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2023年12月10日10:32

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私小説 山本瞳さんの話 1/7

みなさんこんにちは、現在またFBで短編私小説(全7話)を始めております。

中3の末期に出会ったクラスメイトの女の子を題材にしておりますが、よろしければぜひ読んでください。

気に入っていただいたら、続きは自分のfbをご参照ください。

https://www.facebook.com/koki.ginziro/

私小説 山本瞳さんの話 1/7

中学校の終わりも差し迫った12月のこの時期、転校した広島市内の学校という理由もあって、自分は久しぶりに登校していた。

友達のいなさはあいかわらずだったが、担任のT教師が比較的いい人で

「・・・銀次郎?どうしたいんなら?高校。」

ととても心配していた。

「・・・行ける高校があればいいけど、中期末受けていないから、結局どこも入れませんよ。・・・どうせ家出するし。」

すると血相を変えて

「・・・お前・・・もうちょっと人生を真面目に考えろ。」

と言った。

ちょうど義母と盛んにケンカしていたときだったので、自分には受験もへったくれもなく、T教師の言はどちらかというとありがためいわくだった。

新しい学校ではいじめはなかったが、極端に人と話すのが苦手な銀次郎は、クラスになじむこともなく、休憩時間は一人本を呼んでいるような子供だった。

しかしこのクラスでは今まで見たこともないような女子、山本瞳というのがいた。

この山本瞳、独特の雰囲気を持っていた。

クラスの女子がJリーグや芸能人、ジャニーズの話しに夢中になっている輪にほぼ入らず、どちらかというと見下した雰囲気を持っていた。

だから自分ほどにはないにせよ、山本はどちらかというと孤立気味で、クラスの昼食時、一人で食事しているような、そんな女の子だった。

教師のTも自分の不登校を気にして、いつも自分の家に家庭訪問していたが、ある日言ったことがある。

「・・・お前となあ、山本がクラスになじんでくれたらなあ・・・どんなにいいか。山本は毎日学校に来てくれるから、先生が時々一緒に弁当食べているんだけどな。」

だが肝心の山本はどこ吹く風で、何がおかしいのか一人漫画を見てわらっているような、そんな女の子だった。

自分は時々そんな山本を見て

「・・・あんな女の子もいるんだなあ。」

と思った。

そんな山本が、自分が久しぶりに学校に行ったとき、話しかけてきた。

なんと一緒に帰ろうと言う。

「・・・山本、こんな俺と帰ると、へんなうわさが立つだろう、やめとけ。」

と言うと、キョトンとして

「・・・あんたのほうこそバカでしょう?そんなん気にすんの?」

と言った。

”すっげえ女の子もいるんだなあ”と、自分はかなり久しぶりに女の子と下校した。

山本は男子の間ではけっこうきれいだと言われていた。

少し茶色のはいった地毛はいつもきれいに流れていて、ツンとしているところが同性には嫌われているらしいが、自分たち男子にはいい感じに見えた。

自分はなんとはなしに

「・・おれたち・・・T先生に迷惑かけてるよなあ・・・おれは、ああいういい先生見たこと無いから、なんとかしたいけれど、こんなおれだからなあ。」

と言った。

山本は男勝りの女の子だった

「・・・バッカか?あんた??クラスメイトと仲よく?本気で思ってんの?」

という。

自分は

「ええ??どういう意味?」

と聞いた、すると山本は言った。

「・・・エレベーターに乗っていたり、交差点ですれ違う人と、いちいち仲良くだなんて、できないだろ。」

自分はあっけにとられた

「・・・どんなに仲良くしようとも思っても、嫌ってくるやつは嫌ってくるだろ?そんなんで神経すり減らして、どーすん?」

「・・・まあ、たしかに。」

山本は突き抜けていた。

「・・・それよりも銀次郎、あんた学校で『新選組』読んでいたろう?あれ、私も好きでな、ぜったい京都に行きたいと思ってんだよ。」

人は意外なところで見ているものだ。

ちょうどその時期自分は新選組の伝記に夢中になっていて、授業中も読んでいていたくらいだ。

山本は今で言う歴女だったのだ。

「・・・私ね、あの土方が大好きなんだ。」

「・・・そうだったんだ・・・ごめん意外だったよ。山本もJリーガーやジャニーズが好きかと。」

「・・・バッカか?土方を好きになるような女が、Jリーガーやジャニタレを好きになるわけ無いだろ?」

よくよく話したら、山本は将来にしっかりした目的を持っている生徒だった。

将来は、なんと航海士になりたいらしい。

当時思った

色々考えて悶々としている自分なんかより、なんと山本の聡明なことか。

山本とその日帰って少し話したことで自分はとても衝撃を受けた。

その内容は今でも覚えている。

「・・・土方がもし孤独を怖れて、寂しいときは日野の連中と村祭りに行って、時勢に合わせ薬屋をついでいたら、あそこまでの男にならなかったと思うんだ。」

目をキラキラさせていった。

「・・・世の中にはこういう女もいるんだ。」

そう思った。

「・・・だから、銀次郎にはいつか話しかけようとおもっていたんだ、ごめんな。」

自分を気づかってかそんなことまで言ってくれた。

自分が土方のようであろうはずがない。

「こんな俺にそんなこと言ってくれるんだなあ・・・俺も勇気をもらえたよ、ありがとう。」

と最後別れ際に言うと

「・・・見てる人間は見てるんだ、会える人間には会うように世の中はできてる。おたがい頑張ろぜ。」

と山本は言った

こうなるとどっちが男か女かわからない。

あれから山本は無事航海士になれただろうか。

なれたろうと思っている。

己で風の向きを判断し、孤独に判断を下す人間でないと、航海士には向かない。

卒業後数年立って、友人に聞いたところでは、毎年開かれるクラス会に銀次郎同様こなかったと言うが、山本のことだからさもありなんとクスリと笑ったことを覚えている。
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