04年に公開したフランス映画『ブルーレクイエム』をリメイクした本作は、よくある「リメイクあるある問題」にさらされている。*1 監督は本作を幅広い客層にコミットするよう仕上げた。だが原作の持つノワールでブルーなトーンもうしなわれてしまった。
04年の原作タイトルはフランスでも英語でも「Cash Truck(現金輸トラック)」。リメイクの原題は「Wrath of Man」(さしずめ「怒れる者」だろうか?)。*2 ややこしいことこのうえない。
展開は大体原作と一緒だ。
ある現金輸送会社にパトリック・“H”・ヒル――通称“H”(ジェイソン・ステイサム)が入社。寡黙で凡百な印象の“H”は強盗を冷静に撃退し会社の信頼を得る。同僚は謎多き“H”の出自を探り始める。
映画は“H”の出自をしめしながら最後の対決を頂点に彼の最終目標をあかす。原作になかったアクションと陰謀を随所にちりばめあきさせない。*3
またリメイクの“H”はジェイソン・ステイサムのイメージどおりただ者ではないし強面の部下もいる。いってみればリメイクの“H”はヒーローだ。
それはそれでいい。
だがこのヒーローの一面が原作にあった、ある哀しき目的のために命を賭す必死さや生命を削り合う迫力をそいでしまう。
原作の主人公アレックス・ドゥマールはだだのひと。
ただのひとがうばわれてしまった大切なもののために、破滅の道を進む様子にフィルム・ノワールにふさわしい空気が香ったのだ。*4
※1 一番肝心な部分がぬけるやつ。
※2 04年版の仏語タイトル「Le convoyeur」(フランス語でトラックの意味) → 04年版の英語タイトル「Cash Truck」 → 04年版の日本語タイトル「ブルー・レクイエム」 → 21年版の英語タイトル「Wrath of Man」 → 21年版の日本語タイトル「キャッシュトラック」。ややこしすぎやろ。
※3 リメイク作品は、現金輸送トラックをねらう犯人の行動背景を複雑にし、警備会社に内通者や裏切者が存在するかもしれない陰謀を追加した。
※4 原作のアレックスが抱く捨て身感や捨て鉢感がないのだ。また原作のアレックスは最終目的をはたしたあとの人生と未来をかんがえない。路傍の石の様に映画から退場する。そこにやるせなさがあるのだ。
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