わずかな日数の入院生活だったが、１７年前の入院と比べて様々な違いがあったので、忘れないうちに記すことにする。入院したのは、前回と同じ医大病院の混合病棟で、奇しくも同じフロアであった。
１７年前には入院時に提出した書類の中に「 プライバシー 」に関するものはなかった。今回は、病室のプレートに氏名を明記して良いか、面会者に対し入院している事実を開示して良いか、確認のため記名する書類があった。「 否 」とすれば、病室の入口脇のプレートに名前が掲示されないばかりか、ナースステーションで面会者が病室を尋ねても病室は教えてもらえない。電話で問い合わせすれば、入院しているか否かさえ、病院は回答しない。徹底している。
入院生活の中でも、患者のプライバシーは守られる。１７年前は、毎朝起床時間には看護婦さんが各病室を回って、「 おはようございま〜す。朝ですよ〜 」と大きな声で挨拶しながら、ベッド毎に周囲を仕切っているカーテンを全て開け放った。患者はベッドに起き上がって、同室のお仲間と挨拶しあう。一日の生活の始まりである。カーテンは患者の診察や処置、着替え、お見舞い客が訪れた時は閉められるが、ほとんどの時間帯は開放されていた。たまに、カーテンを閉めたままでいる患者がいても、「 空気を入れましょう 」とか「 明るい方が気持ちよいですよ 」と看護婦さんが開けるのが常だった。自然、同室の患者同士のコミュニケーション機会は増える。食事も各自のベッドの上で、お仲間達と会話をしながらとなる。シーツの交換・掃除の時は、同室の患者はそろって談話室に移動し、他の病室の患者達と合流。各人の病状や身の上などを話し合ってコミュニケーションをとった。私が入院した混合病棟では眼科の入院患者は少なく、また、網膜はく離は特に「 大変な手術 」とされていたので、他の病室の患者からも一目置かれるようになった。同じ入院患者でも、大きな病気や難易度の高い手術を体験した患者がなんとなく「 別格 」に扱われるのは面白かった。
今回は、起床時間に看護婦さんが強制的に起こして周る習慣はなくなっていた。なんとも、静かな朝である。カーテンは常に閉められたままで、看護婦さんが「 開けましょう 」と声をかけることもない。食事の時でさえ、カーテンは閉じたまま、各人が自分のベッドの上で食事をし、ついに同室のお仲間が一同に顔を合わせる機会は一度もなかった。シーツ交換・掃除の時も同室のお仲間が一斉に移動することはなく、かつてのように談話室に大勢の入院患者が顔をそろえる光景を見ることもない。誰が、何の病気で入院しているのかはもちろん、同室の患者さんの顔も名前もわからない。廊下ですれ違えば、誰とでも挨拶を交わすが、誰が同室なのかは判然としない。患者個々のプライバシーが完全に守られる反面、患者同士のコミュニケーション機会はほぼ消滅した。それを寂しいと感じるか、煩わしさがなく気楽だと感じるかは、個人差が大きいだろう。入院生活は、確実に変わった。大部屋とはいっても、患者は自分に与えられたスペースで、好きなように時間を過ごせる。今や、そういう時代なのだ。
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