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2014年03月22日16:51

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〔小説〕八大龍王伝説 【304 最強の一騎打ち】

 八大龍王伝説


【304 最強の一騎打ち】


〔本編〕
「確かに去年の不意打ちに比べれば、状況ははるかに良い。それでも霧により視界はかなり制限されるから、白い矢を排除し、結界を除去しながら、アナバタツタに迫るのが賢明だ。アナバタツタは天山の頂上にいる。今度こそ決着をつける。バツナンダ! 君はここから結界を崩しながら天山の頂上に向かってくれ! おそらく結界を除去しつつ向かっても、五日間で到達できると思う。
 僕はここから天山の裏に回りこむ。約二日の行程で、天山の裏側に回りこみ、そこから天山の頂上に向かう。さすがにこの二正面作戦では、アナバタツタは天山の頂上からしか、僕ら二人を同時に捕捉することができないはずだ。そしてアナバタツタに逃げ場はない」
「シャカラ。マナシの存在は忘れていないか?!」
「マナシのことは考える必要がない。どのような力でウバツラを監禁しているかは分からないが、ウバツラを監禁し続けるには、それ相応の力をその監禁に割かなければいけない。僕は、マナシは天山に僕らが到達しない限り、姿を晒すことはないとみた。マナシは、マナシ陣営からすれば、王(キング)の駒だ。そうやすやすとキングは動かない。
 さすがに僕ら二人がアナバタツタを追い詰めれば、或いはマナシも動くかもしれない。その時は、こちらの優位な状態でマナシを迎え撃とう。状況によれば、マナシを天山から遠ざけることにより、ウバツラの監禁が解ける可能性もある。こちらとしても勝機の可能性がより高まるというものだ」
 シャカラはかなり自分の戦略に自信ありげであった。バツナンダは戦略にこと関しては、シャカラに全幅の信頼を寄せている。それでも今回は、彼の戦略に一抹の不安を感じた。その不安が現実と化すのだが、それは後の筆に譲ろう。

 今、この時代で最も強き者の一騎打ちがこれであろう。
 ヴェルト大陸の地下で繰り広げられている八大龍王である和修吉(ワシュウキツ)龍王と徳叉迦(トクシャカ)龍王の一騎打ちのことである。
 ワシュウキツは、八龍随一の膂力(りょりょく)を誇り、その膂力を技量や敏捷性といった能力が最大限に発揮させ、スタミナといった持続力が、その力を永続的に発し続ける。加えて緑龍刀と牡牛の盾といった最強の武器と防具を有している。
 さらに言えば、まだ今の戦いでは使用していないが、四頭立ての巨竜(バハムート)の龍戦車(ドラッヘゲパンツァー)を有している。地上における疾駆する速力(スピード)こそナンダの炎馬に及ばないものの、その総合機動力と戦車による攻撃力などは、地上戦においては他に追随を許さない程である。このことから戦術的に優位なポジションでの戦いも展開することが可能であるということである。おそらく今のワシュウキツと対等に闘える神が、何人いることであろう?
 これほどのワシュウキツを差し置いてなお、『最強の龍王』の異名を誇っているのがトクシャカである。
 誤解がないように述べておきたいが、地上戦を始めとするあらゆるポジションでの戦い。白兵戦、長距離戦、魔術戦といったあらゆる戦闘方法での戦い。一騎打ち、奇襲、多勢を相手にするといったあらゆる戦闘パターンでの戦い。それら全てにトータルで最強なのである。
 そして総じてトータルで最強と言った場合、個別のパターンでは他にその地位を譲る場合が往々にしてあるが、トクシャカはどのような状況に応じても、他に最強を譲らない完全無欠の『最強』なのである。当然、地上戦の一騎打ちであるこの戦いも、二度目の表現になるが、ワシュウキツを指し置いてなお、『最強』なのである。
 ワシュウキツもそれは充分に弁えている。ワシュウキツ自身において最も優位なパターン――つまり、自身の結界内における地上戦であっても、トクシャカを彼の得意な戦闘パターンにさせないように細心の注意を払っている。
 トクシャカの得意な戦闘パターンは、剣による白兵戦である。トクシャカの剣の長さは百五十センチメートル。そのうち柄の部分が四十センチメートル程になるので、刃渡りは百十センチメートル弱である。剣としては、長剣の部類に入り、概ね自分から一メートルから一コンマ二メートル位がトクシャカの有効な攻撃距離ということになる。
 それに対し、ワシュウキツの緑龍刀は刃渡りこそトクシャカの剣と大差はないが、柄の部分を加えると三メートルの長さになる。ワシュウキツはトクシャカの有効攻撃距離を熟知しているため、決して一コンマ五メートルの距離より中に詰めないで、緑龍刀を振るっている。
 その距離は中距離にあたり、一般の槍の有効殺傷距離に該当する距離である。その距離を保つ以上、トクシャカには攻め手がない。ワシュウキツはそう結論付けた。
 実際にまる二日間――いや氷の時計の作用で、人間界単位で二ヶ月間は、ワシュウキツの思惑通りの展開であった。ワシュウキツの緑龍刀の攻撃をトクシャカが自身の剣で受け止め、そのワシュウキツの攻撃をかわし、ワシュウキツの懐に入ろうとするのを、ワシュウキツは牡牛の盾で押し止め、後退して再び緑龍刀を振り下ろすといった感じの闘いの展開である。
 持久力の消費を待っての消耗戦はこの二人の戦いにおいて意味がない。どちらも八大龍王といった闘神である。数日からおそらくは数年レベルの戦いを続行できる程、無尽蔵な持久力をどちらも有している。正に神々の戦いでいう膠着状態である『千年戦闘』の様相を呈し始めているのである。
 ある意味ワシュウキツの思惑通りであったといえる。トクシャカにこの場所を発見された状態でワシュウキツ側は既に負けていた。それをレナによる策を講じたとはいえ、シャカラとバツナンダを天界に向かわせることに成功した。
 シャカラとバツナンダで、マナシとアナバタツタに勝利できるかは不確定要素としても、一人ずつ相手をすれば、勝機はないわけではない。むろん、ワシュウキツがここでトクシャカを倒し、シャカラ達に合流できれば、さらに勝率は上がるが、さすがに『最強の龍王』を相手にそこまで考えるのは虫が良すぎると言わざるを得ない。
 ここで、トクシャカを少しでも足止めできるのであれば、それで御の字であろう。
“しかし、おかしい?”ワシュウキツは二日間のトクシャカとの打ち合いで、いいようのない違和感を抱き始めていた。
「……トクシャカの打ち込みに思った以上の力を感じられない!」ワシュウキツが思わず口の中で呟いた。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)

(国名)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)

(武器名)
 牡牛の盾(ワシュウキツの盾)
 緑龍刀(ワシュウキツの得物。重バサラでできた緑色の青龍刀)

(その他)
 千年戦闘(神同士の決め手が無い故の膠着した戦いのこと。千年間膠着することからこの名がついた)


〔参考二 大陸全図〕
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