▲カリーラ。 ▲イーリャ海峡。狭い。 ▲地図で見ても狭い。
〓ええ、今日の午後もディスプレイがストライキを起こしまして、復活したのが6時半という。午後1時に、チョイとディスプレイを閉じて、昼飯を食ったのがウンのツキでがんした。
〓しかたがねえから、理髪店に行けば、今日は休みだって…… あん、第3火曜って休みか……
〓復活してみたら、“ゴルゴンゾーラ” のネタによく合いそうな “スコッチ・ウィスキー” の名前に関する質問が、“ナンとでも” さんから届いていました。
〓アタシは、このウィスキー飲んだことないですけど、調べたら、いろいろ面白いことがわかったので、コッチを取り急ぎ、一席にまとめてみました。
【 スコッチウィスキー 「カリーラ」 】
〓“カリーラ” の英語の綴りは、Caol Ila です。英語の発音は、
Caol Ila [ k
Λ ' l i : l
∂ ] [ カ ' りーら ]
〓ヘンな読み方だと思うでしょ。そのとおり。もとが、
スコットランド・ゲール語だからです。単に
スコットランド語というと、
スコットランド英語
を指す場合もあるので、言語名としては、面倒くさいですけれど
「スコットランド・ゲール語」 と言わないと、誤解を招きます。同じように、アイルランドで話されている言語は、単に 「アイルランド語」 とも言いますが、やはり、アイルランド英語とまぎらわしいので、正確には、
アイルランド・ゲール語
もしくは、こちらがゲール語の本家とみなして、単に、
ゲール語
と言います。
〓ブリテン島の “スコットランド” には、もともと、
ピクト人 Pict なんて人種が住んでいました。このピクト人は、ケルト系であるという主張もありますが、文字資料を残さなかったので、どのような系統の民族だったのか不明です。
〓5世紀後半という、ごく古い時代に、アイルランドからゲール人 (アイルランド人のこと) が移住してきて、ピクト人などの先住民の言語も文化も飲み込んでしまいました。
〓こうして生まれたのが、のちに侵入してくるアングロサクソン人に対する先住民のスコットランド・ゲール人です。スコットランドに入り込んだアングロサクソン人が、スコットランド英語を話すのに対し、“ハイランド” (スコットランド高地) に住むゲール人はゲール語を話していました。
〓つまり、スコットランドというのは、なんか “世界の果て” のドンヅマリのようなところですが、実にさまざまな民族が混淆 (こんこう) した土地なんですね。
〓日本人のよく知るスコットランド民謡に
Auld Lang Syne 「オールド・ラング・サイン」
がありますが、これは、ゲール語ではなく、“スコットランド英語” Scottish です。イングランドの英語の単語に置き換えると、
Old Long Since
に相当します。
〓スコットランド英語というのは、言語形成から言うと、必ずしも 「英語の方言」 とも言えず、「独立した言語」 とも解釈でき、日本で言う 「ウチナーグチ」 と似ています。
〓スコットランド・ゲール人の話す言語は Scottish ではなく、
Scottish Gaelic [ ' g e
I l
I k ] [ ' ゲイりック ]
です。ややこしいけど、わかりましたか?
〓ですから、スコットランド・ゲール人が英語化してしまう以前にもともと話していた言語は、「スコットランド・ゲール語」 という 「アイルランド・ゲール語」 の兄弟というべき言語です。
〓“Caol Ila” の意味を調べると、英語で、
“the Sound of Islay”
と出てきます。この sound は “海峡” の意味です。つまり、
「イーリャ海峡」 ※「イーリャ」 はあとで。
ということです。
〓英語では、4つの異なる語源の単語が、現代語の sound という1つの綴りに合流してしまっていて、誤解を生みやすい単語です。
〓「イーリャ海峡」 というのは、このウィスキーの故郷である “イーリャ島” と、となりの “ジューラ島” Jura (ゲール語 Diùra [ ' ヂューラ ]) とのあいだの海峡を指しています。
〓スコットランド・ゲール語による綴りと発音は、
Caol Ìla [ kh ω : ' l i : λ
∂ ] [ クー ' りーりゃ ]
※ [ ω ] はフォントがないための代用。本来は、
u を w のごとく2つ合体させたような記号を使う。
この母音は、日本語の 「ウ」 の表記にも使う。
です。「クー」 の “ウ” は、英語の [ u ] ではなく、ほぼ日本語の 「ウ」 と同じ音です。「りゃ」 は、スペイン語の -ll-、イタリア語の -gl- の音。L の拗音と考えてください。
〓ウィスキーの故郷の島の名前は、ゲール語で
Ìla [ ' i : λ
∂ ] 「イーリャ」
※スコットランド・ゲール語で ì は [ i ] の長音をあらわす。
と言います。
〓英語では、[ ' アイれイ ] と発音されたため、英語の綴りは、Islay です。s が入るのは、英語の isle [ ' アイる ] 「小島」、island からの類推でしょう。おそらく、古い時代には、英語でも、ゲール語にしたがって [ ' イーらー ] と発音したのだと考えられます。15世紀以来の 「大母音推移」 によって、
[ i : ] → [ a I ]
[ α : ] → [ e I ]
と発音が変わったために、「アイレイ」 となったんでしょう。
〓もちろん、この島の名前は英語の “isle” 「小島」 とは関係がなく、島の伝説では、デンマークから渡ってきたお姫さまの名前だそうです。アイルランド島から渡ってきたそうですが、船を使わず、姫が海に足を踏み出すと、海中からいちいち石が現れて、それを渡って島までやってきた、そうです。
〓残念ながら、デンマーク人あるいは北欧人の女子名に Ila に該当するものは見つかりません。
〓ゲール語の caol [ ' クーる ] は、名詞ではなく形容詞です。意味は、「細い、狭い」。現代アイルランド語でも caol というまったく同じ形容詞が残っています。(発音は、caol [ クィーる ]。軟口蓋化した [ k ] に [ i : ł ] が続く)
〓つまり、
Caol Ìla 「狭いイーリャ、細いイーリャ」
です。これが、ジュラ島とのあいだの海を指すコトバなんでしょう。
〓まとめますと、
Caol Ìla 「クーリーリャ」 (英語名 「カリーラ」)
原義は、「狭いイーリャ」。
“イーリャ海峡” を指す。
ということです。日本語で、「カリーラ」 について書いたものでは、固有名詞が、英語式に、
「アイラ島」、「アイレー島」 = “イーリャ島”
「アイラ海峡」、「アイレー海峡」 = “イーリャ海峡”
となっていると思います。読み換えてください。
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