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2017年02月19日12:56

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『 ザ・コンサルタント 』


事が詰まっていて身動きがとれないのだが、思い切って、劇場公開終了間近の『 ザ・コンサルタント 』を観て来た。『 バットマン VS スーパーマン 』主演をきっかけに、筋力トレーニングを積んだベン・アフレックの身体がひと回り、二回り大きく逞しくなっており、「 普通の会計士 」に見えないのは少々残念ではあったが、なかなか面白いアクション映画だった。

 ちなみに、映画の予告編やネットでは、「 職業・会計士、本業・腕利きの殺し屋 」という情報が氾濫しているが、本編を観る限り、主人公クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)の裏の顔(本業)を「 殺し屋 」と断定するのはいささか無理がある。凄腕ではあるが、やはり、彼の職業は会計士だろう。殺し屋とはお金をもらって人を殺すことを生業(なりわい)にしているプロを指し、天才的な殺人スキルをもつ凄腕の男を単に「 殺し屋 」と呼ぶことはためらわれる。

 【 物語 】 財務省の優秀な分析官メディナ(シンシア・アダイン=ロビンソン)は犯罪歴を隠して連邦政府職員になっていたことを捜査局長レイモンド・キング(J.K.シモンズ)に見抜かれ、「 経歴詐称で刑務所に行くか、私の命令に従うか 」の二者択一を迫られる。キングの命令とは、世界中の悪と繋がっていながら、彼らから命を狙われずに仕事をこなす「 会計士 」と呼ばれる謎の男の正体を突き止めることだった。会計士は「 二つの偽名 」を使っていること以外に一切の情報がない。メディナは彼の正体を暴くべく、情報収集をはじめるのだったが・・・・。

 この先、ネタバレ全開なので、未見の方はご注意願いたい。













 主人公の「 正体 」を物語の進行に伴い、徐々に描いていくアクション映画は少なくないが、『 ザ・コンサルタント 』は映画序盤で主人公クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)が「 会計士 」であることを明かしてしまっている。彼は少年時代から高機能自閉症で、ジグソーパズルを裏側から、数分間で組み立てられる記憶力と集中力、一度始めたことは完全に終わらせなければ気が済まない強烈な執着心をもっていた。高名な数学者から「 数字の天才 」と呼ばれるほど、ずば抜けた会計監査能力があるのは、その高機能自閉症に起因するものだが、「 物語の肝 」はそこではない。少年の頃から光と音の刺激に極端に弱く、他人とのコミュニケーション能力が完全に欠如。本来、施設に預けられ、一般人(健常者)と隔離して育てられるはずだった彼が、なぜ、高い格闘スキルと射撃術を体得しているのか、それを解き明かすことこそがこの映画のテーマである。

 クリスチャンの父親は心理戦を専門とする米陸軍の高級軍人だった。施設の医師が「 光と音の刺激から遮断して養育する 」ことを勧めた時、それに真っ向から異を唱え、反対に光と音の刺激に耐えられる教育を施し、障碍を克服させると宣言して施設からクリスチャンを連れ帰ってしまう。長じて「 会計士 」となった彼がセーフハウス(隠れ家)としているトレーラー内で安定剤を飲み、フラッシュライトの点滅と騒音の中で、むこうずねを木の棒でひたすら鍛錬する姿に父親の教育の成果を垣間見ることができる。父親は、息子が障害から逃げずに立ち向かい、将来、独りで生活できるようにと徹底的に追い込んだのだ。父親の勤務地が17年間で36回も変わったことで、クリスチャンは行く先々の学校で「 バケモノ 」とからかわれ、いじめられたのだろう。父親は彼と弟に格闘技の指導係をつけ、連日、血まみれになるまで稽古をさせた。そして、息子を殴った級友達を呼び出して、弱者としてずっと耐え続けるのか、戦って相手を組み伏せるのかとクリスチャンに迫る。「 お前が言いなりになっていれば、相手が気に入ってくれると思うなら間違いだ。奴らはお前が嫌いなんだ 」 父親の言葉に、クリスチャンは戦う道を選び、級友たちに向かっていく。

 その厳しい指導法に堪えられなかったのか、母親はクリスチャンと弟を捨て、家を出て行ってしまう。映画では、父親自身がほとんど語らないため、観客には「 頑固で、酷薄な父親だ 」と映るに違いない。そして、同時に、父親の厳しい指導に従わざるをえなかったクリスチャン兄弟が哀れに思えるかも知れない。しかし、それはクリスチャン自身の言動で否定される。彼は、父親の苛酷な教育に心から感謝していた。父のおかげで、彼は障碍を乗り越え、「 独りで生きていく技能 」を手に入れることができたからだ。

 映画冒頭、ギャングのアジトが何者かに襲撃されるシーンである。ハンドガンを構えて、じりじりと犯行現場に迫って行く男の正体が、出世する前の捜査局長レイモンド・キング(J.K.シモンズ)その人だったことが映画終盤でわかる。用心深く犯行現場に近づく彼の背後に忍び寄り、後頭部に銃をつきつけたクリスチャンが、キングにこう問いかける。

クリスチャン 「 何者だ? 」
キング     「 財務省の捜査官、キングだ・・・ 」
クリスチャン 「 あんたはいい父親か? 」

 クリスチャンがどのような陸軍時代を過ごしたのか、映画では断片的にしか描いていない。だが、彼が父親と同じ特殊部隊で情報戦についていたのは間違いない。軍刑務所に囚人として収監され、そこでターゲットとなる囚人と接触し、何らかの情報を収集していたはずだ。そこでたまたま同室となった、ギャングの会計係を40年務めた老人から裏社会の金の動きを教え込まれたことが、やがて「 会計士 」に転身する下地となっている。

 最後に、予告編が投げかける「 3つの謎 」について考えてみたい。彼が天才的な会計監査能力と、驚異的な暗殺能力を身につけている理由はすでに解明されている。

 では、クリスチャンが世界中の悪人達の資金流出問題を解決したり、マネーロンダリングに手を貸す「 動機 」は何だったのだろうか?  クリスチャンをサポートする唯一の仲間(電話の女性)が暮らす「 障碍者養育施設の多額の運営費 」を捻出するためだ。真っ当な会計事務所では稼ぎ出すことができない高額(年間1千万ドル=10億円)なギャラも、ギャングの会計監査を引き受けることで簡単にまかなえる。キングが疑問に抱いていた「 世界中の悪人と繋がっていながら、殺されない理由 」については想像するしかないが、ひとつにはギャングの財務をきれいに処理してくれる「 会計士 」の存在が彼ら裏社会の人間には必要不可欠だったことと、もうひとつはいったん彼に危害を加えようとすれば、徹底的な反撃を受け、ギャングのボスは組織もろとも壊滅させられるからだろう。定期的に捜査局長キングにかかってくる電話は、そういったギャングの犯罪情報だったと推測される。ギャングが「 会計士 」に仕事をさせ、高額なギャラを支払っている限り、クリスチャンも彼らを殺すことはないのだと思う。だから、彼の本業はあくまで会計士であって、殺し屋ではないと私は判断する。

 余談。

 個人的な好みから言えば、デンゼル・ワシントン主演の『 イコライザー 』のように主人公の日常生活をもう少し丁寧に描いてほしかった。ひきだしの中のカトラリーが整列しているところとか、何か手でつかむ前に指先を動かし、息を吹きかけるところなど、クリスチャンの障碍による習慣の描写が面白かっただけに、彼の嗜好描写をもっと見てみたい。シリーズ化に期待。
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