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2018年03月17日11:50

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八大龍王伝説【525 元ゴンク帝国領(前)】

 八大龍王伝説


【525 元ゴンク帝国領(前)】


〔本編〕
 ソルトルムンク聖皇国聖皇ジュルリフォンの三月一日の宣言から四日後の同月五日。
 その間に、聖皇とダードムスによる打ち合わせが何度ももたれていた。
 そして、いつもは聖皇とダードムスによる二人きりの打ち合わせが主であったが、この日に限って、もう一人の人物もその場に同席していた。
 三月一日の宣言により、新たに設けられた役職である丞相(じょうしょう)に就任したヒルガムダスその人であった。
 基本、ヒルガムダスは丞相に就任後も、打ち合わせについては、ジュルリフォン聖皇と ダードムスに任せ、自分はその内容のみ必要に応じて報告してもらえば構わないというスタンスをとっていた。
 ダードムスは、宰相と同程度の権限を持つ者として丞相に就任させた人物が、ヒルガムダスで正解であったという認識をさらに強める形となった。
 ヒルガムダスには、宰相ザッドのように聖皇を無視して専横を振る可能性を一切考えなくてすむ。

 そのため、三月一日以降の重要な案件についても、従来通り聖皇とダードムスの二人の話し合いによって決めていたのである。
 それでも今回の件は、丞相に共に打ち合わせに加わってもらう方が良いと聖皇が判断し、ダードムスもそれに賛同したのである。
 ヒルガムダスの意見云々というより、聖皇とダードムス以外の三人目をそこに立ち合っていたという状況とすることが、最良であると聖皇が判断したからであった。

「丞相! 手紙の中身は確認できたかな?」
「ハッ! 陛下! 宰相殿からの書簡につきまして一読させていただきました!」
 丞相のヒルガムダスは、聖皇の言の葉に恐縮しながら答えた。
 今、ヒルガムダスの手の上に一枚の馬皮紙が広げられており、聖皇とダードムス、そしてヒルガムダスの三人が座している真ん中辺りに一羽の鳥の死骸が転がっていた。
 鳥の種類は定かではないが、現在の鳩程度の大きさの小型の鳥であった。
「今までであれば、家臣に早馬などで走らせて書簡を届けていらっしゃったザッド殿でありましたが、今回は鳥を使っての伝令とは……」
「ヒルガムダス様! それだけ宰相殿の周りに、今、宰相殿が信じられる人物がいらっしゃらないという証(あかし)でありましょう。家臣を使って伝令を出せば、その者が途中で寝返った場合に、機密事項が八カ国連合側に漏れることとなります。
 あるいは、聖皇国側の者であっても反宰相側の手に渡り、それを、ザッド宰相閣下を陥れるための道具として使われるかもしれません。また、ザッド殿の魔術能力であれば、瞬間移動を行使して、直接マルシャース・グールの聖皇陛下の元に訪れ、この内容を直接陛下に伝えることも可能ではありますが、その間に、『堅き城』の異名を誇るヘルテン・シュロスが何者かの手引きで堕ちれば、ザッド殿の拠点が失われますし、場合によっては聖皇陛下の命によって、その場で自身が捕えられる可能性もあると、ザッド殿が考えている節があると思われます。
 用心深く、ある意味自身の状況を非常に客観的に俯瞰されておられる宰相殿が、そのような危険を冒すとは考えられません!」
「それ故の伝達手段としての鳥を使ったということか?」
「そのようでございます」
 ダードムスが聖皇の問いにそう応えた。
「鳥とはいっても、これは外の皮だけですな?」
 ヒルガムダスが、その小柄の鳥の死体を改めながら、そう呟いた。
「捕えた鳥の中身を全て抜き取り、その中に書簡を隠したのでありましょう。ヘルテン・シュロスからマルシャース・グールに向かわせるための移動能力は、全てザッド殿の魔術によって行えばよいのでありますから……。おそらくこの鳥は時速千二百キロメートルを超えるスピードで滑空したのでありましょう。ザッド殿の魔術能力を持ってすれば、なんら造作のないこと。
 そして鳥の移動は速度からして、人の目では捉えることはできないでしょう。さらに、なんらかのトラブルで、その鳥が墜落して、誰かに見つかったとしても、一羽の鳥の死骸にしか見えないということになります。さすがは、宰相殿であります」
「ダードムス! 朕はこのような手を用いるザッドのやり口に虫唾が走る! 悪趣味も甚だしい!! この鳥が、知者でありながら人心がついてこないザッドの本質そのものを表している!」
 最後の方の聖皇の言の葉は、ほぼ吐き捨てるような嫌悪感が漂っていた。
「聖皇陛下のお気持ちは十分分かります」
 ダードムスがそう前置きをして話を続けた。
「しかしながら、宰相閣下からの書簡にはいくつか興味深い点がございます。それについて陛下と丞相様を交えて考えていきたいと思っております」
 この三者で打ち合わせをする場合は、一番地位の低いダードムスが議長なような立場で、進行する形となりそうである。

「丞相様も、ザッド殿の書簡をご一読されましたので、要点だけを述べますが……、第一が北西の小国であるジュリス王国の動静ということになりましょう」
 ダードムスのこの言葉に、ジュルリフォン聖皇もヒルガムダス丞相も共に頷いた。
「ジュリス王国の動静を語るにつきまして、一度、元ゴンク帝國領でありました五つの地方について、簡略ながら説明させていただきます。陛下(聖皇)、閣下(丞相)のお二方もご存じの部分が多分にあるとは思われますが、整理することによって、この後の事柄が検討しやすくなると思われますのでご説明させていただきます」
 こう前置きをして、ダードムスが元ゴンク帝國領の現状について語り始めた。

「元々ゴンク帝國の国土は、ヴェルト大陸南東側の地域で五つの地方で成り立っておりました。
 北西側に位置する地方が、ヘルテン地方でゴンク帝國の帝都であったヘルテン・シュロスが置かれ、政治と経済の中心地であり、さらに『堅き城』という意味の名を冠しているヘルテン・シュロスは軍事上も最も重要な拠点であると申せます。
 難攻不落の城として大陸中に知れ渡っているところではございますが、近年、その巨大さ故にヘルテン・シュロス内に十分な兵士が配備されていない場合には、奇襲などにより、意外と簡単に堕ちるなどの弱点も露呈してきているところではあります。
 しかし、それでも十分な守備兵と十分な備蓄品を備えれば、十年あるいは二十年は単独で籠城できるほどの文字通り難攻不落の拠点であります。
 現在は、我が聖皇国の領土となっており、今はザッド閣下と、七聖将の一人黒蛇将軍のグロイアスが、黒蛇軍と共に駐屯しております。
 続いて、ヘルテン地方から南に広がるのが五地方のうちで最も面積が広いフエテン地方で、穀倉地帯が広がっており、ここも我が聖皇国領であります。
 元ゴンク帝國の五地方のうち、ヘルテン、フエテンの二地方を聖皇国の領土であり、これが元ゴンク帝國の西半分に当たります。
 そして、海岸線のある東半分に残りの三地方があり、北から南に地層のような形で三つに分れております。
 この東側の三地方が、ミケルクスド國、ジュリス王国そしてバルナート帝國の三國のそれぞれの領土となっております」
 ここまでのダードムスの説明に、聖皇と丞相は共に大きく頷いた。



〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
 グロイアス(ソルトルムンク聖皇国の黒蛇将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ヒルガムダス(ソルトルムンク聖皇国の丞相)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 フエテン地方(元ゴンク帝國の一地域)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 ヘルテン地方(元ゴンク帝國の一地域)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)

(その他)
 七聖将(七つの軍制度。ソルトルムンク聖皇国の軍制度)


〔参考二 大陸全図〕
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