ブックオフでたまたま見つけた本。
あらすじを読むと、「東インド会社（だと思う）の代表の英国貴族の専属料理人だった主人公が、本土の屋敷を奇襲した女海賊の船に拉致され、捕虜として船に乗せられたまま『一週間毎に船長に特別なディナーを出す』ことを強要され、劣悪な海賊船での美味しいもの作りに苦労するうち、確固たる意志を秘めた女海賊の壮絶な戦いに巻き込まれていく……」みたいなことが書いてあったので、こりゃ面白そう！ と、読んでみた。
「料理」に「植民地時代の女海賊」である。ネタ的にどっちも好きだ。
予想通り、大いに楽しめた。
とはいうものの、修道院育ちで長年東インド会社の貴族を主としていた主人公の手記なので、どこか堅苦しく、海賊たちを否定しまくって、色々あってもずーっと脱走することしか考えてないので、なかなか感情移入できない。おかげで読むのにけっこう疲労度がたまる感じがした。まあ自分でもこの時代の海賊船に乗り組みたいかと言われたら二の足を踏むけど、海軍の下っ端よりはマシな気がするんだけど、主人公のオーエン・ウェッジウッドは海賊たちをものすごく下に見てて、なんかイライラするのだ。
作者は読者がそうなるのも狙ってるんだろうな〜とは思うが、だんだんと海賊の立場や生活を理解してくる――という段取りのテンポが、この作品ではとても遅いのだ。だから、話に乗っかりにくい気がした。そこがちょっと欠点。もう少し、楽しく海賊に染まっている期間を長くして欲しかった。
脱走して戻ろうとしている側が、読者にとっても悪だと感じられるように描かれているのだから、「いやいやいや、そこはちがうって、ウェッジウッドさん」となるから……。
一方、海賊のキャラクター造形が実に良い。
女海賊のハンナ・マボットは美貌だけれども若々しいわけではない。船を仕切るためには残酷なことも平気でやるが、実にかっこい信念の下に戦っている、たまらんキャラだ。
年齢といい、船長にまでなった女海賊と考えるとリアルな気がする。海賊になる前の生い立ちもものすごいし、対立する東インド会社や、追っている海賊や、追われている宿敵との因縁も色々と良い。彼女の無謀だが崇高な目的がなんなのかは、ここでは書かない。ぜひ自分で読んで確かめてほしい。
そして、私が好きなポジションの「側近」たちがいいのだ。
暴力と知略と砲術に長けた巨漢で、マボットが頼りにするミスター・アップルズは見た目に似合わず趣味が編み物だったりして実にいい側近だ。
それと、処刑寸前に助け出されたという中国人の双子の憲法使いのフォンとバイ。彼らは船長の忠実なボディガードであり、鍼灸や漢方の使い手でもあるので、船の外科医よりよほど頼りになる。
それから、海賊たちの脇役で渋いところでは、たしか一度もセリフがなかったけど日本人のキズも良い。日本の捕鯨船から味噌や醤油を買い付ける（という謎のシーンがあるのだが）でもちらっと出てきたけど、なにより漁の名人で、食材で苦労するウェッジウッドに釣り上げた新鮮な魚介類を提供し続けていた。
執拗にマボットを追ってくる宿敵のフランス人、ラロッシュも良い。科学者で発明家で、ナポレオン時代に海軍の秘密兵器を売り込み作った艦隊を、マボットに壊滅させられた恨みで、ものすごい最新兵器（太陽光の光学兵器や、気球による観測など）を数々搭載した特殊戦で襲ってくる。
どうでもいいことだがこの作品、昔、我々がバカカードでやったバカ物語の「海賊 魔王の冒険」というやつに、かなり似ていて笑ってしまった。
お話のラストは好き嫌いが分かれるところではあるけれど、海賊らしいお話だったと思う。これ、映画にならないのかなあ。
ぜひ映像で見てみたい作品だよ。
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