mixiユーザー(id:809109)

2024年05月12日21:40

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リーインカンネーション。

ない、ない、ない。

印鑑がない。

おとついの水元の現場で落としてきたらしい。

   …………………………

半年前にも無くした。

教科書体のシャチハタネーム9。

深川の現場だった。

   …………………………

われわれ請け負ひには、ロッカーなどない。

現場々々、更衣室の床の隅が唯一の陣地である。

いきほひ物をなくしやすい。

改めて買ひ直したシャチハタネーム9は、なぜか、間抜けな明朝体のデザインだった。

   …………………………

けふの竹ノ塚の現場は印鑑を多用する。

無しで済ますわけにはいかない。

自転車で駅の方に向かってみた。

文房具店があれば重畳(ちょうじょう)だが、ご存知のとほり、今どき書店と文具店は絶滅危惧種だ。

駅にでっかいダイソーがあれば手に入ると踏むが……

   …………………………

ヨーカドーの駐輪場に停めてあたりを探すがダイソーのダの字もない。

いづれの路地を穴の開くほど睨めたところで、今から文具屋がピョコピョコと生まれるわけもない。

諦めて帰輪した。

   …………………………

行きとは違ふ裏通りを走ってみた。

学校が見える。

と、眼の端に映ったのは、ウインドウ越しのネーム9の印鑑タワーだった。

   …………………………

チャリを停めると、ヤバイ文具店だと判った。

ウインドウは曇って、永年、野原に放置されてゐた車の窓のやうだった。

狭い間口を入ると絶望に突き落とされた。

店の前半分は、通路を残し、板やら、電光看板やら、自転車やらが詰め込まれていて、その奥の棚には売り物のはずの品が埃をかぶっていた。

印鑑タワーはその奥にあった。

ウインドウのすぐ内側だから、かへって、もはや近付くことなど明らかに不可能だった。

店の後半部には、ノートと筆記具だけが並んでゐた。

文房具店ではなくて、筆記具店だ。

   …………………………

鰻の寝床のやうな店舗のどん詰まりが、上框(あがりがまち)になってゐて、そこに座布団を3枚並べて、婆さまが仰向けに寝て御座った。

最後に取り付けそうな島はぐずぐずのベヨネーズ列岩だったのであるな。

   …………………………

仕事の現場に戻り、呆然としながらも、もう一度リュックを確認した。

天袋、サイドポケット。

底の底の雨具を取り出す。

カッパ、ズボン。

もはやカラッポ。

   …………………………

逆さにしてケツを叩いた。






パキッ。

コロコロコロ。

真っ黒なシャチハタネーム9が転がり出たのだ。

フタを開けて印面を確かめた。

わが名字だ。

ただし、教科書体だった。







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