mixiユーザー(id:1795980)

2018年09月09日20:53

107 view

ゴリラは戦わない [読書日記690]

題名:ゴリラは戦わない 平和主義、家族愛、楽天的
著者:山極 壽一、小菅 正夫(やまぎわ・じゅいち、こすげ・まさお)
出版:中公新書ラクレ
価格:800円+税(2017年2月発行)
----------
小菅正夫さん(旭山動物園前園長)の本を2冊読み、続きを探して見つけた対談本です。
対談のお相手は京都大学総長の山極壽一さん。
京都大学総長ながら、アフリカに行ってゴリラを観察する(しかも観察中にメスのゴリラ二頭に囲まれて噛まれたという体験(148p)もされている)行動派の方です。
表紙裏の惹句を引用します。

“ゴリラの世界は、誰にも負けず、誰にも勝たない平和な社会。石橋を叩いても渡らない慎重な性格で、家族を愛し、仲間を敬い、楽天的に生きる。
 人間がいつのまにか忘れてしまった人生観を思い出させてくれる「ゴリラ的生き方」とは何か?
 京都大学総長と旭山動物園前園長が、ゴリラの魅力について存分に語り合った話題の一冊!”

目次を引用します。
 ゴリラの学校 山極壽一
 第一章 ゴリラは人間よりカッコいい!!
 第二章 人間はゴリラに学べ!!
 チンパンジーの「ゴクウ」の話 小菅正夫

冒頭の【ゴリラの学校】から、山極さんが小菅さんを評した文章を引用します。
“小菅正夫さんはとても運のいい人だと思う。それは一つには動物と長年付き合ってきたからだ。
 動物には人間の言葉は通じない。だから、動物たちに関心を持ってもらい、信頼感を増すためには、どうしても「この人間なら大丈夫」という安心感を言葉ではなく、体全体で表現しなければならない。(略)
 小菅さんは長らく獣医として、動物園の園長として、動物と人とが築き上げた信頼のピラミッドの頂点に立ってきたのである。運に恵まれているように見えなければ、それが務まるわけがない”(4p)
ふつう、“運のいい人”という言葉には、運が良かっただけという否定的なニュアンスがありますが、ここでは、「動物に信頼されるには運がいい人である必要がある」と肯定的に語られていることが印象的です。

【第一章 ゴリラは人間よりカッコいい!!】では、山極さんは動物と向き合う際の心構えを示しておられます。
“僕もゴリラの調査を始めた時に思ったのは、意外にこの構えというのは重要だなと思ったんですね。
 相手と接する時に、どういう構えを取るか。
 相手と対面するのか、横を向くか、視線を相手にずっと向けるのか、下を向くのか、上を向くのか、あるいは横を向くのか、みたいにね。そういう構えというのは、やはり相手に、言葉以外のものを伝えていますよ”(66p)

【第二章 人間はゴリラに学べ】から、ゴリラや動物に関する薀蓄を3つ引用します。
1.山極さんがゴリラの食べているブドウ類を口に入れて、エラい目に遭った話。
“山極 僕も、ゴリラが食べているブドウの仲間を口に入れて、エラい目に遭ったことがありますよ。
 ゴリラに食えて人間に食えないものって、やっぱりあるんですよ。
 非常に重要なのは、サルと類人猿は、まったく違う消化器官を持っているということ。サルの胃腸は非常に強いんです”(116p)
ゴリラの食べているものを自分でも食べてみる、というその行動力(というか思い切り)がすごいですね。

2.小菅さんが旭山動物園で働き始めた時に最初に教わったこと。
“小菅 戦っちゃダメだというのは、僕ら飼育係も同じなのですよ。
 僕が旭山動物園で働き始めた時に真っ先に言われたのは、「動物の前で転ぶな」ということ。転んだら「弱い」と思われるからだという話でした”(148p)
動物に「弱い」と思われてはいけないとは、かなりシビアな世界です。

3.ゴリラがヒョウの毛皮を見た時の反応についての山極さんの観察結果。
“山極 あの反応(ゴリラがヒョウの毛皮を怖がる)の原因は、模様なんですね。ヒョウの模様。
 五十年前にヒョウは死に耐えていて、彼らは会ったことがない。だけど、それを見た途端にあんな反応を示すというのは、そういう情報が遺伝子に組み込まれてしまっているんでしょうね”(163p)
見たことがない獣だが、危険だということが分かる、不思議なことです。

私がこれから動物園に就職することは、あり得ない(できない)のですが(笑)、それでも楽しめた本でした。

---------- ----------
山極 壽一(やまぎわ・じゅいち)
京都大学第26代総長。1952年東京都生まれ。
京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程単位取得退学。理学博士。
専門は、人類学・霊長類学。(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長を歴任。
アフリカ各地でゴリラの行動や生態を探っている。

小菅 正夫(こすげ・まさお)
旭川市旭山動物園前園長。札幌市環境局参与(札幌市円山動物園担当)。1948年札幌市出身。
北海道大学獣医学部卒業。在学中は北大柔道部主将で活躍。段位は四段。
73年に入園。一時は閉園の危機に合った旭山動物園を再建し、日本最北にして日本一の入場者を誇るまで育て上げたことで有名。

0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2018年09月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30