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2013年03月03日10:35

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『 アウトロー 』

 売りチケット(¥1300)を買っていたのに、入ったのがレイトショーの回(\1200)で、しかもその当日は「 映画の日 」(一律\1000)という「 ありえないめぐり合わせ 」の中、トム・クルーズ主演 / 製作の『 アウトロー 』を観て来た。先日の『 ゼロ・ダーク・サーティ 』がやや期待外れ、おまけに『 アウトロー 』の興行成績がTOP10ランキング圏外だったため気楽に観られたが、実に良い映画だった。テーマが全く違うので比較すること自体意味がないとは思うが、娯楽映画としては『 ゼロ・ダーク・サーティ 』より10倍面白かった(当社比)。やはり、トム・クルーズは良い。何が良いといって、彼が演じたジャック・リーチャーという品行方正でクリーンな正義の男が、トムのキャラにぴったりはまっているからだ。私は彼が演じた役では『 ザ・エージェント 』のジェリー・マグワイヤ(この役でアカデミー主演男優賞にノミネート)を一番評価しているが、ジャック・リーチャーというキャラの魅力はジェリー・マグワイヤとほぼ互角と思う。ところで、↓YouTube予告編はストーリーのダイジェストになってしまっているので、事前情報無しに映画をご覧になりたい方は観てはいけません。


 原作未読だが、これだけ謎の多いヒーローは珍しいのではないだろうか。陸軍士官学校出身でイラクへ派遣され、問題を起こして少佐から大尉に降格させられるが再び少佐に昇進。数々の勲章をもらい、憲兵隊の所属経験あり。その後、突如除隊し、アメリカに戻るも免許の取得記録無し、住所の記録無し、携帯電話やPCを持たず、メールもクレジットカードも使わない。軍人年金の引き出しは電信扱いで現金のみ。デジタル全盛の現代にあって、軍隊時代に受けた訓練と経験を駆使し、一切の生活痕跡を残さない謎の男、ジャック・リーチャー。正に、ジェイソン・ボーンと対極の存在だといえる。

 この映画の格闘シーンとカーチェイスは、実に正統的である。昨今、アクションシーンは手ブレの効果を活かしたハンディ撮影が中心である。同じシーンをカメラの位置や角度、サイズを変えて何度も撮影し、非常に短いカットで繋ぐことでスピード感と迫力を出すという、ポール・グリーングラス監督が『 ボーン 』シリーズで確立した手法だ。しかし、『 アウトロー 』はこの手法によらず、あえて長いワンカットで全体の流れを追っている。しかもジャック・リーチャーが使うのは、カリやシラットなど回転が速く、手数の多い格闘技ではなく、「 キーシ・ファイティング・メソッド 」という珍しい格闘スタイルだ( 『 ダークナイト 』でバットマンが使う技も同じだそうだ)。あまり観たことのない、極めて変則的で特徴的な技は相手を殺さずに効果的にダメージを与え、確実に戦闘力を奪うという点で逮捕術の一種ではないかと思われる。ジャック・リーチャーが憲兵隊時代に、捜査し捕らえる対象(容疑者)がすべて「 殺しの訓練を受けた軍人 」だということを想起させるに十分なものだ。カーチェイスも同様。並走する車載カメラの映像を短いカットで繋ぐのではなく、車載カメラあるいは地上のカメラが一連の動きを撮影している。これでは誤魔化しが利かない。実際に猛スピードで走り回るテクニックが求められるからだ。出来上がった映像はやや古典的な趣きがあるものの、「 疾走する車 」の全体像が非常に理解しやすくなっている。このあたりは好みが分かれるところかも知れない。この先、ネタばれを含むので、未見の方はご遠慮願いたい。


















 私がこの映画で感心したのは、ジャック・リーチャーの捜査手法である。まず、目の前の証拠を鵜呑みにせず、徹底的に疑ってかかる点。次に、事件を偶発的な無差別殺人と断定せず、被害者がどんな人物だったのかに目を向けている点である。そんな彼が導いた推理を「 再現ドラマ 」風に映像で何度も違った角度から観せてくれるのはわかりやすく、臨場感があって良い。これこそ映像作品ならではの醍醐味だ。

 そして、一番面白かったのは、狙撃事件を真相究明する過程で「 狙撃手の行動原理 」を丁寧に解説していることだ。無差別殺人の犯人として逮捕された米陸軍狙撃兵ジェームズ・バーを個人的に知るジャック・リーチャーだからこそ、「 訓練された狙撃兵は決してミスしない行動を無意識にとる 」という前提に立って現場検証を行ない、バーなら絶対に立体駐車場から狙撃するはずがないとの結論を導き出す。この場合、イラク派遣時にジェームズ・バーが現地で完全犯罪を実行しているという前例が非常に大きな意味を持っていた。軍用毛布で作った即席のサプレッサー(減音器)を使い、現場は順光で、しかもターゲット(PMC)は路地に縦列で立っていた、映像では言及されなかったが、当然、排出された薬莢もバーは間違いなく回収していたはずだ。罠にはめられたと気づいたバーが、ジャック・リーチャーを頼ったのも頷ける。自分の完全犯罪を見破った彼なら、必ず真相を解明してくれると悟っていたのだ。

 陸軍では「 並みの腕前 」だったバーが、逆光で動標的を次々に選んで狙撃しているというのは「 そろい過ぎた証拠 」同様に不自然だとの解説は興味深いものだった。また、映像では自然に映った「 外した一発 」の意味が弾頭を回収させ、バーのM14(M1A?)の線条痕と照合させるためだったとの推理も面白い。反対に、映像ではわかりにくかったが、最初の犠牲者(ベンチに座っていた)から二人目の犠牲者(本当の標的)までの発砲音が最も時間差が大きかった(慎重にサイティングした証拠)との指摘も納得できた。こういう狙撃のディティールをさり気なく描いている点はなんとも好ましい。

 野外射撃場のオーナー、キャッシュ(ロバート・デュバル)とリーチャーの会話も非常に面白かった。彼がリーチャーを「 陸軍だな 」と決め付けたのは、「 リーチャーが海兵には見えないから 」だったが、リーチャーが「 親父は海兵だった 」とやり返すと、「 それなら、お前は半人前だ 」と切って捨てる。第二次大戦中から続く海兵隊と陸軍の反目、特に海兵が陸軍の兵隊を馬鹿にするする風潮が如実に表現されていておかしかった。海兵は全員が志願兵で士気が高く、全員が狙撃に長けている。しかも、「 海兵はみな家族 」という生涯変わることのない堅い絆で結ばれていることが彼らの誇りである。親父が海兵なのに、自分は陸軍を選ぶ息子など一人前とは認められない、というのがキャッシュの考えだ。さすがのリーチャーもキャッシュには終始やられっぱなし、というのが良い。クライマックス、電話一本で遠路駆けつけたキャッシュがM14(M1A?)で援護に回り、リーチャーには銃器を渡さないのも傑作だ。ちなみに、キャッシュが援護中に移動しているように見えなかったのだが、これは当然「 一発撃つごとにポジションを変えている 」と解釈した方が良いだろう。最初にライトを撃ってくれ、と頼んだリーチャーに「 そんなことをしたら、こちらの居場所が敵にわかってしまう 」と拒否しているくらいだから、キャッシュが同じ場所で撃ち続けるわけがないのだ。もう一つ。右目がよく見えないキャッシュが左目でサイティングして射撃していたのは、会話との整合性を重視した細かい演出だと思う。

 ジャック・リーチャーが日常銃器を携行していない点は実に興味深い。運転免許取得歴や住所の記録がないのだから、当然、銃器所持許可や携行許可を持っているはずがない。クライマックスの銃撃戦で彼が敵のアサルトライフルを奪った後、適時右左に構えなおしている点も素敵だ。壁を背にして、右側を撃つ時は左構え、左に撃つ時は右構えにスイッチしている。その上、弁護士ヘレンの陰に完全に隠れた敵と対決する時、あらかじめダットサイトやその他の装備をアサルトライフルから外し、身軽なアイアンサイトで狙い撃っているではないか。実に、クールである。

 さて、最後にもうひとつ。ジェームズ・バーの弁護士ヘレン(ロザムンド・パイク)との関係がパートナー以上に進展しなかったのは、リーチャーのクリーンさを際立たせていた。リーチャーのモーテルで上半身裸の彼にどぎまぎしていたヘレンは、リーチャーが「 俺はもう眠る。君もだ 」と彼女の手をとった時、抵抗せず「 ちょっと待って 」と明らかに恥ずかしがっている。実際は「 君ももう帰れ 」と彼女の車のキーを渡しただけだったが、ここも憎い演出ではないか。今後、リーチャーとヘレンの関係がどうなるのか、そもそも続編以降にヘレンが登場するのかも含め、楽しみなシリーズである。トム・クルーズ、最高!!
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