5月9日　藤沢さかなや落語　橘家文吾　柳家あお馬二人会

●映画「君はなぜ総理大臣になれないのか」鑑賞。都内、横浜での上映が終わり、見逃したと諦めていたら、藤沢で上映会。監督が藤沢出身で、キネ旬ベストテンの文化映画一位を取ったので凱旋上映ともいえる。●衆院香川一区から民主党公認で出馬した小川淳也。東大→官僚というありがちな経歴ながら、地元企業オーナー一族の自民現職に戦いを挑み続けての17年間を映画は追う。その間政権は自民から民主、そして再び自民長期政権化･･･小川はその間5回の選挙を戦い、地方区で勝利したのは自民に逆風が吹いた2009年の選挙のみ。比例復活当選のため党内での発言権は弱く、なかなか要職を与えられない。●今すべきは今後の日本を見据えた政策論争だと主張する小川は、与党はもちろん、与党のアラを探して論争に持ち込むことを党利、党是とする野党の姿勢にも懐疑的である。一見至極真っ当に思える小川の感覚が、受け入れられないという不思議な現実。●印象的なのは、「希望の党」問題に揺れた2017年の選挙戦。希望の党から出馬することになった小川に、これまで終始彼の側にたって撮影を続けていた監督も「（いっそ）無所属の方が良かったと思います」と云い出し、それに当の小川も何も云えない始末。選挙戦の街頭では有権者たちから変説漢よばわり。結果地方区では負け、一旦比例で復活したものの、その後無所属となり立憲民主党へという「いかにも･･･」な流れ。恐らくこの時は日本全国どの選挙区でも似たような状況があったに相違ない。●小川の両親は「（代議士なんてやめて）早く息子を家族に返してほしい」と訴え、娘たちは献身的に父親の選挙を手伝いながらも「（政治家には）なりたくない。（代議士の妻も）いや」と応える。そこまで苦労を強いる政治家の仕事を、なぜ二世議員は引き継ごうとするのか。選挙法に触れても、妻を議員にしようと画策する河井前議員のような人間がいるのか。どぶ板選挙を戦って議員になっても、その先の展開が明るいとは（この映画を見る限りでは）思えないのに。●この映画は「政治家としては純粋で真っ当過ぎても総理大臣になれない」ことを訴えているのではなく、「庶民感覚と政策意欲を持った政治家を総理大臣候補にすらさせない、日本政界の構造とは何か」を考えさせる作品なのだと思う。つまり「君を総理大臣にさせないものは何か」●TV出身の監督・大島新は故大島渚の次男。ナレーター、インタビュアーとして度々画面に出てくるのだが、痩身で貫禄は無いものの横顔が父親そっくり。

　映画を見終えた後、久しぶりに「藤沢さかなや落語」へ。この状況下、再開できない地域寄席もあるが、入場者数を減らしての開催。こみち、宮治とレギュラー出演者の中から真打も出てきたので、仕切り直しと云う事でもないだろうが、新たに二つ目二人会のシリーズが始まった。第一回は文吾とあお馬。師匠同志が仲良しで、これは面白い組み合わせではなかろうかと出かけたが、30人限定の会で入場者数10人ほど。高齢者が多いからしかたがないのだろうが･･･自分も蔓延防止等重点措置対象地域の住民だが、こうして藤沢に来ているわけだけれど。

　●文吾「星野屋」
　●あお馬「夢金」
＜中入り＞
　●あお馬「野晒し」
　●文吾「麻のれん」

　一度は営業の継続を宣言したものの、結局寄席は5月11日まで休業に。その間都内の寄席の代表のように浅草演芸ホールが扱われていたのは何だったのか。とりあえず暇になった二つ目たちは何をしていたかと云うと、文吾によれば「稽古してました」。「とは云っても一朝師匠や扇遊師匠にZOOMで稽古をお願いするわけにもいきませんからね･･･」と対面稽古が難しい状況を笑い飛ばしつつ「覚えた噺を披露する場所もないから、忘れないうちにこんな（夏みたいに暑い）時期に『夢金』をやることになる」と、あお馬の季節外れなネタ選びをイジる。しかしあお馬の「夢金」、すごく良かった。船頭の熊の物言いからにじみ出る隠しきれない卑しさ、それを嫌ってか避けようとするお嬢さんの声なき拒絶、笠に降り積もる雪を落とす仕草、一転して悪を懲らしめ有頂天になってからのストンとした落とし･･･なかなかパーフェクトな出来だったのでは。「なかなか」を付けたのは、まだまだ伸びしろがあるということで。
　文吾を見たのはずいぶん久しぶり。前座・かな文のころは一所懸命で勉強熱心という印象だったが、長く見ない内に余裕が出てきた。「麻のれん」は按摩の勘違いを笑うという、今どきだと少しやりづらい噺かもしれないが、「好きな噺」と云うくらいで、目開きには負けないという按摩の意地と思い込みの強さを、ペーソスたっぷりに演じて良かった。正に「男子、三日会わざれば刮目して見よ」。成長する二つ目の勢いはすごい。