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2015年12月26日16:28

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〔小説〕八大龍王伝説 【402 八大童子と多頭龍】


 八大龍王伝説


【402 八大童子と多頭龍】


〔本編〕
 さて、久しぶりに天界に話を戻そう。
 光獅子一〇五三二ノ日――つまりバツナンダが天界のジュウリ地方の領主イチリの家で、息を吹き返した日にあたるが、その日はまる一日を費やし、地上界のヴェルト大陸の動きについて、イチリ本人から語られていた。
 光獅子一〇五三二ノ日は、ヴェルト大陸の暦にあたる龍王暦では一〇五九年一月日にあたる。
 ソルトルムンク聖皇国の暦では聖皇暦三年一月日にあたる。
 『月日(がつにち)』という表現は、天界の一日が地上界の一月に相当するためのそれを表現する便宜上の言語である。
 この前年の龍王暦一〇五八年八月に、千年前当時のバツナンダが建国したフルーメス王国が滅亡した。
 現在のバツナンダにとって直接的な関係はないが、それでも建国神であり守護神としてバツナンダを祀り続けるフルーメス王国が滅んだことは、それなりに大きなショックであった。
 バツナンダがアナバタツタに破れたのが龍王暦一〇五三年三月日。
 天山の麓にシャカラと共に辿り着いたのが、その前年の龍王暦一〇五二年八月日。
 つまりバツナンダが天界に到着して七十七日間。人間界においては六年五ヶ月が経過しているのである。
 バツナンダとしては、何をどうすればいいのかの目標を失いつつあった。
「翁(イチリ)! 私は何をすれば……?」
「それにつきましては、八大童子のお一人であられる阿耨達(アノクタツ)童子様にお尋ねいただいたほうが……、ああ、アノクタツ様がちょうど戻ってまいりました」
 イチリの言葉に、紫色の肌をした一人の青年がにこやかにバツナンダの前に現れた。
「初めまして、僕が阿耨達(アノクタツ)童子と言います。バツナンダ様、よくぞご無事で……」
 アノクタツと名乗った神はニコニコしながら、バツナンダに握手を求めた。バツナンダも戸惑いながらも、その握手に応じた。アノクタツの紫色の手は冷たかった。
「ありがとう。アノクタツ殿。私を助けてくれたそうで……」
「いえいえ、礼には及びません。マナシに監禁されているウバツラ様を救おうとなさっているバツナンダ様をお助けするのは、ウバツラ様に仕えている八大童子としては当然の責務。バツナンダ様は、長い時間が経過したことによって、本来の目標を失っているご様子。それでは、先ずは現状をお聞かせいたしましょう」
「その前に……」
 バツナンダが口を差し挟んだ。
「八大童子とはそもそもどういった存在なのだ。私はその存在に全く気づかなかった」
「分かりました。バツナンダ様。それではその説明からいたしましょう」
 そう言うと笑みを絶やさずアノクタツが八大童子についての説明を始めた。
「まず、お断りしておきますが、バツナンダ様が今まで八大童子の存在を知らなかったからといって、何も恥じることではございません。なぜなら、我々八大童子は、本来は表に一切出てこない、第八龍王ウバツラ様の影の存在だからでございます」
「表に一切出てこない? それは具体的にはどういったわけだ?!」
「言葉の通りでございます。我々、八大童子は実体を持っていません。八大龍王の筆頭龍王にお仕えする影の存在なのです」
「?! そうはいうが、お主は今、実体を持っているではないか?!」
 バツナンダをして、理解を超える内容の話になってきた。
「この身体は実体のように見えて、実体にあらず。一言で表現するには無理があるかもしれませんが、この僕の身体は、八(や)の頭(かしら)の多頭龍――アハトコプフヒドラの頭の一つなのです」
「ヒドラ?! あの十六竜の中でも最も稀有な存在である多頭竜か? 二つ首とか三つ首とかの竜のことか?!」
「はい。バツナンダ様。しかし、ウバツラ様の連れていらっしゃる竜は、もちろん神格の域におりますので龍ですが、それは金色の龍体に八の頭を持った多頭龍(ヒドラ)です」
「そのようなモノが存在するのか?!」
「おそらく、神々の世界を見回しても一匹のみでしょう。既に五千年生きているという話ですが、実際にはそれ以上かもしれません。兎に角、僕達八大童子は、そのアハトコプフヒドラの頭の一つ一つがその童子なので、おそらくはウバツラ様とその周辺の者以外は誰も窺い知ることはできなかったのでしょう」
「ヒドラの頭の一つ一つが童子殿?!」
「驚くのも無理はないかもしれませんが、ヒドラの頭一つ一つが自らの意思を有しています。つまり、八の意思を持った龍というわけです。そして、普段はヒドラ本体に属しておりますが、自由意思によって、ヒドラ本体から離れても行動することが可能です。その時は、実体の器として人型の体をヒドラから受けることが可能です」
「それでは、そのアノクタツ殿の今の身体は?」
「そうです。こちらが仮の姿なのです。しかし、仮の姿と言っても、神の姿を投影して作られているものなので、神と同じ姿を有しているというわけです。その神とは……」
「……八大龍王!」
 バツナンダのこの言の葉にアノクタツは頷きながら言った。
「その通りでございます。それも歴代八大龍王の中で最も優れている方の身体を投影して、アハトコプフヒドラの中に記録されています。そして、僕――アノクタツの人型は、今より一代前のアナバタツタの投影された身体なのです」
「アナバタツタ――唯一の龍王のアナバタツタか。それは偶然なのですか?」
「いえ、八大童子の第六番目の童子であるこのアノクタツでは八大龍王第六龍王のアナバタツタ様の投影したうつし身しか、器にできません。そのような約束事で成り立っているこの身なのです。しかし、このうつし身は投影といえども、その投影の本人と寸分の違いのない能力を出すことが可能です。つまり、最も優れているアナバタツタのうつし身である僕――アノクタツは今のアナバタツタより優れているということです」
「そうなのですか。では、仮とはいえ常にその身体でい続けたほうが、何かと便利ではないのですか?」
「バツナンダ様のおっしゃりよう、良く分かります。しかし、この姿にもデメリットがございます。一番は、この姿の間は、僕の寿命が十倍の速さで消耗するのです」
「寿命が十倍の速さで消耗?! それでは……」
「はいバツナンダ様のお察しの通り、僕達八大童子の寿命も五百から六百歳程度ですが、それはアハトコプラヒドラの本体にいる場合で、ずっとこの神の姿であれば、寿命は五十年程度ということになります。しかし、今は僕の主(リーダー)の危機。そんな寿命などの瑣末なことに構っている暇はありません!」
 アノクタツは大きく頷いた。
「とにかく、バツナンダ様としては、僕に聞きたいことが山ほどあると思いますが、今は一刻を争う時。ウバツラ様奪還にお力をお貸しください」
「アノクタツ殿! それはこちらも同じです。ところでウバツラはどこに監禁されているのですか?」
「それは、天山の中腹付近で間違いないと思います。八大童子による調査の結果ですが……」



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 アハトコプフヒドラ(第八龍王ウバツラの守護龍。八つの頭を持つ多頭龍。八(や)の頭(かしら)の多頭龍とも言う)
 アノクタツ(八大童子の一人)
 イチリ(天界のジュウリ地方の地方領主)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 ジュウリ(天界の一地方)
 天山(天界唯一の山)

(竜名)
 ヒドラ(十六竜の一種。複数の首を持つ竜。『多頭竜』とも言う)

(その他)
 八大童子(ウバツラ龍王の秘密の側近)
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