キングの長編はほとんど読んでいない。
でも昔の短編集はけっこう読んでいる。
だから中編の「霧」も読んでいる。
読んだころ「クトゥルフのＴＲＰＧでやりたいなあ」と思った作品だ。
てっきり原題が「フォッグ」なのだろうと思いこんでいたので、「ミスト」というタイトルに引っかからなかったのだ。
が、「謎の霧が出てスーパーマーケットに閉じこめられた人々」というあらすじを聞いて「もしかして？」と思い、調べてみたらやっぱりあの小説の映画化だったものだから、俄然興味がわいた。
映画館に行ったら、ポスターに「ラスト１５分がすごい！」的なことが書いてあって、どういうこと？ と思いつつ鑑賞したのだが……。
結論。
とにかくすごかった。
今年見た中では一番かな。
ラストのすごさはもちろんだけど、それだけでなく、どっちかというと血生臭くて心霊的でないホラー映画なのに、ちゃんとキングのテイストが感じられるのが良かった（だってほら、シチュエーション的には『デビルトラック』に似てるじゃん、この映画）。
見に行く人は、原作を読んでから行くといいと思う。
もっとも、原作も「感銘は受けても同時に気が滅入る話（だから私は基本的にはキングよりクーンツの方が好き）」な上に、色々と残酷な方法でグチャグチャ人が死ぬので、そういうのがダメな人には初めから勧めない。
いや〜な気分になること請け合いだから。
とりあえず、そうでない人は絶対に見よう。見て欲しい。
特にＴＲＰＧの「クトゥルフの呼び声」好きの人は、1800円払って見ても損はないと思う（私はメンズデーで1000円で見たので非常に得した気分である）。
で、ここから先はネタバレあり。
見てきた人だけ読んで欲しい。
たとえ「ＤＶＤ化されたら見ればいいや」ぐらいの気持ちの人でも、絶対にこの先を読んじゃダメだ。
絶対に。
まず最初に、ラストシーンのことを片付けてしまおう。
駐車場で拳銃を手に入れたところで（原作でも手に入れるのは同じだったと思う）、「もしや……」とは思った。
あれが自殺用ってだけではなくて、いくつかの可能性を考えたときの最悪のケースまでをその時に思いついていたので、その点についてはちょっと自分をほめたい。ほめたいが、実際に予想通りの展開を目の当たりにしたときは「でもそれ本当にやるんかいっ？！」という気分だった。
あとはもう笑うしかない。もちろん「ひひひひ〜っ」て感じにだ。
最初のほうで「子供が心配だ」ってスーパーを去っていった奥さんが、最後に子供たちと助かっている辺りなんか最高だ。
色々な意味で皮肉な作品で、皮肉が二回転半ひねりぐらいしちゃってる感じ。
「ほ〜らね、世界はちゃんと救われてるでしょ？」とか嫌なささやき声が聞こえてきそう。
「すげえ！ よくそこまでやった！ 面白いっ！」と喜んでいる物語の作り手の端くれとしての自分と、「その手のひっくり返し方はなあ、みんなやろうと思えばできるけど観客に悪いと思ってやらないだけなんだよ！」と、いや〜な気分になっている観客としての自分とが、はっきりと心の中で認識できた。
それ自体が、かなり新鮮な感覚だった。
でも、この結末ってキング作品だから許されることだよ。たぶん。
スーパー内での人間ドラマ（非人間ドラマ？）もよかった。
もちろんキングの原作では、そこが真骨頂というか醍醐味というかなわけだが、映画でもってよくぞあそこまできっちり脇役も描き分けたと思う。
自分に都合のいい解釈ばかりする狂信者のおばさんの言動と、それを信じちゃう人々を見ていると、身近なトンデモの人々を思い出して本当にイライラさせられるんだが、さりとて主人公のようにできる限り理性的に頑張ってもあの結末が待っている――というラストの展開は「世の中なにが確実かとか正しいかなんてこと、本当は誰にもわからないんだよ」的（納得はさせられるけどどこかに痛みが残るというキング的）で、どうにも消えない痕を残していく。もやもやさせられもする。
むろんそこがこの映画の良さではあるのだが。
良さではあるのだが……。←と、私がこうなること自体、ちゃんと「キングしている」映画だという証拠だと思う。
あと、ＴＲＰＧ「クトゥルフの呼び声」を知っている人は違う見方をしてしまうだろうなあ……という色々な局面があった。あのゲーム、やっぱりよくできてるなあ。
クリーチャーの絶望的な異界感も良かった。どれも作り物っぽいところをあえて活かしているというか。おぞましいよ。あれは。うん。
まだ色々と言いたいことはあるが、とりあえずここまで。
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