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2012年03月09日14:04

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『 戦火の馬 』

今、どこの映画情報番組でも必ずベスト3にランクインしている話題の作品、『 戦火の馬 』を深夜に観て来た。監督はスティーブン・スピルバーグ。『 プライベート・ライアン 』によって従来の戦争映画の表現スタイルを完全に塗り替えてしまった巨匠である。以降、戦争映画のみならず、映画、ドラマのアクション描写に大きな影響を与えたといっても過言ではない。『 アミスタッド 』や『 シンドラーのリスト 』では人種差別や大量虐殺といった深いテーマに鋭く切り込んだスピルバーグが、今度は第一次大戦を描くとあって、大いに期待して出かけた。

 物語は英国の豊かな農村地帯デヴォンで、一人の少年が野外で馬の出産を見守るシーンから始まる。彼の名はアルバート・ナラコット(ジェレミー・アーヴァイン)。彼は新たなる生命の誕生を目撃できたことに興奮し、目を輝かせるが、将来、誕生した子馬と堅い友情で結ばれることになるとは夢にも思っていなかった。彼の父・テッド(ピーター・ミュラン)は地主から農地を借りて農業を営む小作人だった。ボーア戦争でたくさんの勲章をもらうほどの活躍をした元兵士だが、戦場で多くの敵兵を殺した自分を許せずに、心を閉ざしたまま酒で憂さを晴らす男に成り果てていた。ある時、農耕馬を買いに出かけた馬の競り市で、地主のライオンズへのつまらぬ対抗心から見事なサラブレッドを落札する。彼が競り落としたのはアルバートが誕生を目撃した子馬の成長した姿だった。アルバートは大喜びし、馬にジョーイと名付け、その日から全身全霊を傾けて、調教に取り組んだ。いつしか、アルバートとジョーイは心を通わせ、兄弟のような絆で結ばれる。ジョーイの購入によって、農耕馬の数倍の金額を支払ったテッドはライオンズへの地代が払えず、窮地に立たされる。息子アルバートとジョーイのおかげで荒れ果てた土地の開梱に成功したテッドは、畑にカブを植え、その収穫を売って地代を払う算段をつけるが、突然襲った嵐によってカブは壊滅的打撃を受けてしまう。地代が払えなければ、土地と家を追われ、一家は暮らしていけない。テッドはついに息子の愛馬ジョーイを英陸軍に売り、その代金で地代を払うことにする。買い取ったのは、陸軍軽騎兵連隊のニコルズ大尉(トム・ヒドルストン)。涙を流し落胆するアルバートに大尉は、「 私が一時預かるということでどうだろう。戦争が終ればジョーイは必ず君にお返ししよう 」と約束してくれた。ついに諦めたアルバートは、父・テッドが所属した義勇騎兵大隊のペナントをジョーイのクツワに結び付け、「 これは生きて帰ることができる、幸運のお守りです 」とニコルズ大尉にジョーイを託すのだった。軽騎兵連隊は海峡を渡り、フランスの戦場でドイツ軍歩兵師団を捕捉。指揮官のスチュワート少佐はただちに奇襲攻撃をすることを決意した。ニコルズ大尉はアルバートから預かった義勇騎兵大隊のペナントを鞍(くら)に結び、出撃して行くのだったが・・・・。


 この映画は、イギリスの作家マイケル・モーパーゴの児童小説『 War Horse 』を原作としている。戦争に翻弄される人々と馬を描いてはいるが、家族で安心して鑑賞できる「 きわめて健全な映画 」だ。テンポはゆったりとして、映像は絵画的で美しい。だから、これまでのスピルバーグの硬派な作品を期待して劇場に出かけると、少々戸惑うことになるだろう(私がそうだった。笑)。近年の戦争映画としては珍しい騎兵突撃のシーンや、第一次大戦映画としては外せない塹壕戦も登場するが、その描写は『 プライベート・ライアン 』とは全く次元が違う。手足が千切れて吹き飛ぶこともなければ、おびただしい流血や内臓が散乱する悲惨な地獄絵図はない。二重三重のオブラートに包まれた「 青少年向けの表現 」に徹底されている。児童文学の映像化を、オトナの目であれこれ批判するのは野暮というものだろう。戦場を舞台としたファンタジー映画として、たまにはこういう感動作に触れるのも良いものだと思う。

 ちなみに、劇場で買い求めたパンフレットに、プロデューサーからこの作品の映画化を薦められた時のスピルバーグの反応が書かれていた。彼は「 もう戦争をテーマにした映画を撮る気はない 」と一度は断ったのだという。『 プライベート・ライアン 』、それに続くTVミニシリーズ『 バンド・オブ・ブラザース 』『 ザ・パシフィック 』と凄惨な戦場描写の映像化を果たしたが、おそらく達成感を覚えると同時に、半ば辟易とした思いを抱いていたのかも知れない。スピルバーグも老境に入り、『 戦火の馬 』のような作品を好むようになったのではないだろうか。
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