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2020年08月26日22:22

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ふと湧き出る想い

〜ワンピースの女性(ひと)〜

『栞 落とされていますよ』

まだホームの灯も見えないトンネルの中
駅に近づき減速する地下鉄の車内
座って文庫本を読んでいた僕の視界に
爽やかなワンピース姿の女性の姿がその声と一緒に現れた

「えっ?」

本の文字の中で主人公と郊外の街並みを一緒に歩いていたので
何を言われてたのか瞬時には理解できず
自分の座っている姿勢が非常識で注意されたと思った

文庫本から目を離して正面を見ると
その女性は僕の足元の座席の下を指さしている
僕も指をさす方を見ると金色のお気に入りの栞が光っていた
平等院で買った鳳凰が透かしっぽくデザインされた金属性の栞

『落ちる音もしたんですけど
お気づきになられなかったんですね』

彼女は相変わらず反応が鈍い僕を見かねてそう言いながら
大きく開いたワンピースの胸元に片手でバッグをあてがい
中腰からしゃがんでもう片方の手で金色の栞を拾い上げ
僕に手渡してくれた

「あ ありがとうございます」

女性と目が合った
毎朝見ている情報番組のお天気お嬢さんの様な笑顔に
僕も会心の笑顔を返すつもりが
驚きのあまりぽかんと口を開けてしまった

このコロナ禍に
床に落ちた他人の栞を躊躇なく拾ってくれる行為にただただ驚き
そうだせめてもマイポケット消毒スプレーで殺菌をと思った頃には
彼女は地下鉄のホームに降りていた
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