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2014年08月16日23:58

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塘路余談

もはや過ぎてしまったことではあるが、先週末に旅した北海道、それも釧路のある道東は、台風11号だか12号だかのものすごいパワーに大きな影響を受けた。
木曜日の朝に単身出発して、相棒とは夜に札幌で合流、帰りは日曜のフットサルの試合の後で相棒は一足先に空港へ向かい翌朝早い便で帰京、私は一旦塘路(とうろ)に戻って連泊し、月曜の夜に千歳から成田へ戻ってくる予定だったのだけれど。

月曜の朝。
この日はかねてから、Sさんに少し遠いところにあるサルルンの展望台に連れて行ってもらう予定だったのだが、前夜から降り出した雨は、時折ものすごい風を伴って横殴りに吹き付けてくる。
残念ながら、Sさんとのデートは諦めるしかないな。
列車は昼まで来ないので、宿をチェックアウトして、前々日に短い時間だけ見学した郷土館に向かうことにした。
なにしろここ塘路には店というものがほとんどないので、時間を無為に過ごせる場所は限られているのだ。
途中、まだ立ち寄っていなかったクラフトショップが開いているのを見つけ、前々から作りたいと思っていた読書会のロゴマークを兼ねたハンコをオーダーで作ってもらうことにした。
釧路出身で15年前にこの店を出したという若い女性店主は、これから向かう郷土館の剥製コレクションや、昆虫の標本についてとても詳しかった。
そしてここでもやはりSさんの話題が出て、彼が地域中の人から愛され慕われていることがよくわかった。

そこから10分くらい歩いたところ に郷土館がある。
かつて標茶(しべちゃ)にあった集治監(政治犯を収容する刑務所のようなもの)を移築してきたという木造の古い建物で、小さいながら、かつての塘路のにぎわいを偲ばせる駅の装置や、今の時代に復元・制作したアイヌの丸木舟や楽器、家の模型などが並んでいる。
アイヌに関するものは現物があまり残っていないため、Sさんら数名の有志が夜ごと集まっては、ここで復元作品を作ったらしい。
朝までやってたこともあったなぁ、とSさんも語っていた。
ここ郷土館は、そうした熱い人々の溜まり場でもあったのだ。

郷土館に向かう途中の嵐のすさまじいことといったらなかった。
ズボンは濡れて完全に足に貼りつき、全財産を背負ったリュックも防水効果の限界にきていたかもしれない。
扉を開けてコンニチハというと、事務所から中年の女性が飛び出してきた。
まあまあまあ、お独りですか?と聞かれるので、これこれで一昨日も来たのですが、お昼の電車まで雨宿りも兼ねてもう一度見学に来ましたと言うと、驚いた顔で
「今日、電車はすべて止まってるってきいてますけど?」
と、おっしゃるではないか!

不肖ヨシモト、台風はすでにオホーツクに抜け、新千歳−成田間の飛行機も飛んでいることは確認していたが、よもや肝心の電車が止まっていようなどと、想像もしなかったのだ!!
ここ塘路から新千歳空港までは、電車を乗り継いで4時間以上かかる。
事務所の女性がすぐさまJR各駅に問い合わせてくれて、塘路と釧路を結ぶ釧網線(せんもうせん)だけでなく、釧路から札 幌方面へ向かう列車も少なくとも日中はすべて運休が決まっていることを教えてくれた。
さぁ、どうする?
そうだ、釧路までタクシーを使えば、新千歳まで長距離バスが出ているかもしれない。
もう一人の男性が、さっそく電話で問い合わせてくれたが、バスは予約で満席で、夜の便に間に合うバスはもうなかった。
万事休す。
列車以外の交通機関がない以上、今夜はここ塘路に足止めが決定であーる。

誰もいない展示室の片隅で、慣れぬスマホを操りながら、今夜の宿を探す。
先ほどまで滞在していた宿に電話で様子を聞くと、昨夜キャンセルが出たばかりの高いツインの部屋きり空いていない。
ちょうど車で買い出しに出てしまっているので、夕方4時ごろまで部屋に入れてあげられないのよ、ごめん!とマダムは言う。
次にユースホステル に電話するも、ハイシーズンで満室、今日来るはずのグループが辿り着けなかった場合には、そのスペースにお泊まりいただけますが、今の時点ではなんとも・・・、しかも食事の用意はできませんと、受付の女性が心苦しそうに言う。
すると、前夜の宿のマダムから折り返し電話が来て、空いているツインルームに安く泊めてあげるとオーナーが言っているから、あの部屋で良ければ泊まりにいらっしゃい、と言ってくれた。

スマホを握りしめて苦闘している私を見かねてか、郷土館の女性が、椅子とコーヒーを持ってきてくれた。
免許お持ちでしたら、どうぞ私の車を使ってお昼ご飯をとってきてくださいな、そう言って、近くの食事処が今日も店を開けているか(塘路には、いわゆる商店は一軒もないのだ)、電話で確認までしてくれる。
あああ、なんて優しい人!

そうこうしているうちに、今日は休みである学芸員さんが別の用事でやってきて、これから近くのラーメン屋さんに行くと言っているらしい。
事務の女性が すかさず、これこれで困っているお客さんがいるから、ラーメン食べに連れて行ってやって、と頼んでくれたようだ。
その学芸員Tさんとは、前々日ここを訪れた際に少し話をして顔見知りになっており、もしかしたら明後日もう一度来るかもしれません、と言ってあったのだった。
すいません、ホントに来ちゃいました。しかも塘路を出られないので、今日は一日ここにいるかもしれません(笑)。
これを聞いたTさんは、快く私を昼食に伴ってくれた。

その店「丹頂」は、女性が二人で切り盛りしている店で、その日はたまたまいつもと違う女性が手伝いに来ていた。
あっさりした塩ラーメンを食べながら店の二人に事情を話していると、Tさんは、そうだ、と思いついた表情で言った。
この人(手伝いの女性)、茅沼の温泉で整体師やってるのよ。
私これからSさんのところに寄って、それから標茶で用事を済ませてまた戻ってくるんだけど、よかったら一緒に行きませんか?
途中の茅沼で下ろしてあげるから、ゆっくり温泉に浸かって、コインランドリーで濡れた服を洗って乾かして、帰りにまた拾ってあげる。
すると整体師の女性も、ランチ時が終わったら私も茅沼に行くから、よかったら整体も受けてみて、休憩室の隅っこにベッド置いてやってるから、と言う。

と、こういうわけで、私はまるでバケツリレーのように、塘路の親切な人の手から手へと次々に渡されて、ゆっくりと温泉にまで入り、洗濯を済ませて、夕方、無事に宿の清潔なベッドにたどり着いた。
夕食は、これも2日前にも行ったパスタハウスに今度は独りでてくてく歩いて行き、驚くオーナー夫人に訳を話すと、頼んでもいないアイスクリームまで出てきてしまった。
その店には、同じ宿に泊まっている家族連れも食事に来ており、よかったら僕たちの車で一緒に宿に帰りませんか?とまで申し出てくれた。
こんなにまで他人の親切を受けたのは、いつ以来だろう??
そして東京では、相棒がLCCの会社に、便の変更を格安でやってくれないかとタフな交渉をした末に、翌日の昼の便を確保しておいてくれた。

郷土館のTさんとは、車の中でいろいろな話をした。
展望台などの観光インフラの整備に、道と国(環境省)がどうかかわっているか、予算のしくみ、国の担当官は熱意ある人だがたった一人なので目が届かない、ゆえに彼女が飲食店や駐在さん、ガイドや宿の人、Sさんのようなキイパーソンなどあちこち目配りして情報を集め、一個人としてまめに連絡をして人々をつなげていること。(よって、むしろ休日の方が忙しいらしい。)
この時点でオフレコであったが、腐ったまま道(どう)の予算がつかずに何年も放置されていた展望台の木の階段が、努力の甲斐あってようやく正式ルートで修理の見通しが立ち、道がやらないなら俺がなんとかしてやる、と言っていたSさんの手を煩わせすに済みそうであること。
そしてもちろん、この町の文化を支えているSさんのこと。
大勢の人が押しかけるわけでもないあの小さな郷土館でも、こんな熱意ある仕事をしている人がいるのだ。

この小さな町にいる、温かくて、優しくて、熱い人たち。
あの人たちみんなの恩義は、ずっと忘れまい。
あの暖かい気持ちにふれた後では、肝心の試合に1−3で負けてしまったことや、結果びっくりするほどのお金がかかっちゃったことなんて、ほんのちっぽけなことでしかないよ。(泣)
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