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2015年11月14日09:27

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〔小説〕八大龍王伝説 【396 弱小フルーメスの意地(十三) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(中)〜】


 八大龍王伝説


【396 弱小フルーメスの意地(十三) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(中)〜】


〔本編〕
「ノイヤール殿。さすがにそれは言い過ぎではありませんか?!」
「いえ。ええっと……ロイル殿とおっしゃりましたかな? これは妄想でもなんでもなく、極めて現実的な話です。そして差し出すモノがあって、手に入れるモノが成り立つという、相関関係を持っているものです。どうやらヘルマン王と、『戦略』のシュトラテギー殿は話が見えたようにお見受けしましたが……」
 ノイヤールのこの言葉に、シュトラテギーは頷きながら言葉を紡いだ。
「ノイヤール殿の戦略は、この爺(シュトラテギー)にも考え及ばぬ大戦略構想であるな。しかし、現実問題として食糧と軍備はどうするつもりじゃ。そこを納得できなければ、その話には同意できぬ」
「まあお待ちください」
 ネムが口を挿んだ。
「それについてはノイヤール将軍から順を追って説明していただきます。その中で食糧問題等につきましてもご説明いたします。ノイヤール殿! 私もあなたがそんな野心をお持ちだったとは……。私も共にあなたの話をじっくり聞かせていただきましょう」
「……それでは順序だてて説明することにしましょう。大半の者がまだ全く話についていけないようなので……」
 そう言うとノイヤールは淡々と語り始めた。
「受け入れやすい話にするように、手に入れるモノがどのように差し出すモノに転化するかという流れでご説明しましょう。先ずは、現在の状況ですが、フルーメス王国の民は、多くの民が虐殺された恨みもありましょうが、各地でよく戦っておられます。しかしながら、相手は聖皇国の正規軍人。遅かれ早かれ皆殺しになるのがおちでございます。
 そして、今の民の拠点はまだ堕ちていない七つの城塞都市と、このコリダロス・ソームロのみ。そして七つの城塞都市は全て多勢の蒼鯨軍によって包囲されて攻められている最中です。これら七つの城塞都市の陥落も時間の問題でしょう。
 そしてそれらが陥落した暁には、蒼鯨軍はこのコリダロス・ソームロを攻め立て、この王城落城がソルトルムンク聖皇国とフルーメス王国の終戦になるでしょう。しかし、今一度言いますが、その間に数十万から数百万規模のフルーメスの民が殺され、王城が落ちれば、ヘルマン王以下、全てが殺しつくされましょう。
 実際に既に陥落した八つの城塞都市の一つであるサバイワシは、陥落後、蒼鯨軍の民衆への虐殺で、その城塞都市に籠もっていた十万人のうち、およそ九割にあたる九万三千人が殺されました。このままでは、フルーメス王国、いや、フルーメス島は無人の島になってしまいます。
 そこでこれらの民を救う方法を考えました。それは民が安全に住めることができる拠点を造るのです。造るといっても、一から造り上げるのではなく、今ある城塞都市をその拠点とするのです。そのために、蒼鯨軍の手に城塞都市が堕ちる前に、黄狐軍に明け渡して欲しいのです。蒼鯨軍も敵であるフルーメス軍には対抗できますが、まさか同じ味方の聖皇国軍に刃(やいば)を向けることはできません。
 そして、その城塞都市にフルーメスの民を入城させるのです。七つの城塞都市とその周辺地域を確保できれば、現在生き残っているフルーメスの民を全て救うことが可能です。そして、それらの地域で民の虐殺等を蒼鯨軍が行うことを、黄狐軍が阻止しましょう。
 そして、この民への食糧の確保についてですが、――これは先ほど『戦略』のシュトラテギー殿が指摘された食糧をどこから確保するかという問題ですが……」
「……」
 シュトラテギーは、無言で頷いていた。
「ヴェルト大陸から黄狐軍が運び入れます。むろん、ソルトルムンク聖皇国内の食糧では足がつき、敵国に利する行為ということで、私――ノイヤールが処断されますが、『隠し食糧』であれば、何ら問題ございません」
「ほぉ〜『隠し食糧』なるものが存在するのか?」
 さすがのヘルマン王も驚きを隠せなかった。
「はい、元クルックス共和国の首都でありましたスピュアリューア・ユスィソンクル。今は灰塵に期しており、ドンク将軍率いる銀狼軍の一部がその周辺地域を復興と称して確保しておりますが、そこの広大な土地で、いろいろな食糧となる植物を栽培しております。
 元クルックス共和国は、ご存知のようにヴェルト大陸内でも非常の肥沃な土地。クルックス共和国全土がソルトルムンク聖皇国の手に落ちれば、さすがに地方領主を派遣し、その土地の収穫量なども算出するのでしょうが、今はまだスピュアリューア・ユスィソンクルが陥落したといっても、クルックスの難攻不落のゲゲル城も存在しており、そのゲゲル城を共和の四主の一人、山の導師が指揮しているとなれば、まだ領土経営まで本国(ソルトルムンク聖皇国)は、頭が回りません。
 その隙をついて、銀狼軍は、クルックス共和国の一部に広大な畑をつくり、莫大な食糧を密かに確保しております。実際に龍王暦一〇五五年と一〇五六年の二年間で、一千万人が十年間食すことができるほどの収穫量がありました。そして、去年の一〇五七年は、大陸全土が豊作と聞いております。おそらくは、同じ量(一千万人が十年間食せる量)を収穫できていると思います。
 その一部を黄狐軍の手によって、フルーメス島の城塞都市に運び入れます。それであれば、少なくとも向こう十年は、フルーメスの民が飢えることはないと思われます。いかがでしょうか。シュトラテギー殿」
「なるほど……、しかしいずれは発覚すること事項ではあるが、それは構わないのか?」
「その頃には、情勢も様変わりし、ヴェルト大陸の國の分布が大きく変わっていることでしょう」
 シュトラテギーの質問にノイヤールはニヤリと笑って答えた。
「大胆な策ではあるが、それであれば黄狐の軍勢を我らの城塞都市に引き込むメリットも大いにありそうじゃな」
「もし、よろしければ蒼鯨軍に奪われたサバイワシ城も、黄狐の兵を使い、一旦、フルーメス側に戻してから、再奪取いたしましょうか?」
 ノイヤールのこの発言は、少々悪ふざけ過ぎるきらいもあったが、この男ならそのぐらいのことはやりかねないとヘルマン王とシュトラテギー両者が同時に思った。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 ドンク(ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ネム(シェーレの片腕的存在。シェーレウィヒトラインの元三精女の一人)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 ヘルマン王(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)
 山の導師(共和の四主の一人)
 ロイル(フルーメス王国の将軍)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 ゲゲル城(クルックス共和国領の城の一つ。難攻不落の城)
 コリダロス・ソームロ(フルーメス王国の首都であり王城)
 サバイワシ城(フルーメス王国八城塞都市の一つ)
 スピュアリューア・ユスィソンクル(クルックス共和国の首都)

(その他)
 黄狐軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ノイヤールが将軍)
 共和の四主(クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫(れいき)、炎の童子、山の導師の四人)
 銀狼軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ドンクが将軍)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
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