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2011年10月13日07:27

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『 アジョシ 』。

 囲の評判がなかなか良いので気になっていた『 アジョシ 』を観て来た。平日朝一番の回だったが、水曜日(レディースデー)のため女性客が多く、予想外の盛況(男性客は私ただ一人)。韓国映画を劇場で観るのは、『 ブラザーフッド 』以来のことだ。『 ブラザーフッド 』は朝鮮戦争をテーマにした作品である。物語の暑苦しさに加え、『 プライベート・ライアン 』の影響を受けたブレブレのハンディ撮影がずっと続くので、カメラ酔いをしたのには閉口した。何より、主人公(チャン・ドンゴン)の弟のキャラが嫌いで、純真だが狭量、被害妄想の強い弟に逆恨みされた兄が結局、死地に追いやられる展開には納得が行かなかった。それ以来、韓国映画は避けて来たが、最近になって抵抗感が払拭された。ウォンビンの映画は初めて観ると思っていたが、なんと、この弟を演じたのがウォンビンだと知った。実に皮肉なものである。しかし、今回のウォンビンはまるで違った。

 さて、『 アジョシ 』である。街の片隅の古ぼけたビルで質屋を営むテシク(ウォンビン)は暗く寡黙で人付き合いをせず、近所の人々からは「 質屋のお化け 」と呼ばれていた。麻薬中毒でダンサーの母と、隣の部屋で暮らす少女ソミ(キム・セロン)は、自らも孤独であることからテシクを慕い、「アジョシ(おじさん)」と呼んでは何かと接触を求めて来る唯一の存在だった。ある日、ソミの母親が交際中の若い男と共謀して組織の麻薬を奪ったことから、母子は組織に追われ、マンソク兄弟達に拉致されてしまう。テシクはソミを奪い返すため、彼らの要求に従って裏社会のボス、コ社長に奪った麻薬を返しに出かけるのだったが・・・・。

 孤独な男と幼い少女の心の交流から、この映画は『 レオン 』や『 タクシードライバー 』との類似性を指摘されているようだが、さほど似ていない。むしろ、娘の救出に奔走する父親を描いた『 96時間 』の方がずっと近い。テシクが赤の他人であるソミの救出に命をかける姿は、正に「 父と娘の物語 」だと言える。この先、ネタバレを含むので未見の方はご遠慮願いたい。



















 母子を奪還しようとするテシクが、マンソク兄弟の要求に従って、コ社長のところに奪った麻薬を届けに行かされたのは彼らの謀略だった。マンソク兄弟は、テシクが麻薬を届けに行くことを警察に通報して逮捕させ、コ社長の勢力を裏社会から一掃することを企んでいた。

 取引現場でコ社長の手下達と一緒に逮捕されたテシクの背景を警察は調べるが、彼の記録は全く残されていなかった。正体不明のテシクの謎が徐々に明かされていくのは面白いが、できればクライマックス近くまで解明を先延ばしした方が良かったのではないかと思う。彼が軍特殊部隊で近接戦闘術(CQB)の教官をしていたことや、要人拉致・暗殺の特殊作戦要員だったことからスリムな身体でありながら「 とんでもなく強い 」ことも大いに納得できる。素手で敵のナイフやバットを防いだり奪う至近距離で威力を発揮するシラット(インドネシア武術)は見事だし、ナイフを使ったアーニス(フィリピン武術)では攻撃と防御の両面で同時に敵を損傷させ、さらには小さな動きで動脈と腱を狙って切り裂くテクニックは実戦的だ。最強の敵、ヴェトナム人ボディーガードのラム・ロワンとのナイフを使った格闘戦も回転の早さ、手数の多さで圧倒。特に、一撃必殺でナイフを突き立てるのではなく、素早く何度も突き刺すことで確実に相手にダメージを与えるのもリアリティがあった。しかし、近接戦闘が強いだけでは残念ながら特殊作戦要員らしさは不十分である。テシクの目的は無事にソミを救出することにあるのだから、彼にとって最も大事なのは「 ソミがどこに監禁されているか 」という情報にあった。そして、ソミ救出を成功させる戦術にこそ、テシクの特殊作戦要員としての真髄があると言えるだろう。怒りにまかせ、暴れ回り殺しまくるのではヤクザの出入りと変わらない。「 情報と戦術 」を描かず、テシクの肉弾戦を中心に据えてしまったことは惜しいと言わざるをえない。

 ちなみに、テシクはマンソク兄弟の性質を見誤っている。マンソク弟を痛めつけてマンソク兄を脅し上げ、ソミを解放させようとした目論見が失敗するのは当然だ。彼らはテシクがコ社長の元に麻薬を届ければ「 母子は無事に帰す 」と約束しながら、その時点ではすでに母を殺していたのだ。マンソク弟はともかく、マンソク兄は筋金入りで脅しに屈しない。電話で脅せば、ソミに危険な目に遭う可能性を予見しなかったのは感心しない。弟が殺されるかも知れない状況で、マンソク兄が報復にソミの目をくりぬけと電話で部下に命じた時点でテシクのミッションは本来失敗だろう。

 ウォンビン演じるテシクはもちろん格好よかったが、特筆すべきはタイ人俳優タナヨン・ウォンタクランが演じたヴェトナム人ボディーガードのラム・ロワンだ。マンソク弟が母を拷問するシーンに帰宅したソミの目をロワンがそっと手で塞いだり、監禁先でソミがロワンの額の傷にバンドエイドを貼ってくれた時の表情を見れば、彼がソミの窮地を救ってくれるだろうことは予測できた。彼はヴェトナム語と英語しか話せないため、テシクと交流できずに戦うしか道はなかったのだが、彼自身はテシクと直接対決することを切望していた。テシクがマンソクの部下達を倒すのをわざわざ待ち、テシクが「 目玉を入れたボトル 」を拾おうとした時にボトルを撃ったのはその証しだ。ロワンがボトルを撃った瞬間、「 あぁ、ソミは無事だな 」と私は確信した。寡黙な異国の殺し屋ロワンは、味わいのあるキャラだった。

 余談。

 テシクが入手した銃(グロック)を右手で耳のところに持って行き、スライドの動作音を片手で操作しながら確認するのは「 銃器を使い慣れている感じ 」が出て、格好よかった。本当にあれが可能か、次回グァムでトライしてみたいと思う。
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