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2009年06月23日13:22

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『 刑事一代 』。

 画しておいた『 刑事一代 〜 平塚八兵衛の昭和事件史 〜 』を観た。先週末に二夜連続で放映された、テレビ朝日開局50周年記念ドラマである。主人公・平塚八兵衛は交番の巡査から刑事になり、一度も昇進試験を受けずに警視にまでなった「 伝説の刑事 」だ。私の大好きな俳優である渡辺謙が平塚八兵衛を演じたのだが、観る前は正直、不安だった。実在の平塚八兵衛より渡辺謙は身長で20cmも高く、体格がまるで違う。出演者の中でも、渡辺はひときわ大きいのである。しかし、それは杞憂に終わった。「 喧嘩八兵衛 」の異名をとった伝説の刑事を、渡辺は見事に演じ切ったのだ。「 その場その時の平塚八兵衛がそうであったろう 」と思える、素晴らしい演技であった。観応えのあるドラマに、久しぶりに感動を覚えた。

 ドラマを彩った俳優陣はなんとも豪華だ。脇を固めた彼らの存在感のおかげで、このドラマは格段に重みを増している。中でも傑出していたのは、現場で捜査するベテランより年齢が若く、経験も乏しいのに、階級だけは高く利己的な警察官僚を演じた永島正敏(警備員殺人事件の指揮官、北村警視)。八兵衛の初めての上司で、彼の才能を高く評価してバックアップした柴田恭平(警視庁捜査一課主任 加山新蔵)。そして、吉展ちゃん事件の犯人・小原保を演じた萩原聖人(画像下:右)だ。

 私が平塚八兵衛の名前を初めて聞いたのは、小学生の頃だった。いつ、どこで聞いたのかは記憶に無いが、その名を口にしたのは実家の親父だったことは忘れない。親父は人前で喋るのは得意ではないが、映画やドラマの話をさせると抜群に上手い。親父の話があまりに面白いので、未見の映画を探して観てみると、親父の話そのままだったり、中には聞いた話の方が面白かったりもしたが、それは余談。親父が語る「 平塚八兵衛 」という、時代劇に登場するような古風な名前と、優秀な猟犬のごとく殺人犯を執拗に追う伝説の刑事のエピソードは、子供だった私の記憶に鮮明に刻まれた。後年、雑誌の特集記事でインタビューに答える平塚八兵衛の姿を初めて見たが、鋭い眼光と頑固そうな面構えの、昔かたぎの職人といった風に痛く納得したものである。

フォト


 平塚八兵衛は綿密な現場捜査から犯人のアリバイを衝き崩していくタイプの刑事だが、彼の武器は直感(デカの勘)と人並みはずれた記憶力だ。吉展ちゃん事件では、強靭な精神力をもった「 天才的な嘘つき 」である犯人・小原保の拘留期限間際、雑談のさなかで小原が漏らした「 日暮里の大火事は凄かった 」という言葉を平塚八兵衛は聞き逃さなかった。日暮里の大火事があった当日、小原の供述では東京から遠く離れた故郷の福島にいたことになっていたのである。普通の刑事なら、うっかり聞き逃したであろうし、後日、問い質しても小原は平然ととぼけたに違いない。調書の内容を全て暗記していた平塚八兵衛だからこそ、絶好の機会に追求が可能だったのである。

 インタビュー記事の中で印象に残ったのは、平塚が「 ・・・猜疑心を持ってはいけない 」と再三述べていたことだ。文章の前後関係からすると、それは「 先入観 」の意味で使われていた。彼は自分自身で捜査をして納得しない限り、情報を鵜呑みにしなかった。事実、彼の捜査によって、他の捜査員の調査報告や鑑識の鑑定はたびたび覆されている。先入観を持たないことと、自分の直感を信じることは一見矛盾したように思えるが、平塚八兵衛の中では理にかなっていた。科学捜査が台頭した現在、彼のように「 現場百回 」を信条とし、寝食を忘れて犯人検挙に奔走する刑事が少なくなったのは、実に惜しいことだと思う。帝銀事件で名刺班班長・捜査一課岸田警部補が語った言葉が、平塚八兵衛の真価を表現している。

 「 (平塚の強引は捜査は)人として間違っているかも知れないが、君のような者がいなければ、先に進まないヤマ(事件)もある 」



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