題名：日本型リーダーはなぜ失敗するのか
編者：半藤 一利（はんどう・かずとし）
出版：文春新書
価格：780円＋税（2012年11月第3刷発行）
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半藤一利氏が論じるリーダーシップ論です。
目次を紹介します。
前口上
第一章 「リーダーシップ」の成立したとき
第二章 「参謀とは何か」を考える
第三章 日本の参謀のタイプ
第四章 太平洋戦争にみるリーダーシップ��.
第五章 太平洋戦争にみるリーダーシップ��.
後口上
表紙の見返しにある惹句を引用しましょう。
“日本型リーダーはなぜ失敗するのか
決断できない、責任をとらないリーダーはなぜ生まれてしまったのか。エリート参謀の暴走を許したものは何か。
ご存知 "歴史探偵" が日本のリーダーの源流をたどり、太平洋戦争での実際の指揮ぶりをつぶさに点検。今こそ歴史に学ぶ姿勢が問われているのです”
この惹句で“今こそ”が強調されているのは、刊行した2012年（東日本大震災の翌年）の当時の政府の右往左往ぶりを嘆いてのことでしょう。
この本にも、それを思わせる一節があります。
《後口上》から、その部分を写します。
“いまの政官財の無責任体制はほとんど昭和戦前と変わらないようです。「想定外」という言葉は、「無責任」の代名詞なのです。このことに対する根本的な反省のないかぎり、３・１１以後の日本の再建はありえないと思います”（258p）
さて、著者は日本型リーダーの特異性として、組織のトップではなく、参謀が重視されてきたことを挙げています。
《第二章 「参謀とは何か」を考える》から引用します。
“近代日本の軍隊は、日本型リーダーシップを確立し、意思決定者がだれであるかをよく見えなくし、責任の所在を何となく曖昧にしてきました。指揮官には威厳と人徳があればいい。実質的にリーダーシップを発揮するのは参謀だった。それで参謀というものがとくに重視された。というわけで、参謀という「重責」を担う者たちを養成するためにつくられたのが、すなわち陸軍大学校と海軍大学校です”（82p）
参謀重視の弊害を《第五章 太平洋戦争にみるリーダーシップ��.》で次のように総括しています。
“長い間、歴史探偵として昭和史と太平洋戦争の歴史的事実を探しているうちに、どうも国家を敗亡に導いたのは、これぞというリーダーがいなかったためではないかと思い当たります。
なぜか、と考えるまでもなく、そもそもが日露戦争の大勝利の栄光にあったとわかります。日露戦争という日本近代史に燦然と輝く栄光を背負って、というより、その栄光を汚さないために、参謀まかせの「太っ腹リーダー像」が生み出された。
この "威厳と人徳" の将を支えるために「参謀重視」が金科玉条の教えになった。結果として、下剋上というよりは、「上が下に依存する」という悪い習慣が通例となる。（略）
これでは本当の意思決定者、ないしは決裁者がさっぱりわからなくなる”（253p）
“本当の意思決定者がさっぱりわからなくなる”は、今年発覚した豊洲市場の盛り土問題を予言したかのような名言ですね。
話は変わりますが、著者は第二章で太平洋戦争当時の米海軍の画期的なスタッフ交代制度について言及しています。
“ニミッツ（アメリカの太平洋艦隊司令長官）は、猪突猛進型のハルゼイと緻密慎重派のスプルーアンスという好対照な指揮官に、大機動部隊を代わるがわる指揮させることになります。
ハルゼイ麾下では第三艦隊、スプルーアンスのときには第五艦隊とその名を変え、数ヵ月ごとに司令官以下スタッフごと全員入れ替えて、休養をとらせ、つぎの作戦にそなえさせた。
これなど日本側には想像もつかない米海軍独特のシステムでした。ですから、日本海軍はまったく別の二つの大機動部隊があるのかと誤判断していました”（95p）
こういった歴史探偵が掘り出した逸話が多く盛り込まれている点も、本書を面白くしています。
戦史に詳しい半藤氏はリーダーシップ論を具体的な戦いの例を挙げて説明しており、説得力がありました。
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半藤 一利（はんどう・かずとし）
1930年、東京都生まれ。
東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長、取締役などを経て作家。
主著に『日本のいちばん長い日』『漱石先生ぞな、もし』（正続、新田次郎文学賞）、『ノモンハンの夏』（山本七平賞）、『[真珠湾]の日』『聯合艦隊司令長官 山本五十六』（以上、文藝春秋）、『昭和史』（上下巻、毎日出版文化賞特別賞）、『日露戦争史１』（以上、平凡社）、『幕末史』（新潮社）。
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