スターリニスト中国でデジタル人民元の市中実験が12日から19日午前零時まで、深圳市で行われた。
◎市民の評価はイマイチ
デジタル人民元は、スマホに入金し、買い物などの決済時はそれで支払う。実験だから、1人200元(約3100円)のデジタル人民元が抽選で5万人にタダで配られた(写真=デジタル人民元アプリと人民元紙幣)。
買い物は、普通の××ペイのようにスマホのアプリをセルフレジにかざして済ます。
専門家は、5万人に滞りなく使用されたことで、実験は成功、と評価したようだが、デジタル人民元を配られた市民たちの評判はイマイチだったようだ(写真=店頭でデジタル人民元を使う消費者)。
なぜならスターリニスト中国ではすでにアリペイなど決済アプリが普及していて、その上にデジタル人民元が登場しても、利便性の向上などメリットは感じられないからだ。デジタル人民元の使い勝手が既存の決済アプリほど便利ではなかったという辛口の評価もあり、デジタル人民元をまた使うつもりはないという。
◎値動きの激しいビットコインなどの仮想通貨は決済には不向き
スターリニスト中国の中銀である人民銀は、この結果を踏まえて2022年の北京冬季五輪までに正式発行する予定だ。この取り組みに、日米欧は警戒を強めている。
デジタル通貨として、いち早く先行したのは、ビットコインなどの仮想通貨がある。またフェイスブックが計画を打ち出したリブラも、その一種だ。
しかしいずれもデジタル通貨として、広く使われるまでに至っていない。ビットコインは、株のように日々、刻々と目まぐるしく価値が動き、決済通貨としては不向きだ。今日の1円が明日には2円に、あるいは逆に0.5円になるかもしれない。これでは、投機目的以外、誰も持とうとしないだろう。実際に、決済通貨としては今はほとんど使われていない。
◎中銀の警戒感の強いリブラもペンディング
リブラは、各国中銀の金融調節の埒外に置かれるので、FRB初め各国中銀から警戒され、いまだに日の目を見ていない。おそらく実用化されるまでには至らないだろう。
しかし各国中央銀行もデジタル化の進展で、いずれはデジタル通貨の発行もやむを得ない、と研究中ではある。現在、実際に市中に流通されている中銀発行のデジタル通貨は、ない。スターリニスト中国のデジタル人民元以外は。
◎特定の個人のカネのやり取りが露わに
しかしもしデジタル人民元が世界標準になると、大変なことになる。アメリカがイランや北朝鮮ならず者集団に行っている強力な金融制裁が、破られてしまう。
それ以上に、デジタルであるだけに、当局の追跡が容易になることだ。スターリニスト中国の人民銀は、2018年に全スマホ決済を、人民銀の設けたシステム「網聯」を経由するように義務づけ、それが稼働している。これに合わせてデジタル人民元が普及すると、ほとんどの取引をスターリニスト当局が把握することが可能になる。
国民のカネのやりとりが丸裸になる。むろんスターリニスト中国国民14億人の1人ひとりのカネの流れを監視はしきれないが、ある特定の個人に照準を絞れば、すべてが丸裸にされて監視される。
◎共産党に個人と企業の取引が全把握される恐怖
共産党当局が監視する民主活動家が、誰からカネをカンパされ、あるいはどこでカネを稼ぎ、そのカネをどこで、何に、いくら使ったか――など。
外国人記者の取材に応じて、謝礼をもらえば、即座に探知され、警察に逮捕の口実を与えることになる。
企業も、特定の企業と取引すれば、共産党に筒抜けになる。共産党企業と取引せず、外資系と取引すれば、なぜかと当局に問い詰められるだろう。
紙のお金では掴めなかった流通模様が、共産党が望めばすべて白日の下にさらけ出されるのだ。
◎もし世界標準になり、海外でも使われるようになったら
それは、中国人・中国企業に限らないかもしれない。デジタル人民元が世界標準になり、それが例えば日本でも広く使われるようになると、スターリニスト中国を敵視する僕のような者の経済活動もすべて把握される。
想像するだに怖ろしい。
実験が成功裏に終了とみた人民銀は23日、法定通貨の人民元にデジタル通貨も加える法制度を固めた。22年2月の北京冬季五輪までの発行をにらみ、仮想通貨など民間のデジタル通貨の発行も禁じ、貨幣の供給が不安定になるのを防ぐ。同日公表した中国人民銀行法改正の草案に、その主旨を盛り込んだ。
このうえは、日本、アメリカ、EUは、デジタル人民元の各国内での流通を禁止するしかない。デジタル人民元で支払われたカネは受け取れないようにして欲しい、と強く願う。
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