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2015年03月01日19:45

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モーリン・オハラの「語った」真実

 久しぶりに、ジョン・フォードの監督した映画を観てきました。
 現在、池袋の新文芸坐では、「ジョン・フォード&ジョン・ウェイン アメリカ映画の至宝」と銘打った企画で、このほど新たにデジタル・リマスター版が出た『静かなる男』と『駅馬車』の2作品を4日まで、上映しているのです。
https://www.youtube.com/watch?v=bbxr521OkNA

 フォード作品には、大雑把にいって2つの系統があります。一つは、アイルランド系移民の子であったフォードにとっては特別の思い入れがあったアイルランドの人々やその社会、文化を描いたいわゆるアイルランドものであり(人情ものとも云われる)、もう一つは、言わずと知れた西部劇映画です。そして、『静かなる男』と『駅馬車』とは、そのそれぞれの系統の代表作といってよいほどの名作です。
 『静かなる男』は初めて、『駅馬車』は2回目だったのですが、約30年ぶりくらいだったにも関わらず、十分に楽しめたと感じたのは後者の方でした。でも、これは予備知識がほとんどなくても楽しめるのが後者という意味で、前者が作品としてイマイチということではありません。
 『静かなる男』は、アイルランド文化、アイルランド人魂といったものに対する理解、知識が豊富にあったなら、必ずやもっと深く共感できたに違いないと思える演出が至るところに施され、機会があれば、いずれまた観てみたいと思えるだけの作品に仕上がっていました。流石です。
 この『静かなる男』の主演女優がモーリン・オハラです。
 この人は、数多くのフォード作品に出演し、フォード作品を代表する女優さんと言っていいくらいの人ですが、あるドキュメンタリーで素晴らしい真実を「語って」くれたことがあります(コミュでもふれた話です)。

 そのドキュメンタリーは、フォードの生涯を描いたもので、前・後編合わせて4時間ほどの大作だったのですが、フォードの生涯を若い頃から順に追っていき、何かのエピソードがあるたびに関係者にインタヴューするという形式をとっていました。
 だいたいの関係者がフォードを褒めていたのに対し、モーリン・オハラだけは出てくるたびに「フォードは○○(←褒め言葉)と言われてますが、それはウソです。」とか、撮影時のフォードの無理な要求にいかに自分が苦しめられたかということばかり、述べていました。
 例えば、(どこかでお話ししたこともあるかもしれませんが)強風の中、目をカッと見開いて演技することを要求された彼女が、豊かな髪が目に入って、とても要求されたとおりには演技できないということがありました。で、堪りかねた彼女が「あんたのような毛無しジジイに私の気持ちなんか、分かるもんですか!」と叫んだこともあったそうです(フォードは怒ったものか、毛無しジジイを冗談として笑ってやろうかと、しばらく考えていたようでしたが、幸いにも後者を選んでくれたということです)。
 そんな感じで、普段は聞けない悪口や裏話が出てくるので、それはそれで面白かったのですが、彼女が真実を「語って」くれたのは、その後、フォードが亡くなったときのことに話が及んだときのことでした。
 彼女は、「彼は、自分の好きなことをやりたいだけやって幸福な一生を送ったと思います」といった長い付き合いがあった人にしてはいささかよそよそしいコメントをぎこちなく述べました。
 と、次の瞬間、にわかに彼女の表情が崩れて、彼女はさめざめと泣きだしたのです。フォードが亡くなってからすでに何年も経っていたにもかかわらず。
 なまじのコメントよりも、あの涙は、フォードに対する彼女のあつい思いのすべてを語っていましたね。
 死後、何年も経っても、こうして大女優に涙を流してもらえるなんて、フォードも監督冥利に尽きたことでしょう。
 フォードという親父さんのカッコよさを感じると同時に、軽い嫉妬を覚えた瞬間でもありました。
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