毎年この時期になると、ノーベル賞受賞者の発表が近づき、今年は誰が受賞するのか？日本人は何人受賞できそうか？毎年注目されるあの人は？等の話題がマスコミを騒がせますが、その際の説明によく登場するのが、インパクトファクターという代物です。
インパクトファクターとは、その学術雑誌に載った論文が、一年あたりに他の研究者の論文に引用された回数の平均値のことをいい、その雑誌が各分野内で持つ相対的な影響力の大きさを測る指標の一つとされています。よくノーベル生理学・医学賞等の自然科学系の賞で、受賞者の書いた論文が学術誌「ネイチャー」に載って〇〇回引用されたなどと伝えられることがありますが、あれです。
確かに、優秀な論文であればあるほどそれだけ重宝され、引用回数も増えていくものと一応は考えられます。
しかしながら、ちょっと考えれば分かることなのですが、学問、研究には時代によって流行り廃りがあるため、流行りの分野には人が集まる反面、廃りの分野には人材が不足するということが当然に起こりえます（どの学問、研究分野にも同じ人数の研究者がいるわけではない）。したがって、流行りの分野で書かれた論文は（それほど労作でなくとも）多くの研究者に引用されてインパクトファクターは増え、逆に、廃りの分野で書かれた論文は（たとえどんなに労作であっても）研究者自体が少なくインパクトファクターは増えないといったことも起こってきます。そのため、インパクトファクターは単なる「ポピュレーションファクター」あるいは「流行ファクター」に過ぎず、個々の論文の学問的価値とは関係ないのではないかと、今日では疑問視されるようになってきています。
このような疑問をさらに補強するのが、「ネイチャー」等の雑誌が学術雑誌とはいえ、結局は「売れてなんぼ」の商業雑誌であるということです。「ネイチャー」に掲載されるということは、それなりにその論文の学問的権威を高める要素が今なおないわけではありません。でも、最終的には、個々の論文の学問的価値が真に高いか否かではなく、載せたら「ネイチャー」が売れそうか否かで、掲載が決定されることになるので、そこにはどうしても上述のような疑問が出てくる余地が生じてしまうのです。
こうした疑問は当のノーベル賞受賞者からさえ出ているので（例えば、本庶佑氏等）、流石に受賞者の選考に当たるスウェーデン王立科学アカデミー等も、最近ではインパクトファクターを考慮する度合いを減らす方向にあると云われています（選考は秘密裏に行われるので、詳細は不明）。
悲しいことですが、日本の大学等の研究機関では、現在、国、公、私立を問わず、ほぼ一律に、教員の人事の決定にこのインパクトファクターのみが採用されるようになっているそうです。これは、研究者の能力の評価を、過去に発表した論文のインパクトファクターの総和のみによって行うという、驚くべき安直なものといえ、諸外国の例※と比較して、とても正気の沙汰とは思われないとみられています。
何より、学問、研究に携わる人々が、「自分が何をやりたいか」ではなく「何をやったらいい論文が書けるか（＝何について論文を書いたら高いインパクトファクターをゲットできるか）で学問、研究することになるので、学問、研究の健全な発展を妨げるおそれがあります。
こうしたインパクトファクター偏重の姿勢を続けていくかぎり、日本で研究している研究者からはノーベル賞受賞者が出なくなる日が来るのも、そんなに遠いことではないかもしれません。
※ 例えば、米国の大学であれば、教授人事の際の候補者の評価は�ヽ慇犬紡个垢觜峙繊⊆遜�への熱意と実績、��研究者としての実績、�Ｂ膤惘＼犬鮖愼海垢詛塾呂伴太咾�3点から決まる。
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