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2023年07月24日00:41

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口パク人間模様

 関東地方は一昨日梅雨明けしたようですが、梅雨に付き物の雨がタイトルに入っている映画で最も有名な作品は、何といっても『雨に唄えば』でしょう。
 この映画は、デビー・レイノルズがゴーストシンガー役に扮したコメディ作品でしたが、同時代のハリウッドには、マーニ・ニクソンというゴーストシンガーが実際にいました。
 何しろ、下記のような主要なミュージカル映画の多くで、この人はゴーストシンガーを務めているのです。
『王様と私』“Shall we dance”:https://www.youtube.com/watch?v=QgVPnWmUqd4

『ウエストサイドストーリー』“Tonight”:https://www.youtube.com/watch?v=xd_foOvGvho

『マイ・フェア・レディ』“I could have danced all night”:https://www.youtube.com/watch?v=lpf-R4iO3V8

 吹き替えの事実を知らなければ、オードリー・ヘプバーンらの本当の声だと思ってしまうところですが、吹き替えの事実を知っていた人でも、これらのゴーストシンガーが同一人だったことまでご存知だった人はあまり多くなかったかもしれません。
 もっとも、マーニ・ニクソンについては2016年にドキュメンタリーが作られ(「ハリウッドを救った歌声 〜史上最強のゴーストシンガーと呼ばれた女〜」)、第6回衛星放送協会 オリジナル番組アワードを受賞しているので、それをご覧になった人もいるでしょう(https://www.bunkyo-shiino.jp/my-space-odyssey/5287)。
 個人的に気になったのは、ゴーストシンガーがいたということは、(結果的に)口パクした人がいたわけで、この人たちの反応はどんなものだったのだろう?ということでした。
 上掲動画で云えば、最初の動画で口パクしたデボラ・カーは私生活でも、マーニ・ニクソンと昵懇だったこともあって、自分の声をマーニ・ニクソンが吹き替えてくれるにもかかわらず、契約上彼女の名前がクレジットもされないことを気の毒に感じ、何かのインタビューで、真相を明かしています。デボラ・カーはマーニ・ニクソンと協力して(吹き替えがしやすいように)口パクしたのです。
 これに対して、2番目の動画で結果的に口パクを演じることになったナタリー・ウッドの場合は、大問題に発展しました。
 彼女は撮影終了後に初めて自分の声が使われないと知らされたのです。彼女は激怒し、マーニ・ニクソンの録音にも一切協力しませんでした。そのため、マーニ・ニクソンはウッドの歌い間違いの修正に苦心することになった上、ラストシーンのマリアの「触らないで!」(“Don't you touch him!”)と「大好きよ、アントン」(“Te adoro, Anton.”)の台詞吹替まで行うことになったと云われています。これには流石にマーニ・ニクソンもサウンドトラック・アルバムの売上の一部を要求するに至りましたが、配給会社もレコード会社もこれに応じなかったので、最終的に作曲者のバーンスタインが自主的に報酬の一部をマーニ・ニクソンに支払ったということです。いやはや。
 ちなみに、この映画についてはナタリー・ウッド本人による歌声も遺っています。
https://www.youtube.com/watch?v=HIdCzbIQa14

 一方、3番目の動画の口パクを演じることになってしまったオードリー・ヘプバーンの場合は少々事情が複雑で、可愛そうですらあります。
 彼女は撮影が相当進んだ段階で、自分の声が使われないことを知ったのです。なぜそうなったかというと、その遠因には『マイ・フェア・レディ』が同名の大ヒット舞台ミュージカルの映画化で、映画化権を手に入れるためにワーナー・ブラザースが莫大なカネをかけていたという事情があります。何とかしてそのカネを回収しなければなりませんから、できればイライザ役を無名の女優にやらせる賭けには出たくありません。それでも、舞台版でのイライザ役は当時映画界では無名のジュリー・アンドリュースが演じ好評を博していたので、ワーナー・ブラザースは彼女に映画でのイライザ役を持ちかけました。でも、ジュリー・アンドリュースはスクリーン・テストを頑として拒み、ワーナー・ブラザースとしてもそれ以上無名女優にこだわりはなかったので、その話はそのままとなってしまいました。
 そこで、ワーナー・ブラザースは当時既に大女優だったオードリー・ヘプバーンにイライザ役を打診したのですが、オードリー・ヘプバーンは、(自身やってみたいという気持ちあったものの)ジュリー・アンドリュースがイライザ役を自分のものにしているとして一旦断り、さらにはディナー・パーティーを企画して、スタジオの上層部にこの役にアンドリュースを起用するよう説得しようとまでしました。でも、自分が引き受けなければ、ワーナー・ブラザースが今度はエリザベス・テイラーに役を回すと分かり、最終的に引き受けたのです。
 この時、オードリー・ヘプバーンは『マイ・フェア・レディ』に専念するため、すでに出演が決まっていた2作品を断り、朝5時から歌のレッスンを受ける等、相当な覚悟で仕事に臨んでいます。
 しかし、こうなると、ジュリー・アンドリュースの起用を望んでいたシナリオ担当のアラン・ジェイ・ラーナーがすっかりへそを曲げ、ほとんど八つ当たり的にオードリー・ヘプバーンを無視しだしたばかりか、オードリー・ヘプバーンの歌が吹き替えられることを最初から知っていたにもかかわらず、そのことを彼女に伝えませんでした。周囲もそれに気圧される形で沈黙を続け、撮影終了間近になって、見かねたスタッフの一人が伝えたことで、ようやくオードリー・ヘプバーンは知ることが出来たようです。自分の声が使われないこともショックでしたが、それ以上に、みんなが黙っていたことの方がショックだったようです。
 なお、本作についても、オードリー・ヘプバーン本人による歌声が遺っています。
https://www.youtube.com/watch?v=EAsWaq7L0jE

 その年(1965)のアカデミー賞では、『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘプバーンがノミネートもされなかったのは吹替のせいだとの報道が流れて、オードリー・ヘプバーンだけでなくマーニ・ニクソンも傷ついたものとみえて、マーニ・ニクソンはそれ以後、大きな吹替の仕事は引き受けなくなったと云われています。

 今日はマーニ・ニクソンの7回目の命日です。
7 14

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