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2015年06月03日11:44

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構成 ハメルンのうわさ・予告編 1/

ハメルンのうわさ・予告編

十四歳の身体性のために





時 一九九六年七月

場 関東のある中学校

人 斉藤寧子(ねこ)
  千葉千代子(じゃこ)
  木下ひろ子(きのこ)
  浜川小次郎(数学教師、歴史部顧問)
  相馬桔梗(キッコ)
  ゲマイン(結社《コッペン》派遣員)
  ゲゼル(同)
  山田佑介(びっこ)
  浮島捨十(消防団員)

*この劇の配役は、すべて中学生によって演じられた。
*登場人物はそれぞれ複数の演者によって演じられ、劇中、頻繁に交代した。
*道具方・楽士・コーラスなどが登場した。





闇。
柝が入る。高みに、複数の声がこだまする。

声群 せかいはまだどこにもない
(せかいはまだどこにもない)
きみがいてせかいができる
(きみがいてせかいができる)
みたものがすべてのもの
(みたものがすべてのもの)
きみのみたものがすべて
(きみのみたものがすべて)
きいたことがすべて
(きいたことがすべて)
かんじたことがすべて
(かんじたことがすべて)
すべてはきみのなかにある
(すべてはきみのなかにある)
きみのそとにはなにもない
(きみのそとにはなにもない)
――『ハメルンのうわさ』!!

幕あき、ぼうっとほの暗く、スポットがひとりの少年を照らしだした。左足を痛めて、杖にすがっている。どこか、異常な感じをおびている。【M1・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第二番」第一楽章】

少年 このほのぐらい道を…
僕は歩いていくのか
用水路のきわの ぬかるんだ土手の上
電柱はよるべなくがりがりと立ち
気のはやい鳥がさえずりだした
雲は
ひとあしはやく朝日に燃えて
空で金色に輝いているが
僕のいる道はまだ暗く 深く
空気は湿って
みどりの蚊の一族が
顔に吹きつけられてくる
ズックの靴は
畦の泥にとりこめられて汚れ
草の汁と オナモミの実とが
袖口やズボンの裾に
鋭くしがみついている
ああ 白い夏の夜明けの
つゆくさ咲く川ばたを
しわぶく妖怪のように 僕は
歩いていかねばならないのか。

白い横断幕が舞台を横断し、少年は隠される。キーンコーンカーンコーンと、トイ・シロホンによるひなびた朝のチャイム。ビニールの傘さした少女たちが幕の後ろから次々に現れる。明るい土手の上。

じゃこ おっはよ。
ねこ あーおはよー。
じゃこ あーあ。とうとう今月だねー。
ねこ うん、取り壊しねー。
じゃこ 惜っしいよなあ。
ねこ ま、今さら仕方ないんだけど。なんちゅーか、分かってないやね、役場の人も。今どき、木造なんてカッコイイのにな。
じゃこ そうそう。うちホラ、不動産屋じゃん? 兄ちゃんいってたけど、なーんか、ヤな話みたいよ。
ねこ やなハナシ? てゆーと?
じゃこ それがね、
きのこ (現れ)おっはよー!
ねこじゃこ おー、オッス!
きのこ 雨、やまないねー。
じゃこ 梅雨、まっ只中だかんねー。
ねこ 夏至ってもう過ぎた?
きのこ  げーしっ。(とチョップすると、)
ねこ ぱーしッ。(と後ろ手にうけた)
きのこ ひょえー、塚原卜伝!
じゃこ 過ぎたっしょ、とっくに。でも雨じゃ、意味なかったね。
きのこ あ。かぼちゃ食いはぐった。
ねこ それ、冬至。まだなってないべ?
きのこ そう?
ねこ おメー季節感ねーな、農家のくせにー。
きのこ だってさー。
じゃこ あー? 何のハナシだっけ…。
ねこ (指さし)あれよ。
きのこ あ、校舎ねー。
じゃこ そっか、ウン、兄ちゃんに訊いてみたんよ。別にホームのじっちゃんばっちゃんたちだって、あのままちょっと直して住めばいいんじゃないのって。
ねこ フンフン。そしたら?
じゃこ 難しいだろってさ。
ねこ まー、雨もりとかしてボロっちいかんねー。冬、寒いし。
じゃこ ウン、でも、そうじゃなくてね…。
きのこ なくて?
じゃこ 要するにね、建てたいんだって、土建屋が。
ねこ は? 老人ホームを? 何で? 親切で?
じゃこ 別に何だっていのよ。何か建ててないと、ゴハン食えないからさー。
ねこ ふーん…。
じゃこ 町長さん家も植木屋だから、木ィうれるし、仲いいんだって。
ねこ 植木なんて、だって学校にもあんべよ。
じゃこ そーなんだけどさ、色々あるみたい。
ねこ 何か、先生たちいうのと違うじゃん。このごろ日本じゃ、子ども少なくてジジババ多いから、あのウチあげるんだってたぞ?
じゃこ それもあんだろーけど。
きのこ (ぼんやり)部室、なくなっちゃうねー。
ねこ なーんか…、
じゃこ ヤなハナシっしょ?
ねこ ウン、割りきれんねー。で、あんたん父さん、それ絡んでんの?
じゃこ (曖昧に)そーねー…。あたしはいんだ。卒業したら逃げちゃうから。
ねこ そーかー…。
じゃこ あんたたちは?
ねこ あーたーしーは、全っ然考えてない。
きのこ うちはねー、お嫁さん。
ねこ (聞いてなく)あっ。

と、何か見つけて、行く手みはるかす。

じゃこ なに、どした?
きのこ なーにー?
ねこ 小使い室のとこ。キッコさんだ。

雨脚、しげくなる。

ねこ また、ひとりでいる。
じゃこ ひとりで住んでんだもの。
ねこ そーだけど。あ。(手を振るが…)こっち、見てない?
きのこ 見てないベー、あの人は。
ねこ ほんと、友達いないンだなあ。
じゃこ さ、行こ。
きのこ ウン。
ねこ (ひとり残り)校舎取り壊されたら、あの人どーするんだ?

去る。
二人の、不思議な装束の者が踊りながら登場。ひとりは胴に鎖をつけられ、もうひとりがその鎖の端を持っている。【M2・ロシア民謡「黒い瞳」、ヴァイオリン演奏ロビー・ラカトシュ】

ゲマイン にゃーん。
ゲゼル にゃーんってことはないだろ、ゲマイン。ちゃんと喋りな。
ゲマイン ちゃーん。
ゲゼル おお大五郎、三分間待っちょってね。って、子連れ狼じゃねえ。
ゲマイン トシが分かるね。外してちょーん。これ。
ゲゼル それはちょっと。
ゲマイン アラ、それでいて、ちゃんとしろはないんじゃないの。
ゲゼル だから、ちゃんとつながれてろってんだよ。
ゲマイン にゃーん。だからつながれてるじゃない。
ゲゼル 気にいらねえ。
ゲマイン にゃーにが?
ゲゼル その、媚びがよ。
ゲマイン (急に横柄に)じゃ、取るからいいよ、こんな鎖。
ゲゼル それはちょっとね。
ゲマイン 勝手だねー、あんたの好みでしょ。別にこっちゃあ、いらんのよこんなん。
ゲゼル つながれていたいんだろ。
ゲマイン そんなことないもんね。
ゲゼル その媚びは、だってお前の好みだろうよ?
ゲマイン お生憎。媚びんのは楽でも、縛られんのはやなの。ぜんぜん別問題。(また剣突に)あー暑苦しい。あおげホラ。
ゲゼル ふざけんな。
ゲマイン (吐きすてて)使えねェな。
ゲゼル 何をお?(手を上げる)
ゲマイン ゲバルト反対。にゃーん、ごろごろ。あ、失礼。

ふたり、びっこの少年(佑介)にぶつかった。

佑介 ど、どうしたんです、それ。
ゲマイン あ、これ?
ゲゼル いや、ははは。嗜虐性の実地研究ですわ。うそっこですよ、つまり。
佑介 うそっこって、往来で?
ゲゼル いや、まあね。(気まずい)
ゲマイン あなたこそ、どうしたの、こんな朝早くに。
佑介 え…?(キョトンとしている)
ゲマイン ははァ。
佑介 はい?
ゲマイン (ゲゼルに、ヒソヒソと)この子。
ゲゼル うん?
ゲマイン 丁度いいんじゃない。
ゲゼル ふむ。
佑介 …何なんです?
ゲゼル うむ、よし。ねえ、びっこの君。
佑介 (ア然として)…失礼だなあ!
ゲゼル そうさ、失礼ながら訊くんだが、その足、どこが悪いの。
佑介 (ムッとし)どうだっていいでしょう。
ゲゼル よかないよ。治るもんなら治さなけりゃ。
佑介 だから、関係ないでしょう。
ゲゼル ないかね? ない…、ない、なないのスチャラカチャンチャンと(トしばし破茶滅茶になり)。いやおおありだ。おおあり名古屋は城でもつんだ。
佑介 え?
ゲゼル 何でもない、追求するな。追求しないでくれ。
佑介 何いってるんです、この人?
ゲマイン あなた、その足、
佑介 足のことはもういいです!
ゲマイン 本当に悪いの?
佑介 本当にね。
ゲマイン 骨が?
佑介 骨がっていうか…、何だってんです。
ゲマイン ココロの問題じゃないの。
佑介 (ビクリとするが)何がいいたいんだ。
ゲマイン びっこ引いて歩くうそっこのファンタジー、作っちゃってんでしょ。
佑介 違う。バカにすんな。
ゲマイン あら、バカになんて。反対よ、感心するなァ。
佑介 感心?
ゲマイン 想像力で現実を変えるってこと。
佑介 だから、もともと現実なんだっていってるでしょう。
ゲマイン にゃーん、ホホ。才能に気づいてないのネ。
佑介 才能。
ゲマイン ここで会ったのも何かのエンだから、
佑介 エンなもんか! あんたたち、宗教じゃないの?
ゲマイン 宗教です。
佑介 え…、そうなの? カルトなやつ?
ゲマイン (イライラして)うるさい子ね。別に神さんが不可欠ってんじゃないのよ、何か拠り所がありさえすりゃ、宗教はやっていけんのだからして。
佑介 拠り所。
ゲマイン ま、痛み、ね。
佑介 痛み。後悔の?
ゲマイン まあね。こういうことよ。昔、私らの祖先がちょいと悪いことして、バチが当たったの。それも、本人たちにじゃなくて、その子どもたちにね。子どもはいい迷惑よ。村ぐるみ、子どもらみんな、神隠しに会っちゃった。
佑介 ふん。親は?
ゲマイン そのまま村で暮したわ、もちろん。他にどうせよと?
佑介 探さなかったの?
ゲマイン 探したってば! 当ったり前でしょ。でも見つからなかった、とうとうね。そのことを忘れまいって集団よ、私らは。
佑介 (用心して)そんで、僕をさらおうってのか、今度は。
ゲマイン (残念そうに)これっきりがイイのネ…?
佑介 そうだよ!
ゲマイン じゃあ、ひとつ鍵を預けておくわ。
佑介 鍵。
ゲゼル ヒントと考えてもらってもいい。君の未来を、いわばひとつの、謎に満ちた野原だと思ってごらん。そのけもの道に君は、何を手がかりに分け入っていくんだい?
佑介 (ひとり)──野原を開く、鍵…。
ゲマイン 耳かして。気楽に聞いて。お経みたいなもんよ。

ふたり、佑介の左耳に囁く。輪唱のように。

ふたり せかいはまだどこにもない
(せかいはまだどこにもない)
きみがいてせかいができる
(きみがいてせかいができる)
佑介 (跳び退いて)…いったい、何のこってす。
ゲゼル いずれ分かーる。世界は君のもの。これが真理さああああ(去りかける)。
佑介 あっ、ちょっとっ…。
ふたり さーらーばぁぁぁ…!(行ってしまう)
佑介 (やがて)この脳は…、風景を二重にみる。ヒルガオが、何か語りかけてくるような気がする。原っぱに、黄色い煙がもやもや、流れる気がする。よく見れば何もないさ。でもよく見なければ…、そいつらは、確かにいる。この目がそういっている。

いつか大勢の佑介たち、登場し、うつろな男声コーラス「六歳」【M3】

♪不思議だな
 いつから僕は いるのだろ?

    目の前に 野原のまなか
 ひとすじのアスファルトみち
 登下校 べつにいいけど
 何となく割り切れないな
    覚えてる それは確かさ
 お母さんお父さんとも
 こないだは 梨狩りに行った
 嘘じゃないよく覚えてる
 ……

コーラス消えると、旧校舎のあかるい部室が見える。ねこじゃこきのこ、そして佑介。

じゃこ 今日は私が報告するね。絵本のあとがきで見ただけなんだけどねー、どうも、子どもたちの生き残りがいたって噂があるみたいなの。
佑介 へえー。
きのこ 帰ってきたコの?
じゃこ あ、そうじゃなくて、町を出ていったあと、みんなどっかに行ったはずじゃん。それがね、えーと(ノートみて)トランシルヴァニアって、分かる?
ねこ ドラキュラのいたとこでしょ。
じゃこ (驚いて)そう?! ソウなのか…。
ねこ ま、少なくともクリストファー・リーは住んでた。
佑介 で、それが?
じゃこ そこはドイツじゃなくて、ドイツからずーっと東に行った方にあんだけど、そこだけぽつねんと、ドイツ語しゃべる人たちが住んでるんだって。
三人 へええ…!
佑介 今でも?
じゃこ 多分。
佑介 ふーん…!
じゃこ しかも、しかもよ。十三世紀っていったらまだドイツって国はなくて、とゆーことはドイツ語だって、マダないようなもんなわけじゃん。京都と青森でコトバ通じないみたいに相当ナマリ、きつかったはずっしょ。そのトランシルヴァニアの言葉、今でも、ヴェーゼル方言なんだって。
ねこ ヴェーゼル!
じゃこ そ。
ねこ そっそ、そ、それだッ。解決!
じゃこ ちょっちょっ。セッカチ、ちょっと待ちなって。
ねこ だってヴェーゼル川っしょー、うがー! 啓示だぁー!
じゃこ 発作だ、押さえろっ。(三人、取りすがるが)
ねこ かぁーみーはー、降ーりーたーもーお!(ト圧倒的に振り払い)アーイム、ジョーン・ベルーシーイー!

オゴソカに光が降りる。オルガン。きのこ、祈る。【M4・サン・サーンス「交響曲第三番」第二楽章】

ねこ (神父の説教調に)アインナッハ・ディーリッヒ・ゲッツェン。
きのこ へへえ。
ねこ イッヒ・リーゲンベルク・マハト・ツィンデル・グロイスブロイス・プロフェッセルト・ウント・モルゲン。
きのこ ははあ。
ねこ クロイネン・シュヴァルツマイヨン・ラッツゲッツ・プロストマイテルン・ウント・グロッツェンホッファー!
きのこ ファーゼル。
ねこ ザハ。
きのこ (ちゃんと巻き舌で)ライツェン?
ねこ ゲルドリッヒ。
きのこ なあるほどー!
じゃこ (ビックリして)分かるの?
きのこ ゼンゼン。(どつかれ)あたー…。
じゃこ (ねこに)どういう意味?
ねこ 意味はなぁぁい。語感だけでいってみた。
じゃこ …この、ボンクラ!
ねこ (首おさえる)
きのこ あ、それはボンノクボ。
ねこ (あるジェスチャー)
きのこ それは盆栽。
ねこ (踊る)
きのこ 盆踊り。
ねこ (モモシキはく)
きのこ えーとソレは…、
じゃこ ――さてそういうわけで、
ねこ ムシすんなムシ。
じゃこ ねこ。
ねこ ハイ。
じゃこ (真面目に)頭、悪すぎる。
ねこ …効いたー。シンケンにいうんだもんなァ…。
じゃこ (ウェットに)…折角さ、私ら、自分で課題みつけて、取りくんでみようっていってんじゃんか。ガッコの押しつけのベンキョー、いやだから、勝手に始めたんじゃん。そりゃ、遊びよコレも。あきりゃやめてもいいけどさ、バカにされんのは堪んないっ。
ねこ (反省して)ごめんっ、スマン、この通り。あたしホラ、ホン読むの苦手なもんで…。ついね。

沈黙…。きのこ、ねこにヒソヒソと何事かささやく。

ねこ …え?(チラとじゃこ見て)…浜川を? 好きだって? ホント…?
じゃこ (ハッとし)おメ、きのこ、何いってんだ…!
きのこ イヤハヤ。
じゃこ …バカッ!
ねこ じゃこぉ。ナンダそーゆーことなら、いってくれればサー…、
じゃこ あー、やめてやめて! その、湿っぽいすり寄りのたくり、ドジョウ的ドウジョウ。ハイハイ、続きやりゃいんだね、ハイ。
佑介 (つい)かわいい…。

じゃこ、反射的にひっぱたく。不意を食らって佑介、椅子から落っこち、あっけに取られる。じゃこ、手をぶるぶる震わせて立っている。間。







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