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2018年09月04日18:27

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『 カメラを止めるな! 』


囲の友人達から聞く評判が良いのに抗えず、ついに、劇場に不承不承、足を向けた。これまでの経験から言えば、この手の実験的要素の強い映画をあまり面白いと思ったことがないからだ。なんと、ららぽーと横浜ではIMAXでの上映で、これ以上ない環境で鑑賞できたのはラッキーだった。「 廃墟跡でゾンビ映画を撮っていた撮影隊が本物のゾンビに襲撃されるも、監督はこれこそ迫真の演技が撮れる好機と歓喜し、カメラを止めず、撮影を続行することになる・・・ 」低予算で制作された映画という情報以外、何も知らずに観たことも良かった。

 正直に言おう。

 主人公たちの映像愛の強さに、感動してしまったよ。この先はネタバレ全開なので、未見の方はご注意願いたい。この映画の面白さを心底味わいたいのなら、何も知らずに劇場に向かうことをお勧めする。





















 冒頭の「 37分間、ワンカットのゾンビ映画 」ははっきり言って、観るのも苦痛だった。素人臭い演技、ありえないほど陳腐な撮影、正に低予算を絵に描いたようなクオリティで、「 わざわざ、劇場に来るんじゃなかった 」と後悔したほどだ。実際、私の友人が劇場で観た時は、冒頭の37分のレベルの映像がずっと続くと勘違いした観客が途中で退場したのだという。私が途中で席を立たなかったのは、どんなにくだらない映画であってもエンドロールの最後まで観る主義だったからに過ぎない。それくらい、冒頭のゾンビ映画は酷かった。

 だいたい、「 ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビに遭遇し、撮影を続行 」したのであれば、本編撮影のカメラマンの「 カメラ1台の映像 」で構成するのが普通だ。『 カメラを止めるな! 』では、最初から「 撮影するカメラマンの様子を撮る、2台目のカメラ 」が存在し、私はそこがずっと気になっていた。

 また、「 ワンカットで撮った映像 」にこだわるなら、通常、映像(視点)はカメラマンの存在を観客に意識させない。もっと、自然に登場人物がカメラ前に移動して演技をしたり、カメラが空中を浮遊するように滑らかに移動する。『 カメラを止めるな! 』のような、激しいパンをしたり、明らかに撮る人間の意思を感じさせれば、そこにカメラマンの存在が浮かび上がってしまうからだ。血のりを浴びたカメラレンズを、撮影中のカメラマンが拭きとるに至っては、「 一体、これは誰なんだよ!!(苦笑)」と突っ込みたくなってしまった。私はこれらの疑問がずっと引っかかり、その原因を「 低予算で制作した、本当に下手くそな映画 」と半ば呆れながら観ていた。まさか、そういった欠点こそが制作者の意図した仕掛けだとは、夢にも思わず、完全に騙されてしまった。生中継、しかも現場スイッチングではなく、一台のカメラのワンカット映像をネット配信するために、アクシデントを乗り越え、奮闘する撮影チームの姿を描いた映画だったとは・・・。

 冒頭のゾンビ映画が終って、エンドロールが抜けたあと、『 カメラを止めるな! 』がネット生中継の番組であることが明らかになるが、ここからが本編の真骨頂だ。番組作りの裏側が描かれ、今度は「 2台目のカメラを追う、3台目のカメラ 」の視点でネタ晴らしがされるが、冒頭のゾンビ映画のアラが、実は、次々に起きるアクシデントを乗り越えるために現場で行われるアドリブの結果だったとわかり、今度は笑いにつながる。最初に抱いていた印象が、観客自身の早とちりや勘違いであることを自覚させる笑いだ。これは巧い。生中継を放送事故にしないため、キャストとスタッフが全力で立ち向かう「 真摯な映像愛 」には感動してしまったよ。

 エンドロールで本当の撮影風景が明かされるのも、良い。観客が「 これこそ、本物 」と思っていたネタ晴らしの撮影風景も、実は違っていたわけだ。本当のプロカメラマンが、あたかも、撮影助手の女の子が撮った風に、わざと下手に撮影していたという、凝った演出がわかるのは愉快である。

 余談。

 ワンカットのゾンビ映画をネットで生中継配信しようとする無謀な企画を、「 安い、早い、出来はそこそこ 」というなんでも屋の監督にクライアントがオファー。演技は大したことないのに役者としてのプライドばかり高い主演陣や、無茶ぶりしてくるクライアント筋にてんてこ舞いさせられながらも、とにかく、「 請けた仕事をきっちりこなそう 」と柔軟に対応する監督とスタッフ達の姿にはなんとも言えないリアリティがある。経費も時間も自由になる有名監督など業界ではほんの一握りの存在。多くの「 普通の監督 」はわがままなクライアントに振り回されながら、出演者をおだて、なだめ、その気にさせ、職人気質の扱いにくい技術スタッフに頭を下げながら、なんとか予算と納期を守り、仕事を完成させているのだろう。さすがに、製作者達は現場の実態を熟知している。現場で奮闘する彼らの悲哀やプロ根性をうまく描き出し、それがまた「 笑いに繋がる 」という好循環を生んでいる。
 
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