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2017年04月09日08:50

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〔小説〕八大龍王伝説 【473 飛兵軍団成立の経緯(中)】


 八大龍王伝説


【473 飛兵軍団成立の経緯(中)】


〔本編〕
 ヴェルト大陸の地は、その地域々々で、産出される生植物又は鉱物に大きな偏りが見られる。
 鉱物は中央から南方の地からはあまり産出されない。
 おそらく、その一帯は武器を作るための材料として、鉱物そのものを得るために掘り尽されたか、或いは食物を確保するための畑などを整地する為に排斥されたかもしれない。
 そして動物に代表される生物は、その生態により活動分布が異なってくる。
 国境線も何もないまっさらな大陸の状態であれば、動物の分布エリアがそれぞれにあるにせよ、それ以上の問題はないが、そのヴェルト大陸に八つの國が存在することにより、それぞれに國が国境線を引いてしまうと、いきなり事情は複雑になってくる。
 例えば、このヴェルト大陸で最も強力な種族と言える存在はむろん竜である。
 尤(もっと)も竜族はその強力さから天敵が存在しないため、進化する必要性が見出されることなく、特に智なる能力については退化した。
 圧倒的な力で全てが解決できる故に、智や技は疎かにされ、当然の帰結として文化や文明が発達する可能性の芽は全く育たなかったのである。
 その竜族と同じ時代に存在した、ある脆弱(ぜいじゃく)な種族がいた。それが、我らの祖先にあたる人族である。
 個々の力は竜族のそれと比べると、吹けば飛ぶほどに微弱な力である人族は、それを補い生き残るために、出来得ることは全て実行に移した。
 それによって、人族の智能は加速度的に進化し、足りない膂力を補う技量が発達し、それが文化文明を育てる土壌を育み、人族は爆発的にその数を増やしたのである。
 竜族のような個々の強大な力に対抗するために、数量を揃えたのである。
 いずれにせよ数千年或は数万年の年月を経、紆余曲折がありながらも、竜族は人族に徐々に追われることとなり、ついにヴェルトの地のわずか数地域に竜族の大半が追い詰められたのである。
 そのわずかな数地域の土地の中でも、比較的大規模なエリアが二つ程ある。
 一つが元ゴンク帝國にある山脈である『竜の山脈(ドラッヘゲビルデ)』。
 そしてもう一つがミケルクスド國のナグモス地方にある広大な高原地域のワイヴァーンパレスである。
 このドラッヘゲビルデとワイヴァーンパレスの二か所に、ヴェルトの地の九割方の竜が生息していると言っても過言ではない。
 実際にこの二つのエリアをそれぞれ有しているゴンク帝國とミケルクスド國は小国といえども、ソルトルムンク聖王国やバルナート帝國といった大国とも、対等な立場で国交を展開させていた。
 いずれにせよ竜の価値は、この二小国によって左右され、またそれぞれの國の取得できる数も自ずと制限されていた。
 特に飛竜の希少性は、小型竜のドラゴネットや巨竜であるバハムートの比ではなかった。
 おそらくは、現存する馬に近い品種の動物である『ホース』の百倍の価値は持っていたと思われる。
 なぜなら、飛竜であるワイヴァーンの約七割がミケルクスド國のワイヴァーンパレスで生息しているからである。
 実際のところ龍王暦一〇六一年現在、八年前の龍王暦一〇五三年に当時のソルトルムンク聖王国がゴンク帝國の帝都であるヘルテン・シュロスを不当に占拠して、ゴンク帝國帝王ニーグルアーサー及び王弟のバルディアーサーの身柄を拘束したことにより、ゴンク帝國は事実上滅び、竜の山脈ことドラッヘゲビルデは、ソルトルムンク聖王国の手中に落ちたのは、読者の皆様の周知であるとは思われる。
 これにより、ソルトルムンク聖王国は強大な軍事力に加えて、ドラゴネットやバハムートといった竜を数百頭のレベルで確保することが可能になったのである。
 むろん、竜の山脈ことドラッヘゲビルデ全体が聖王国のモノになったわけではない。
 この場合の聖王国のモノという表現は、聖王国という一國のことではなく、人という種族のモノという意味合いである。
 竜の山脈は八つの山によって構成されているが、そのうち人が立ち入りを許されているのは、第一の山と呼ばれるエーアストベルクから、第四の山と呼ばれるフィーアトベルクまでである。
 その先の第五の山であるフィンフトベルクから、最深部で最も最高峰の山である第八の山であるアハトベルクまでは、人が立ち入ることが許されていないドラゴンの王国のようなところである。
 それでも、実際に第一から第四までの四つの山では、人はドラゴンを自由に手に入れることが可能なので、聖王国もドラゴンを自由に手に入れることができるようになった。
 おそらく竜の山脈を領土とするまでのソルトルムンク聖王国が入手できた竜の量――他地域での捕獲や、養殖といった手段に加えてゴンク帝國やミケルクスド國からの外交的な輸入という方法の全てで入手できる竜の量――、に対して十倍以上の量の竜を入手できるようになったのである。
 それも、養殖といった時間と手間のかかる方法や、輸入といったゴンク帝國やミケルクスド國が提示するほぼ言い値のような高額な金額を支払う必要が無くなったので、その費用は、十倍の量の竜を得られるような環境になったにも関わらず、むしろ竜に対する予算は、それまでの三分の一で賄えるようになったのである。
 この時代、ソルトルムンク聖王国は常にどこかの國と戦争を行っていた状態だったので、国家予算の十分の一程度を軍事費用に充てており、その軍事費用のまさに四分の一を、竜を入手し、かつ戦力として育成するのに使用していたのである。
 その予算が三分の一になるということは、残りの三分の二を他の予算に振り替えられるという非常に好ましい状況になったのである。
 実際にマクスール将軍率いる金竜軍の編成を加速度的に早めたこの事情は、ソルトルムンク聖王国の軍事力を飛躍的に増大させた。
 しかし、そのような中状況下でも誤算が全くなかったわけではなかった。
 その誤算は唯一といえるように一つだけなのであるが、その内容の意味合いにおいては、非常に深刻なものであった。
 それはこの先、最も活用が期待されていた飛竜ことワイヴァーンを、ドラッヘゲビルデにおいては、ほとんど入手することが出来なかったという点である。
 むろん、竜の山脈と謂われているドラッヘゲビルデである。
 多種多様な竜が生息しており、むろんワイヴァーンも数多く生息しているのは事実であった。
 しかしながらドラッヘゲビルデの飛竜の大半は、高さ四千メートル以上の地に生息していたのである。
 この事実については、飛竜の生態を詳しく知っている、例えばミケルクスド國の要人でしか知り得ない事実であったのである。
 むろん、ソルトルムンク聖王国の人々は基本知らない事柄であり、黒宰相ザッドについても例外ではなかった。
 そして、八つの山脈で成り立っているドラッヘゲビルデのうち、標高四千メートル以上の山は三つだけである。
 標高四千メートルの第五の山(フィンフトベルク)、標高五千メートルの第七の山(ズィープトベルク)、そして標高八千メートルの第八の山(アハトベルク)の三つである。
 つまり、人が足を踏み入れることを許されている第一から第四の山で、最も高いのが第四の山(フィーアトベルク)で標高が三千メートルであったのである。
 つまり、標高四千メートルには至らない高さなのである。
 そして、結論から言うと元ゴンク帝國を事実上滅ぼし、竜の山脈と呼ばれるドラッヘゲビルデをソルトルムンク聖王国は手に入れたにも関わらず、飛竜であるワイヴァーンの獲得は数匹程度であったのである。
 ごくごく稀に、標高三千メートルの第四の山に生息している変わり種のワイヴァーンが、その数匹にあたったのである。
 そしてこの数匹程度という数は、一年間にミケルクスド國との外交によって輸入できるワイヴァーンの数より少ないのが実態であった。
 これはかなり大きな誤算であり、実際のところ黒宰相ザッドによる大きな失態であった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相)
 ニーグルアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王)
 バルディアーサー(ゴンク帝國の王弟であり将軍。故人)
 マクスール(ソルトルムンク聖皇国の金竜将軍)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國。龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖皇国に改名)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)

(地名)
 アハトベルク(竜の山脈の一つ。『第八の山』とも呼ばれる)
 エーアストベルク(竜の山脈の一つ。『第一の山』とも呼ばれる)
 ズィープトベルク(竜の山脈の一つ。『第七の山』とも呼ばれる)
 ナグモス地方(ミケルクスド國の一地方)
 フィーアトベルク(竜の山脈の一つ。『第四の山』とも呼ばれる)
 フィンフトベルク(竜の山脈の一つ。『第五の山』とも呼ばれる)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 竜の山脈(ゴンク帝國東部に位置する八つの山が連なっている山脈。ヴェルト大陸一のドラゴンの生息地でもある。『ドラッヘゲビルゲ』とも言う)
 ワイヴァーンパレス(ミケルクスド國に広がる標高五千メートル級の高山地帯。ワイヴァーンが数多く生息することから、この地名がついたとも謂われる)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(その他)
 金竜軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。マクスールが将軍)
 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
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