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2017年04月02日15:31

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〔小説〕八大龍王伝説 【472 飛兵軍団成立の経緯(前)】


 八大龍王伝説


【472 飛兵軍団成立の経緯(前)】


〔本編〕
 エアフェーベンは身長一九〇センチメートルの長身の上、痩身(そうしん)であった。
 龍王暦一〇五〇年のグラフ将軍配下の小隊長時代は騎兵であったが、龍王暦一〇五四年当時に六聖将のうちの紫鳳将軍に就任したことにより、飛兵になるための訓練も始めたのである。
 意外かもしれないが、飛兵を中心とした軍の将軍が、実は紫鳳将軍に就任するまで飛兵として戦った経験がなかったのである。
 実際に紫鳳軍は飛兵中心の軍として誕生したとはいえ、実際に軍の中の飛兵の割合は三割程度なので、司令官にあたる将軍職に対して、必ずしも飛兵であるべき必然性は求められなかったのかもしれない。
 飛兵の特性を理解して、その飛兵を効率よく軍事運用できるのであれば、必ずしも指揮官が飛兵である必要はない。
 むしろ、大局的な意味合いで飛兵と飛兵の運用方法を理解することができ、それを実行に移すことができるといういわゆる指揮能力の方に重点が置かれたのであろう。
 いずれにせよ、将軍となってから飛兵としての訓練も行ったエアフェーベンであったが、龍王暦一〇六一年現在の飛兵としての兵種はホークナイトであった。
 ホークナイトは兵種としては第二段階(セカンドランク)である。
 最も、槍を扱う兵としてのランスポーンが第一段階(ファーストランク)で、ランスポーン自体は地上を足で移動する歩兵であるため、ホークナイトは第二段階とはいえ、空を飛ぶ兵としては実質的には第一段階であると言えるであろう。
 エアフェーベンに飛兵としての才能が無かったか否かは、この場合はいかんとも判断できない。
 なぜなら、将軍職についている者が、下っ端の兵のように、兵種のランクアップをめざす訓練や精進のみに勤(いそ)しめるはずがなく、他にすべき事柄が山積しているはずだからである。
 それに一部の天才を除き、一つの兵種を極めるのには一生かかる。或いは一生のうちに極められない者が大半であるため、一段階(ランク)アップするのに、十年或いは二十年の年数を費やすのが普通である。
 バルナート帝國の白虎騎士団軍団長のライアスや、ミケルクスド國の王妹のユングフラ姫が複数の兵種において高い段階(ランク)を極めているのは、彼らが天才だからであって、そのような者の方が極めて稀(まれ)な存在なのである。
 いずれにせよ、紫鳳軍自体は七年前の龍王暦一〇五四年に成立はしたが、実際に飛兵中心の軍としての形を成したのは、二年前の龍王暦一〇五九年であって、紫鳳軍は五年の歳月を費やして、初めて正式に成立したといって過言ではない。
 むろん、一万という兵の数は、設立当初の龍王暦一〇五四年から整ってはいたが、設立当初は五百に満たない数の飛兵しか存在しなかったのである。割合は一万の兵に対して五パーセント未満ということになる。
 これは紫鳳軍そのものが、六聖将制度が設立された翌年にあたる龍王暦一〇五五年に元クルックス共和国の影の支配者である共和の四主の反乱の際に、軍隊として実際に活躍したドンク将軍の銀狼軍、ボンドロートン将軍の碧牛軍、そしてグロイアス将軍の黒蛇軍のように活動できる軍隊ではなかったということである。
 これは当然、個々の将軍の力量云々の問題ではなく、軍の性質の問題であった。
 この六聖将制の六つの軍は、それぞれに極めて個性的な特徴を持たせている。
 紫鳳軍が飛兵中心の軍であると同様に、ドンク将軍の銀狼軍は陸上における機動力を極めた騎兵中心の軍。
 ボンドロートン率いる碧牛軍は、圧倒的な破壊力を有する軍。つまり、重槍兵であるアーマーナイトやメタルナイト、また怪力無双の者が連なるグラディエーター系の兵によって編成されている。
 そして、銀狼軍の騎兵系や、碧牛軍の重槍兵系や、グラディエーター系のパワーに特化した剣や斧の戦士は、既に六聖将制度が設立する以前から聖王国の兵の中に数多く存在しているため、ものすごくシンプルに表現すれば、聖王軍全体の兵の編成や配置換えによって、成立が可能な軍なのである。
 だから、六聖将制度成立の翌年のクルックスの反乱鎮圧に動員することができたのである。
 実際問題として、クルックスの共和の四主の反乱で動員できた銀狼、碧牛、黒蛇以外は、今までの兵の再編成だけではそれぞれの特質を有する軍として成立することはできず、それぞれに特化した軍としての運用は不可能であったのである。
 マクスール将軍の率いる金竜軍は『竜』を主体とした軍なので、人が乗用できる小型竜であるドラゴネットや、竜戦車(ドラゴンタンク)を駆る巨竜であるバハムートの調達及び訓練が必要であり、またスツール将軍率いる蒼鯨軍は、海馬(ユニコーン)や水竜(シーサーペント)の調達及び訓練がそれぞれ必要であったため、両軍の実質的な運用に至るまで、六聖制度成立から数えて二年から二年半程度要したのである。
 実際に今は滅亡している南の弱小国であるフルーメス王国攻略にあたり、フルーメスの当時の王であったヅタトロに、戦争の発端となった詰問書が届くのが龍王暦一〇五七年になってからであるが、これは水軍である蒼鯨軍の運用の目途(めど)がある程度立ったからであるという見方が、一つの要因であろうと思われる。
 マクスールの金竜軍においては、実際にまだ龍王暦一〇六一年である今においても、大規模な軍事行動は行ってはいないが、その当時の馬皮紙に記された記録によると、龍王暦一〇五八年初旬に竜を揃えた最強の軍としての整備が整ったと記載されている。
 概ね金竜軍設立から三年以内に軍備が全て整ったと考えていいであろう。
 しかしながら紫鳳軍に関しては、金竜軍よりさらに二年近く遅れること龍王暦一〇五九年末まで軍備に時間を要している。
 むろん、これはくどいようであるが、指揮官である将軍の能力の差ではなく、単純に水軍(蒼鯨軍)や竜軍(金竜軍)を整えるより、さらに空軍(紫鳳軍)を整えるために必要な時間を要したということである。
 空を飛べる動物及び竜を調達することが非常に困難なのである。
 この当時、一種類の兵を育て上げるのに、どのくらいの時間と費用を要するかについて、確たる文書は一切残されていない。
 それでも散在している種々の記録や約定などの文書、或いはその当時の噂や常識といった口伝として残ってきた言い伝え等をまとめてみると、それぞれの動物を実際に調達するのに必要な費用等が自ずと分かってくる。
 例えば、ホース――ヴェルト時代の動物で、現在の馬に非常によく似た動物で、騎兵を編成するのに欠かせない動物であるが――、その調達費用が、二百五十人規模を組織する大隊長クラスの者が一年間に得るであろう収入分相当であると言われている。
 もちろん、超古代の戦国時代のような時代の人々がどのような収入を基本得ているのかは全く見当がつかないが、それでも現代の中堅クラスの四十代の会社員――例えれば課長級程度の年収と考えると、およそ四百万円から六百万円程度。
 その金額をホース一体辺りの調達費用ととらえた場合、当然、小型竜であるドラゴネットや、大型のいわゆる『ドラゴン』と称されるバハムートなどは、その数倍から十倍以上の費用を要したのではないかと想像できる。
 むろんこの費用そのものは、その動物や竜そのものの価値にプラス希少性も大いに関わってくるであろう。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖皇国の紫鳳将軍)
 グラフ(元ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍)
 グロイアス(ソルトルムンク聖皇国の黒蛇将軍)
 スツール(ソルトルムンク聖皇国の蒼鯨将軍)
 ヅタトロ(フルーメス王国の元王。四賢帝の一人)
 ドンク(ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍)
 ユングフラ(ラムシェル王の妹。当代三佳人の一人。姫将軍の異名をもつ)
 マクスール(ソルトルムンク聖皇国の金竜将軍)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國。滅亡)

(兵種名)
 第一段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番下のランク。ファーストランクとも言う)
 第二段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から二番目のランク。セカンドランクとも言う)
 ランスポーン(第一段階の槍兵)
 ホークナイト(第二段階のジャイアントホークに騎乗する飛兵)
 アーマーナイト(第三段階の重装備の槍兵)
 メタルナイト(最終段階の重装備の槍兵。金剛槍兵(こんごうそうへい)とも言う)
 グラディエーター系(技量よりパワーを重要視した剣兵の系列。グラディエーター、バーバリアン、バーサーカーがそれにあたる。バーバリアン以上になると、得物に剣よりさらに重量のある戦斧を持つ者も多い)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)
 シーサーペント(十六竜の一種。水中を高速で移動する竜。『水竜』とも言う)

(その他)
 共和の四主(クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫(れいき)、炎の童子、山の導師の四人)
 金竜軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。マクスールが将軍)
 銀狼軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ドンクが将軍)
 黒蛇軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。グロイアスが将軍)
 紫鳳軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。エアフェーベンが将軍)
 将軍(軍組織の最高位)
 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
 大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ライアスが軍団長)
 碧牛軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ボンドロートンが将軍)
 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
 ユニコーン(ホース系で水上を移動できる動物。『海馬(かいば)』とも言う)
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