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2019年12月16日00:01

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良い噂

 Emerson Lake & Palmerの曲の一つに”The Barbarian”というのがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=If2akTqCML4

 この曲は、ベラ・バルトークの「アレグロ・バルバロ」という曲を基にしています。
https://www.youtube.com/watch?v=Mk-Qr8U5BZo

 このように、ピアノを打楽器的に弾く曲は、近・現代の作曲家の作品にはよく見られるものですが、自身も名ピアニストであったバルトークはその先駆けをなすものと言ってよいでしょう。この人は、ピアノ協奏曲を3曲遺していますが、ここでも打楽器的打鍵を駆使してその威力を発揮しています。
ピアノ協奏曲第1番https://www.youtube.com/watch?v=97HvdYjOYrY

ピアノ協奏曲第2番https://www.youtube.com/watch?v=KP4c9et6DKI

ピアノ協奏曲第3番https://www.youtube.com/watch?v=l7J7L53b8U0

 その一方で、バルトークが不協和音を活かして紡ぎ出した世界は、時に不気味、不安でありつつ、時に力強く野生的で、映画、フィギュアスケート等で使われています。
ホラー映画の傑作『シャイニング』(1980)の1シーン
https://www.youtube.com/watch?v=M8svwAX5J0g

 使われているのは、『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』です。
https://www.youtube.com/watch?v=SQA2XakFYy4

フィギュアスケートのミシェル・クワンのフリー
https://www.youtube.com/watch?v=9JgjgI2IBmk 

 ここで使われているのは、『中国の不思議な役人』です。
https://www.youtube.com/watch?v=PpYMNBGWjaM

 こうしたバルトークの作風は、ロックアーティスト、とくにプログレ系のアーティストを刺激しました。
King Crimson:” Larks' Tongues In Aspic PartI”
https://www.youtube.com/watch?v=CVb2tnFN5AA

Mahavishnu Orchestra:”Birds of Fire”
https://www.youtube.com/watch?v=gv_bkS5VVaA 

 このように、現代という時代の不安や狂気といったものを描くうえで、バルトークの曲はまさに打ってつけとも言えるのですが、意外かもしれませんが、そのベースにはハンガリー民謡があると云われています。
 ハンガリーといっても、バルトークの生地は今ではルーマニアに組み込まれていますし、バルトークは広くハンガリー以南のバルカン半島一帯を民謡を求めて渡り歩いたようですから(エジソンによって発明されたばかりの瘻(ろう)管に録音したようです)、あの辺りの民謡一般がバルトークの音楽を支えていたと言ってよいでしょう。
 民謡のテイストが最も色濃く表れた曲としては、『ルーマニア民俗舞曲』があります。
https://www.youtube.com/watch?v=cW4AHmTzyMo

 ところで、このバルトークを真の意味で民謡に目覚めさせ、バルトークに先駆けて民謡を採取・研究していた人(後にはバルトークと共に民謡の採取に努めた人)がいました。
 ゾルタン・コダーイです。
 バルトークは、もともと民謡に興味がないわけではなかったのですが、母から西洋音楽(いわゆるクラシック)の手ほどきを受けたところからスタートして、ブタペスト音楽院でも作曲家、ピアニストとして将来を有望視されていた彼にとって、民謡はどちらかといえば余技、趣味の領域に属するものでした。
 ところが、そのバルトークに面と向かって、同音楽院の同級生だったコダーイ(年齢は1つ年下)は、バルトークの作曲様式がロマ(ジプシー)の音楽やドイツの音楽等からの借り物であることを指摘し、彼にもっと自分独自の音楽の世界を作り出すべきだと忠告したそうです。
 バルトークにしてみれば、この忠告は図星を突いていただけにあまり面白いものではなかったはずです。でもある時、バルトークは偶々コダーイがハンガリーの民謡を調査・分析した素晴らしい研究論文を目にして、自分の未熟さにショックを受けると同時に、彼に対して尊敬の念を抱くようになり、以来、ふたりは深い親交を結ぶようになりました。
 バルトークは、コダーイの忠告をよく守り、6つの弦楽四重奏曲や、管弦楽のための協奏曲といった傑作を生み出しましたが、あまりにも完全に民謡を消化して自分のものにして見事に作品として結実させているため、これらを聴いても、おそらくそこに民謡っぽさを感じ取るのは難しいことでしょう。
6つの弦楽四重奏曲https://www.youtube.com/watch?v=xaQvPhVvQaY&list=PLAuaZen6ji_pOs4fIWy7NeQr7QTGpCHn3

管弦楽のための協奏曲https://www.youtube.com/watch?v=WxNsF-1mk-4

 コダーイという人がいなかったら、今日、私たちはこれらの名曲を聴くこともできなかったのかもしれません。まさにコダーイあってのバルトークとも言えたわけです。
 コダーイ自身は、『ハーリヤノーシュ』『ガランタ舞曲』などの名作を遺しています。とくに『ハーリヤノーシュ』は以前、どこかの局の天気予報のテーマ音楽にも使われていたので、聞き覚えのある人もいることと思います(下記動画では4:35あたりからのところ)。
『ハーリヤノーシュ』https://www.youtube.com/watch?v=ym2QvHQNyPU

『ガランタ舞曲』https://www.youtube.com/watch?v=1fI9YmGh68E

 上記バルトークとの逸話でもコダーイという人には、気骨が感じられますが、共産主義政権時代にも、こんな話が遺っています。
 共産主義時代のハンガリーにはラコシという悪名高き闇の権力者がいたのですが、あるときラコシは自由な言動が目立つコダーイを呼び付けてこう言いました。
 「コダーイさん、私は最近あなたについての良い噂を聞いていません」(これは、言外に処刑をにおわせる言葉でした。こう言ってコダーイをビビらせようとしたわけです)。
 ところが、コダーイは一向に動じることなく、「私もあなたについての良い噂を聞いていません」と言い返して、悠々とその場を去ったということです。
 それでも、ラコシが手が出せなかったほど、コダーイの権威は国際的に鳴り響いていたということです。

 今日は137年前にコダーイが生まれた日です。
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