異様なグロテスクな映画になっている。

まず、北野武映画の常連とも入れる役者たちがやりたい放題やっている。なかでも織田信長演じる加瀬亮の狂気ぶりが目立つ。まるで病的なチンピラヤクザだ。パワハラ、セクハラやり放題。尾張弁でまくしたてながら家来たちへの理不尽な暴力ぶりは常軌を逸している。歴史上の人物をここまでイカれたチンピラ兄ちゃんにしたのは、北野武だからこそだろう。そして今作の特徴として男色的世界(「衆道」と言うそうで、当時はタブー視もされていなかった)をおおっぴらに随分と描いている。明智光秀の面前で行われる織田信長と森蘭丸(寛一郎)の性的シーンは下品そのもの(織田信長と森蘭丸の関係は史実とも言われている)。さらに織田信長の家臣であったのに謀反を起こした荒木村重(遠藤憲一)と織田信長、さらに明智光秀とを男色の三角関係のような愛憎劇として描いている。明智光秀(西島秀俊)が荒木村重を匿って、二人で床を共にするシーンはかなり具体的な描写もある。信長が差し出した刀に荒木村重が口を血だらけにしながら饅頭を咥えるシーンはグロテスクだが、遠藤憲一の男色シーンもなかなかの気持ち悪さだ(すみません)。

さらにグロテスクで意味不明なのが、多羅尾光源坊の白塗り化粧とキツネの面を被った二人の女。物語のキーとなる信長が息子に宛てた手紙をなぜか持っており、忍者の親玉らしいのだが、その存在がよく分からない。物語の説明を最初から放棄しており、異様なるものたち、グロテスクで暴力的、性的な過激さばかりが強調される。

冒頭から首の切断死体に蟹が群がるグロテスクな凄惨な死が描かれ、武士だけではなく親族の女性(裏切った荒木村重親族)たちも首が次々と切断され、戦場には首がゴロゴロと転がり、死体の群れから大将の生首を探す物語だ。最後は秀吉が生首を蹴り飛ばして終わる。まさに「首」映画なのだ。いきなり森の中で矢が飛んできて殺されたり、忍者の仕掛けに襲われたり、即物的な死の描き方は流石に迫力があって上手い。戦国時代の凄惨な地上戦をこれほど生々しくグロテスクに描いた映画はあまりない。合戦シーンはもっとカッコよく描かれてきたものだが、もつれあいながら刀を切りつけ合う場面、首を切り落とす血みどろな感じが生々しい。戦場跡に累々と転がる死体、凄惨な死を俯瞰から見下ろすカメラには、死を見つめる冷徹さがある。

一方、ビートたけし演じる秀吉と大森南朋演じる弟の秀長、黒田官兵衛演じる浅野忠信の3人のやり取りはコントのようだ。語りの芸を持つ忍者(木村祐一)など随所に笑いは散りばめられている。織田信長と明智光秀は男色の性を描き、家康(小林薫)は醜女好きと冷笑的に性的な場面を描いているのに比べ、秀吉の性は一切描かれていない。そもそも女性がほとんど出て来ない映画でもあるのだが、ビートたけし演じる秀吉だけは別なのだ。そもそもビートたけしが自ら演じることで全体がコントにしか見えない。

役者陣はそのほか中村獅童、寺島進、勝村政信、桐谷健太、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、岸部一徳など錚々たるメンバーが出ているので、役者たちを見ているだけでもエンタメ映画としては十分楽しめる。

武将たちの権謀術数、家康が影武者を次々と身代わりにしながら生き延び、忍者たちはそれぞれの勢力が入り乱れながら殺し合いの情報戦を繰り広げる。男色と欲望、笑いと芸、即物的な暴力と死者たちの山。農民(中村獅童)や盗人や詐欺師(木村祐一)が戦国時代に武士たちの戦の仲間に入り、大将の生首を取ることで出世するという夢物語をベースにしつつ、むごたらしい仲間割れの騙し合い、バカバカしいまでの殺し合いとくだらない狂気の戦国時代を描いている。「本能寺の変」での織田信長の最後の描かれ方が「へぇ」と言う感じで意表を突かれた。

今の時代も戦争ばかりやって変わらぬバカバカしい愚かな人間たちだらけとも言える。映画としてまとまりはないが、戦国デタラメ狂気エンタメ映画として楽しめる。

2023年製作/131分/R15+/日本
配給:東宝、KADOKAWA監督・原作・脚本:北野武
製作:夏野剛
プロデューサー:福島聡司
撮影監督:浜田毅
照明:高屋齋
美術:瀬下幸治
VFXスーパーバイザー:小坂一順
編集:北野武、太田義則
音楽:岩代太郎
キャスト:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、浅野忠信、大森南朋、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、寛一郎、副島淳、小林薫、岸部一徳
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