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2019年06月16日20:40

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夜を乗り越える[読書日記730]

題名:夜を乗り越える
著者:又吉 直樹(またよし・なおき)
出版:小学館よしもと新書
価格:820円+税(2016年6月 第3刷発行)
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ご存知、お笑い芸人にして芥川賞作家の又吉直樹さんの文学に関するエッセイです。

表紙裏の惹句を引用します。
“芸人で芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、
 「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。
 また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに
 自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。「負のキャラクター」を演じ続け
 ていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧
 みる、著者初の新書”

「はしがき」で著者は次のようにも言っています。
“「なぜ本を読まなくてはいけないのか?」「文学の何がおもしろいんだ?」「文学って知的ぶりたいやつらが簡単なことを、あえて回りくどく言ったり、小難しく言ったりして格好つけてるだけでしょ?」
 そのような質問に対して、自分なりに時間をかけて逃げずに説明してみようと思います”(4p)

目次を紹介します。
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 はしがき
 第1章 文学との出会い
 第2章 創作について――『火花』まで
 第3章 なぜ本を読むのか――本の魅力
 第4章 僕と太宰治
 第5章 なぜ近代文学を読むのか――答えは自分の中にしかない
 第6章 なぜ現代文学を読むのか――夜を乗り越える
 あとがき
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印象に残った文章を列記します。

【第2章 創作について――『火花』まで】から、時代を象徴する小説について。
“文学史を振り返ってみても、太宰治の『人間失格』にしろ『斜陽』にしろ、その時代を象徴する文学的事件があったと思います。
 石原慎太郎さんの『太陽の季節』、庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』、村上春樹さんの『風の歌を聴け』、そして『ノルウェイの森』。
 上の世代が新しい作品を否定し、同世代より下の世代がその作品を支持する。お笑いでも明石家さんまさんも、ダウンタウンさんもみんなそうだったと思うんです。(略)
 でも(『火花』は)全然そうはならなかった。むしろ年配の方が「わかる。俺の若い頃と同じだ」と言ってくれました。嬉しいけどイメージとは違ったんです。(略)
 僕は新時代の先頭ではなく、残念ながら前時代の最後方なのかもしれません”(106〜108p)

【第3章 なぜ本を読むのか――本の魅力】から、読書本来のおもしろさについて。
“自分の感覚にはまるものがおもしろい。それ以外はおもしろくないというように読んでいくと、読書本来のおもしろさは半減してしまうと思います。読書のおもしろいところは、主人公が自分とは違う選択をすることを経験できることや、今まで自分が信じて疑わなかったことが、本の中で批判されたり否定されたりすることにあると思います”(116p)

【第4章 僕と太宰治】から、太宰治が乗り越えられなかった"夜"について。
“その感覚を持っている太宰が自ら死んでしまいました。
 その夜は、もう運が悪かったとしか言いようがありません。誰かが気づいて止めることができたら、太宰も一緒にいた山崎富栄さんも、もしかしたら数日後にめちゃくちゃ楽しいことが待っていたかもしれない。(略)
 本当に、その夜だけ乗り越えていたらと思います”(193〜194p)

【第5章 なぜ近代文学を読むのか――答えは自分の中にしかない】から、又吉流の文学への想いについて。
“新潮文庫の遠藤周作さんの『沈黙』の帯に「人生に必要なのは悟りではなく迷いだと思います」と書かせて頂きました。
 これが僕が思う文学、本についての気持ちです”(231p)

締めくくりに【第6章 なぜ現代文学を読むのか――夜を乗り越える】から、一節を抜き書きします。
“一部の言葉だけ抜き書きしても小説の素晴らしさはわかりません。それが小説の素晴らしさでもあります。すべてを読んできたからこそ、その一行が刺さります。体験できます”(265p)
私が、この読書日記で小説を取り上げにくいと思っていた本当の理由を教えられた気がしました。

この本で紹介されている何冊かの小説を読みたくなりました。

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又吉 直樹(またよし・なおき)
1980年大阪府生まれ。
株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のコンビ「ピース」として活動するお笑い芸人。
『キングオブコント2010』準優勝。舞台の脚本も手がける。
著書に『第2図書係補佐』『東京百景』、第153回芥川龍之介賞を受賞した『火花』。
共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『新・四字熟語』『芸人と俳人』など。
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