欲望の資本主義［読書日記654］

題名：欲望の資本主義 ルールが変わる時
著者：丸山 俊一（まるやま・しゅんいち）＋NHK「欲望の資本主義」制作班
出版：東洋経済新報社
価格：1500円＋税（2017年4月発行）
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新聞の書評で見つけた経済学の本です。
元はNHKの番組「欲望の資本主義」での取材を本にしたもの。
世界的に著名な経済学者・企業人の３氏にインタビューした結果がまとめられています。

目次を紹介します。
　序　文　トップランナーたちとの対話が生む多様な視点　安田洋祐
　第１章　　「アダム・スミスは間違っていた」
"近代" 経済学の巨人・スティグリッツ
　第２章　　「資本主義は成長がマストではない」
異端の奇才・セドラチェク
　第３章　　「資本主義は完璧じゃない。労働のない社会が来る」
未来をクールに見る投資家・スタンフォード
　特別対談　「成長資本主義が世界の不安定化を招いている。GDP至上主義と訣別せよ！
セドラチェク × 小林喜光

【序文】でインタビューアーの安田洋祐氏（大阪大学大学院経済学研究科 准教授）は次のように書いています。
“本書のもととなったNHK『欲望の資本主義 〜ルールが変わる時〜』では、こうした人々の（グローバル資本主義や市場原理主義の問題に対する）疑問や不安を真摯に受けとめ、答えにつながるヒントをたくさん提示したい、との思いでナビゲーターを務めさせて頂いた。
　「答え」そのものではなく「ヒント」なのがミソである。教科書のように、主流派の経済理論だけを "正しい" 答えとして押し付けるのではなく、さまざまな見方・考え方をできるだけ紹介する”（4p）

インタビューした３氏の紹介と、印象に残った発言は次のとおりです。
１．ジョセフ・E・スティグリッツ（Joseph E. Stiglitz）：
　コロンビア大学教授（2001年ノーベル経済学賞受賞）
　アメリカ大統領経済諮問委員会委員長、世界銀行チーフエコノミストなどの要職を歴任。

　《印象に残った発言》
“今後は（経済）成長の本質を変えていかなければなりません。すでに明らかになっていることですが、天然資源を際限なしに消費し二酸化炭素を大量に排出するような、物質至上主義の経済に持続性はありません。
　そんな成長はあり得ないのです。
　しかし、違う形での成長は可能だと思います。例えば、サービス産業なら環境への悪影響がはるかに小さい。自動車産業や他の製造業のように環境を破壊しません”（26p）

２．トーマス・セドラチェク（Tomas Sedlacek）：
　マクロ経済担当 チーフエコノミスト
　24歳でチェコ初代大統領の経済アドバイザーに抜擢。
　ベストセラーになった『善と悪の経済学』は世界15ヵ国語に翻訳。

　《印象に残った発言》
“教育水準が高く優秀な経済学者がいて、潜在能力がとても高い、例えば日本のような国でさえ、借金の返済に四苦八苦している。
　私たちの文明は「安定」を売ってしまったんですよ。「成長」を買うためにね。
　そして、問題なのは、これまではなんとかやってこられてしまったことです”（115p）

３．スコット・スタンフォード（Scott Stanford）：
　シェルパ・キャピタルCEO
　元ゴールドマン・サックス社員。2013年ベンチャー投資企業を設立。

　《印象に残った発言》
“イーロン・マスク（米国人起業家。電気自動車メーカー［ステラ・モーターズ］の創始者）は、「場所によっては自分の車を運転するのが違法になる日が来るだろう」と予測しています。（略）
　イーロン・マスクが正しいとすれば、将来、高速道路のレーンに「自動運転車以外進入禁止」なんて標識が立つ日が来ます”（193p）

「資本主義経済は終わりつつある論」を肯定する学者、一部否定する経済人など、今の経済と未来の経済について、ぼんやりと考える機会になった本でした。

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丸山 俊一（まるやま・しゅんいち）
NHKエンタープライズ 制作本部番組開発 エグゼクティブ・プロデューサー
1962年長野県生まれ。慶応義塾大学卒業後、NHK入局。
「英語でしゃべらナイト」「爆問学問」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」などを企画開発、現在も「ニッポンのジレンマ」他、数多くの異色教養番組をプロデュースし続ける。
早稲田大学、東京藝術大学で講師を兼務。著書に『すべての仕事は「肯定」から始まる』（大和書房）他。