「ザ・アマチュア」

　探している時にはなかなか見つからなくて、諦めたり、忘れている時に突然見つかるということがある。20年近く探していた映画『終身犯』（原題：Birdman of Alcatraz）のビデオを見つけた時もそうだったし、『オメガマン』のＤＶＤもそうだった。そして、今回、２５年ぶりに再会することとなったのが、映画『ザ・アマチュア』（原題：The Amateur）のビデオである。先日、トシカさん、ＴＯＲＡＴＯＮＴＯＮさん繋がりで『サイレント ランニング』をAmazonでオーダーした時、「もしや・・・」と思って検索をかけたところ、中古品（VHS）がヒットしたのだ。
　この映画は広島在勤時代の1982年、職場の同僚達と劇場で観ている。淡々とした静かな映画ながら、主人公の行動に強い感銘を受け、長く忘れられない作品となっていた。何年かして、もう一度観たいという思いに駆られ、数々のレンタルショップを探し歩いたが、見つからなかった。どうもセルビデオ（\14,500）が一度発売され、すぐに廃盤になったらしい。それが、なんとわずか数百円で手に入ったのだから狂喜乱舞である。

　主人公チャールズ・ヘラー（ジョン・サベージ）はＣＩＡ本部で電報の暗号化と解析を専門に行う優秀な事務官である。彼の婚約者で出版社に勤めるサラ・カプランは、出張先のベルリンで彼に郵便物を送った後、ビザの申請にベルリンのアメリカ領事館に向かった。しかし、運悪くテロリストの領事館占拠事件に巻き込まれて人質となる。要求を呑まないアメリカ大使を屈服させるために、彼女はＴＶ中継カメラの前に引き出され、犯人グループのリーダーに射殺されてしまう。大使はテロリスト達の要求を容れ、拘留中の仲間を釈放し、チェコへの逃亡を許すのだった。
　哀しみに暮れるヘラーは、ＣＩＡ長官を訪ね、領事館占拠犯人グループへの報復を直訴するが、テロリスト達がソビエトＫＧＢと密接な関係があることから引渡しの要求が不可能であると説明される。「それでは再犯防止のためにも殺し屋を送っては」とのヘラーの進言に長官は席を立ち、「君には皆が同情している」と哀悼の意を示すだけであった。



　数日後、サラの棺を空港に迎えに行き、彼女の父親と初対面の挨拶をする。埋葬の後、父親からサラは「２番目の妻」との間に生まれた娘であり、最初の妻と娘二人は大戦中、ポーランドの強制収容所のガス室で失っていることを告げられる。彼は家族をガス室に送った医師を探し出し、復讐することを夢見て、辛い日々を生き延びたのだ。そして、戦後、ついに彼は医師を探し出し、絞殺する。「でも、死んだ者は帰ってきません」というヘラーに、父親は驚いたようにこう答えた。「そうさ、わしが生き返ったのさ」　ヘラーは黙ったまま父親を見つめた。
　傷心の日々を過ごすヘラーのもとに、事件に遭遇する直前に投函したサラの手紙と録音テープが届く。懐かしいサラの声に耳を傾けるヘラーは少し微笑むが、やがて表情が消えていく。涙が頬を伝う。そして彼は行動を起こすことを決意する。ＣＩＡのコンピューターから過去の暗殺事件の極秘資料を盗み出したヘラーは、資料の所在を示す暗号文を信頼できる新聞記者に手渡した。彼がＣＩＡに殺された場合、彼の死後、暗号を解くパスワードが届くので、極秘資料を公開してほしいというのだ。そして、彼はＣＩＡ長官に要求する。極秘資料を公開されたくなければ自分に暗殺の訓練をして、チェコに潜伏する犯人を殺すため送り出してほしいと。殺された婚約者の復讐を、国家が諦めてもヘラーは諦めない。拳銃を撃ったこともない「ずぶの素人」の彼が、共産圏に潜入し、凶悪なテロリストを暗殺しようというのだ。そして、彼はＣＩＡの援助によって、ついにチェコ国境を越える。諜報員潜入の事実に気づいた国家秘密警察と、ヘラーを秘密裏に抹殺しようというＣＩＡ、二つの強大な組織が彼の足跡を追う。静かな戦いが、今、幕を揚げた・・・。



　この映画を気に入っているのは、「心」があるからである。婚約者の復讐という個人的な動機で、素人の事務官が諜報戦の真っ只中に飛び込んで行くのだから、派手な銃撃戦や格闘シーンはない。台詞も少ない。ほとんどの場面ではBGMすらない。ただただ、静かに物語が進行していく。だからこそ、主人公ヘラーの哀しみの深さ、復讐心の強さが観る者にひしひしと伝わってくる。プロらしからぬ「謎の潜入者」の意図をいぶかしみながらも、ヘラーを追う国家秘密警察の敏腕指揮官ドクター・ラコシュ（クリストファー・プラマー）が、実に良い味を出している。