竹ノ塚の仕事現場は十字路に面する。
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3方向はどこへ行くか熟知している。
しかるに、新里循環と書かれたバスの行く先は未知である。
明日は休みゆえ、夜中の大冒険なのである。
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さほど進まぬうちに、道がぐぐぐっと高くなる。
おっ、橋だ橋だ!
渡ったとたんに左に折れた。
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足立区民は、土手人種であり、土手人種は川を見つけると伴走してしまう。
いかんともしがたい。
【毛長川】の標示があった。
足立区と埼玉県の境界である。
東京都との境界ではない。
なんとなれば、足立区は東京ではないからである。
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人っ子ひとり歩いてをらない夜中の暗黒の毛長川の端をチャリ走する。
風が強いので、ねっとりした暗黒の川の表層が微かな街灯を反射し、生き物のようにうねる。
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このまま行くとどこに出るんだっけ?
確か、舎人ライナーにはぶつからない。
埼玉を前にして、ブッツリとぶったぎられているのだ。
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にもかかわらず、前方に舎人ライナーが見える。
アタマの中の地図がグチャグチャっとなって、訳がわからなくなった。
舎人ライナーを左手に見ながら前進すれば、我が家に着くはずである。
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舎人ライナー沿線であれば、かって知ったるわが庭である。
しかるに、この庭はいっこうに見覚えがない。
しかも、上空から響いてくる音は、舎人ライナーのそれではなく、明らかに長距離トラックなのだ。
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なのだ、などと言って済ましている訳にはいかない。
論理的に考えて、上を走っているのは、首都高 川口線であり、それを左手に見て進んでいると言うことは、北に向かっていることであり、埼玉県の深奥に向かっているということだ。
なんたることだ。
夜の大冒険は、方向がちんぷんかんぷんになる。
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一か、八か、180度 方向転換。
高速の下はくぐっていないので、これで正しいはずだ。
やがて、【入谷】の地名がチラホラ。
【舎人】の西側である。
間違いない。
気長に、毛長の端を走りすぎて、川口の寸前まで来ていたのだな。
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ひたすら、南と思わしき方向へ驀進したれば、最初に現れたる既知の建造物は、池田記念講堂であった。
足立区は公明王国なのだ。
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自分の知らない町から、突然知った町に入ると、安堵するとともに、なんともツマラない感覚も湧く。
どうなるかわからない、というのは、不安であるが、ワクワクでもあるのだな。
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