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2013年02月25日13:39

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『 ゼロ・ダーク・サーティ 』

 しみにしていた『 ゼロ・ダーク・サーティ 』を観た。監督キャスリン・ピグロー、脚本マーク・ボールという『 ハート・ロッカー 』のコンビが再び組み、綿密な調査によって練り上げた脚本を映像化したのだから、これは期待するなという方が無理な話だ。9.11テロを主導したオサマ・ビンラディンの行方を探索するCIAがいかにして隠れ家を発見し、ビンラディン邸奇襲作戦を遂行したか、その全貌を明らかにしたのが映画『 ゼロ・ダーク・サーティ 』である。

 物語は、パキスタンのCIA支部に配属された若い女性職員が容疑者の拷問に立ち会うシーンからはじまる。彼女の名前は、マヤ。高卒でCIAにリクルートされたノンキャリアだが、ワシントンの意向でアルカイダ専門の追跡チームに情報分析官として着任したのだ。華奢で地味なマヤを、分析官としてあまりに若過ぎるのではないかと同僚達から能力を疑問視する声も上がったが、巨額の資金と人材を投じてなおビンラディンの手がかりを掴めないアルカイダ追跡チームの中でマヤは従来の手法にこだわらず、確実に自分のやり方で情報収集と分析を進めて行く。ある時、捕虜の尋問で「アブ・アフメド」という人物が浮上した。マヤは、アブ・アフメドこそビンラディンの所在をつきとめるための重要な鍵ではないかと考えたが、支部長は彼女の進言に耳を貸さない。アブ・アフメドはビンラディンとアルカイダ幹部を結ぶ連絡員だと確信したマヤは、さら情報収集を継続するのだったが…。



この先、ネタバレを含むので未見の方はご遠慮願いたい。


















 実際にビンラディン探索と、強襲殺害作戦に従事したそれぞれの関係者から聞き取り調査をしただけあって、この映画の描写は非常に精緻で興味深いものがある。しかし、それがどんなに意外性に富んでおり、調査によって明らかになった貴重な事実だろうともただ羅列しただけでは面白い映画にはならない。正直、ちょっと期待はずれの出来だった。面白いとか、つまらないとかいう一般的な評価は『 ゼロ・ダーク・サーティ 』のテーマには本来そぐわないのだが、なぜ、『 ハート・ロッカー 』のようにきちんと劇映画として演出しドラマを構成しなかったのか、ただただ残念だ。時間の経過や新しい情報の評価など、もう少し丁寧な状況解説がほしかった。また、ドラマチックな描写を排除しようとする意図はわかるが、その効果は疑問である。クライマックスのビンラディン邸奇襲は事前に作戦詳細を描写することなく、いきなり決行しているが、ここはブリーフィング映像によって観客と情報共有を図るべきだったと思う。せっかくの緊迫シーンがもったいない。また、同じ拷問シーンひとつとっても、『 ルートアイリッシュ 』や『 デンジャラス・ラン 』の方がはるかに緊張感ある映像に仕上がっている。おぞましく、はりつめた拷問シーンであればあるぼど、「 非人道的な拷問によって得た情報が、多くの一般市民の命を救うという必要悪のコントラスト 」はより鮮やかになったはずだ。テロを阻止するためには何をもいとわない主人公達の心の葛藤を明確に描かなかったことが、今一つ、マヤ達の行動に共感しづらい距離感を残してしまったと思う。

 私は『 ゼロ・ダーク・サーティ 』はアフガン紛争、またはソマリアでのモガディシオ市街戦から描き始めるのではないかと予想していた。オサマ・ビンラディンがいかなる人物かを説明するには、彼がアメリカから資金援助を受けてアフガニスタンでソヴィエト軍と戦っていたことや、『 ブラックホーク・ダウン 』で描かれたソマリア民兵との戦いがビンラディンのシナリオで仕掛けられたことを明らかにする必要があると思われたからだ。特に、モガディシオ市街戦に勝利しながら、犠牲の大きさにあわてた当時の大統領クリントンがソマリア内戦を終息させずに米軍を撤退させたことは「 アメリカは弱腰 」という誤ったメッセージをビンラディンに送ることとなり、9.11を決意させたとされるだけに、その説明は不可欠だろう。しかし、映画はこのあたりを一切描かない。ビンラディンはあくまで9.11でアメリカ市民3000名の命を奪ったテロ攻撃の首謀者であるがゆえに追及されているように映る。実のところ、ビンラディンは9.11を主導した罪ではなく、対米テロ攻撃を推進していることで排除(殺害)されたのは間違いない。映画のラスト。ビンラディン殺害後、輸送機でただ一人ワシントンに向かうマヤが涙を流すシーンが暗く重苦しいのは、彼を殺害したところで殉職した仲間達が生き返るはずもなく、また、ビンラディン一人を排除したところでテロリストとの戦いが終わったわけでもないことをマヤは勿論、観客も知っているからだ。対テロ戦争に「 はじまり 」はあっても、「 終わり 」はない。
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