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2023年11月04日00:11

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ジャック・ロジエ『フィフィ・マルタンガル』逸脱とハプニングの自由

「輝く季節を軽やかに大胆に切り取るジャック・ロジェの才能に、ヌーヴェル・ヴァーグの象徴であるゴダールは絶賛し、トリュフォーは嫉妬したという逸話をもつ」と公式HPで紹介のあるジャック・ロジエ監督の最後の作品である。日本では劇場未公開の作品だったが、2023年7月開催の特集上映「みんなのジャック・ロジエ」にてデジタルレストア版で劇場初公開。私はジャック・ロジエを2010年に日本で初上映されたとき『アデュー・フィリピーヌ』(1962年)と『オルエットの方へ』(1971年)を初めて見て、その瑞々しい輝きと躍動感に感動した。女の子たちのバカンスの物語なのだが、その物語の意味性よりも表層でしかないおしゃべりや笑い声、女の子たちの身体性に魅せられた。演技を超えたリアリティというか躍動感があったのだ。作り込まれた映像演出ではない即興的なカメラワークと演出がそこにあるような気がした。この2作はとても見やすい作品なのだが、一方で『メーヌ・オセアン』(1985年)には戸惑った。物語がどんどん逸脱していき、舞台も人物も移っていくよく分からない作品なのだ。それで今回『みんなのジャック・ロジエ』特集上映があったが、見逃した1976年製作の『トルテュ島の遭難者たち』があり、いくつかの短編『バルドー/ゴダール』、『パパラッツィ』(1963年)があり、この2001年の『フィフィ・マルタンガル』があり、それがジャック・ロジエのほぼ全作品だ。とても寡作な映画監督なのだ。今年2023年6月に亡くなった。

この作品の物語もメチャクチャである。「女の子たちとバカンス」を撮っているときは、その物語の枠に囚われない即興性や自由さが軽やかに躍動感を持って感じられたものが、その後の作品の物語の逸脱ぶりは観客に混乱と戸惑いを誘発させる。よくわからなかった『メーヌ・オセアン』ももう一度見直さないといけないと思っているのだが、この『フィフィ・マルタンガル』の逸脱と混乱ぶりにも戸惑った。劇場からカジノ、そして再び劇場へ。役者たちがドタバタとハプニングの連続で演じ続ける物語なのだが、ラストは舞台上での混乱が、即興の音楽と踊りによって観客には大受けになるという皮肉が描かれている。作り込まれた演劇、固定的な台詞や演技よりも、どんどんと変わっていく即興的なハプニングの方が面白いのか?演じるとは何か?表現とは何か?虚構と現実の境目とは何か?そんなことを問うような作品である。と言っても、とてもバカバカしい茶番劇なのだ。

CM撮影のメイクをしていた俳優イブ・アフォンソに舞台の誘いの電話が来る。「忙しいんだ」と文句を言うが、この俳優、実はCMでニワトリの格好をしている。そして劇場に駆けつけると、バックしてきた車にタクシーがぶつけられ、俳優は足を痛める。このあたりもなんだかわざとらしい展開だ。足の怪我のことを誰にも言うなと役者根性を見せて舞台稽古に臨むのだが、演出家にあきれられ、女優を口説きに来たガストン(ジャン・ルフェーブル)という男が一瞬で台詞を記憶してしまうという能力の持ち主で、急遽代役として出ることになる。そして、その出演料をもらったガストンは借金返済の資金を稼ぐために突然カジノに向かうのだ。女優のフィフィ(リディア・フェルド)も一緒だ。最初は役者イブ・アフォンソが主役かと思ったら、女優のフィフィ、そしてガストンへと主役の座がどんどん変わっていく。そのカジノでなんだかわからないフィフィのまじないみたいなやり方で奇跡的に大儲けしたと思ったら、ガストンは自ら主催する劇団の劇場へ。借金のために劇場運営が危機にあり、食事もまともに取れない役者たち。そこへフラメンコの連中がやってきて飲みに繰り出す。そして「本番の舞台がある」とパリに戻ってきたガストンだったが、飲み過ぎて自慢の記憶力がぶっ飛んで、台詞がまともに言えない状態になる。急遽、人間プロンプターが用意されて幕が上がるが、ガストンは台詞をまともに言えない。そこへのけ者にされたイブ・アフォンソが舞台に乱入し、パイを役者の顔にぶつけて大混乱に。劇場を見に来ていたフラメンコのギター弾きが、客席からギターを演奏し、フィフィがフラメンコを踊り出す。政治家や高級官僚も来ていた客席は、この踊りに大喝采。なんだかわけのわからないうちに幕は下り、映画もまた終わるのだった。

まったく意味不明の展開であり、まさにどうでもいい茶番劇なのだ。このドタバタのなかに物語の予定調和は崩れ、意味は解体され、物語は逸脱し、奇跡やハプニングが起きて、役者自身の身体性が剥き出しになる。虚構の映像とは何か?ジャック・ロジエの軽やかな自由さは、映画そのものの意味を問い続けているのかもしれない。



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