山の中、1人でLEDランタンの光を灯しながら車の中で過ごしていると、不思議な音がするときがある。
山の怪異には子供の頃から経験があるので、多少のことでは
「またか」
という感慨しかわかないんだけれど、遠くから人の声がするときがある。
車の中で、小説を読みながら寝そべっていると、遠くで笑いながら歩いている音がする。
夜中の12時、カーナビには山の中、蛇のようにうねった今いる道一本しかないような場所。
肘を枕にしながら
「なんなんだろうなあ・・・」
と思うのだけれど、だいたいその場で寝てしまう。
経験上、こういうときはその音に興味を示してはだめだとわかっている。
山にいると不思議な経験をすることがある。
正体はわからないが、魑魅魍魎の類いが健やかに跳梁しているかのような、笹や木々のこすれる音と共に楽しく飛びまわっているような、そんな存在を感じることがある。
これも断言できることではないが、そういうものには干渉しないことが一番で、こちらが興味を示して彼らを確かめようとすると、彼らも彼らで不入の地を侵されたような怒りを感じるのか、恐ろしい障りをなすことがあるのだ。
だから自分はただそういうものとして、彼らが通り過ぎるのを待つ。
自分がこの前聞いた音はまるで子供が数人ハイキングをしているような声だった。
夜中の12時に。
地図ではそちらに道は無い。
たしかあそこらへんには小さな渓流があるだけだ。
しかしこちらもだからといって確かめることはしない。
声が遠のいたことを確かめてからゴウっと車のスライドドアを開ける。
外には澄みきった山の空気があるだけで、月明かりが自分の周囲を照らしている。
カセットコンロで湯を沸かし、UCCの紙コップコーヒーに入れて一息つくと、コーヒーを飲んだにもかかわらず眠気に襲われて、そのまま車に戻りまた安い毛布をかけて寝入ってしまった。
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