ブータン２　生死観？

　ブータンに「お墓」はありません。あるのは「仏塔」。高僧を偲んで建設された５階建てのものから、遺骨を粉にして練って作った数センチのものまで、その姿は様々です。
　物悲しく、壮麗で、静謐な白い塔。死者を悼みながら、生者は生きている意味を考えます。
　仏塔（チョルテン）は必ず時計回りに通って敬意を示すことになっているで、右側行っちゃダメよ。

　ブータンの人は、殺生をものすごく嫌がります。
　「いま殺した蚊はもしかしたら母親の生まれ変わりかも」という、百年くらい前まで日本にも根付いていた輪廻思想がガッチリ生きてるんですね。
　これ、どれくらい徹底してるかって、例えば国内には「防虫剤」はあるけど「殺虫剤」はありません。都会化が進み初めてて、インドやタイから少しばかり主食の米を輸入しているのですが、実は米農家が農薬さえ使えば100％自給できるんだそうです。＜技術は日本がとっくに伝達済。
　外貨獲得にヒーヒー言ってる国で、そこまでするか‥‥

　虫関係で私が困ったのは、標高2000mより下がると蠅がすごかった事ですかね。料理を入れる容器には必ず蓋があって、剥き出しになっているのは今食べているmy取り皿だけーという食事方法なので、不衛生なことはないんですが‥‥


　　　羽音がうるさくて眠れないんじゃ──！！


　仕方ないので、持参した虫よけスプレーを枕の周囲にブシューっと撒き撒き。まだ季節は春なので、これからもっと蠅支配地域の高度は上がり、数は増えるらしいです。蚊も出てくるって。虫よけスプレー必帯。
　でも、蚊取り線香は使えないなぁ‥‥日本の蚊取り線香、性能は世界一で東南アジア旅行には必ず持っていくんですが、この国に限っては、ホテルの部屋の中で虫が死んでたらお掃除する人が悲しむよなぁ‥‥

　ちょっと笑っちゃったのが、蠅の学習能力。
　タイで買った、小魚を揚げて味付けしたおつまみをですね、食べきれなくてブータンに持ち込んだんですよ。魚の匂い、蠅って大好きでしょう？だから覚悟して蓋を開けたんですが‥‥
　蠅さん達、見事にスルー。
　ブータンでは魚を誰も食べない（殺さない）から、それが「食べ物の匂い」だって知らないみたいなんです。紅茶には砂糖やミルクを入れる前から群がってくるのに、小魚は完璧スルー。
　こういう事ってあるんだ‥‥（笑）

　と、いう訳で、殺生を極端に嫌うこの国では、植物が激減する高山域の遊牧民を除き、食事にはあまり肉が登場しません。
　牛さんは乳用だから食べない。羊さんはウール用だから食べない。馬さんは運搬用だから食べない。鶏さんは卵用だから食べない。
　例外が豚とヤクで、両方とも干肉にして特別なお祝いの日に食べます。私をホームステイさせてくれたお家では、「日本から客が来た！」とわざわざ作ってくれました。なのに御免なさい、私は普段から肉あんまり食べない人です；_；（中学生の男の子が大喜びで引き受けてくれました。育ち盛りに菜食主義はキツいよねー）

　ヤクは標高3000m以上でしか飼えない大型家畜で、まだ寒い時期だったので数回目にすることができました（夏になるともっと上に放牧しに行く）。フッサフサの毛が暖かそうな、ノンビリした馬鹿デカい生き物。右の写真ね。
　何故、乳を出さない牡牛ではなくヤクを食べるのかが不思議だったのですが、実物を見て納得です。牛一匹を殺すより、ヤク一匹を殺す方が、肉が沢山とれるからか‥‥
　内蔵を含めて肉は全て食べ、骨髄も蹄も煮溶かして食べ、血はソーセージを作り、毛は織物にし、皮は鞍などの道具を作り、骨は仏具や楽器にします。無駄は欠片もありません。常日頃から「殺すなら食えや！」とヨーロッパの狐狩りなんかを苦々しく思っている私ですら、唖然とする徹底ぶり。
　農民は一匹単位で放牧民からヤクを買い、干し肉にして大事に食べる訳ですが、解体は専門業者にやってもらうそうです。自分達では殺せないんだって。

　実は、米と野菜と豆と乳があれば、人間は動物を一匹も殺さずに一生の必要栄養量を摂れるのですが、ブータンでは気候的に大量の豆は作れない様子。その分を渋々ヤクと豚で補っている感じでした。
　寒くて米が摂れず麦や蕎麦が主食になると、もっと動物性食物が必要になり、山岳民族ほど肉食率は高いです。どうも低地の人は、だから微妙〜に高地の人を見下してるような？
　その高地の人だって、野生動物を殺して食べたりは絶対にしないんですけどね‥‥
　男性たちが上に放牧に行っている間、女性たちが暮らす集落の近くを通ったんですが、畑を荒らす猪の撃退方法を聞いて唖然。まず畑の側にテントを作り、畑の中央に音が出るカカシを作り、二つを紐で結びつけて、猪が来たらテントで寝てる人が紐を引いて音を出して追い払うんだって@_@
　獲って食べれば一石二鳥なのに、そこまでするか。脱帽です。