▲メドゥーサの首をあげたペルセウス。
〓アッシは、「とんねるずのみなさんのおかげで した 」 の “食わず嫌い王決定戦” が好きでして。ドーデモイイようなことなんですけど、
石橋貴明 ── 「ゲッティー」 派
木梨憲武 ── 「スパ」 派
というドーデモイイ毎度オナジミの軽い言い合いに、なんとなく、「ぐふふ」 とキマス。
〓ハッキリ言って、「ゲッティー」 なんて略し方は聞いたことがなかったですけど、最近は耳にコビリついてしまったようです。“スパゲッティ” を見たときに、ふと、「ゲッティー」 とつぶやいていたりする……
〓そういえば、昔、「ダウンタウンDX」 で、松本人志さんが、六本木のことを、むりやり、ギョーカイ用語ふうに、
ギロッポン
って言ってたのを覚えてますが、最近のバラエティを見ていると、お笑い芸人で 「ギロッポン」 を使うヒトが増えてますね。偶然なのか、DXを見てたのか……
〓「スパゲッティ」 はイタリア語ですね。
spago [ ス ' パーゴ ] 「ヒモ、より糸」
+
-etto [ ' エット ] 「小さな、細い〜」。指小辞
↓
spaghetto [ スパ ' ゲット ] 「細いヒモ」
↓ ※ g + e では 「ヂェ」 になってしまうので、「ゲ」 と
↓ 読ませるために h を入れる。
↓
spaghetti [ スパ ' ゲッティ ] 複数形
〓そんなにムズカシイ造語ではありません。「細いヒモ」 と言うより、「ヒモちゃん」 という感じかもしれない。大阪人みたいですけど。
〓だから、「ゲッティー」 っていうのは、本来の語根 √spag- の g しか残ってないんですよ。
〓ゲルマン人の男子名 Karl 「カルル」 からは、フランス人の男子名の Charles 「シャルル」 ( -s は古い格語尾が呼格とともに残ってしまったもの) が生まれていますが、その女性形は Charlotte 「シャルロット」 です。指小辞 -otte で派生したものです。
〓ドイツや北欧では、この Charlotte という名前から、
Lotte 「ロッテ」、Lotta 「ロッタ」
という名前がつくられています。スウェーデン映画に、アストリッド・リンドグレーン原作の 『ロッタちゃん』 シリーズがありますよね。あの 「ロッタ」 ちゃんです。
〓つまり、「ロッテ」、「ロッタ」 と 「ゲッティー」 は、おんなじ造語法なんです。あながちバカにできない。
〓ところでですね、イタリアついでに、どうも昔から気になる 「ゴルゴンゾーラ」 の語源を調べてみました。なんたって、アアタ、「ゴルゴン」 が 「ゾーラ」 してるんですから。スゴイじゃないですか。
〓この 「ゴルゴンゾーラ」 という名前は、このチーズの生産地から名を取ったものです。歴史上、初めてゴルゴンゾーラ・チーズがつくられたのは、879年で、ミラノ付近の小さな町、ゴルゴンゾーラである、と言います。
〓もっとも、ピエモンテ地方、ロンバルディア地方では、広くゴルゴンゾーラ・チーズがつくられており、その栄誉を 「ゴルゴンゾーラ」 がひとりじめすることに対する異論もあるようです。
〓ただし、879年から 「ゴルゴンゾーラ」 と呼ばれていたわけではなく、1878年 (明治11年) に、“ゴルゴンゾーラ” でこのチーズが最初につくられたことにちなんで 「ゴルゴンゾーラ」 と名付けられました。つまり、そんなに古い名前ではない、ということですね。
〓この 「ゴルゴンゾーラ」 という町の名前が、初めて文書に登場したのは、10世紀のことで、
Gorgontiola [ ゴルゴンツィ ' オーら ] ゴルゴンツィオーラ
の語形で現れます。ラテン語形と言っていいでしょう。この語の -tio- 「ツィオ」 の部分が、-zo- 「ヅォ」 と有声化し、現代イタリア語形になります。
Gorgonzola [ ゴルゴン ' ヅォーら ] ゴルゴンゾーラ
〓はたして、この地名の由来は? っと調べると、どうも、イタリアではこれについて考えたヒトがいないらしい。
〓ただ、手がかりはあります。イタリアの地名、イタリア人の姓には、
Zola [ ' ヅォーラ ]
があるようです。Zola Predosa 「ゾーラ・プレドーザ」 は、ボローニャ県の町の名前です。
〓また、Zola という姓は、ロンバルディア州、ピエモンテ州に多いと言います。おやおや、ゴルゴンゾーラの産地と一致しますね。
〓フランスの作家に、エミール・ゾラ Émile Zola がいますが、彼の先祖はイタリア出身でしょう。
〓この Zola というのはナニか? どうやら、イタリア標準語 ── フィレンツェを中心とするトスカーナ方言を基盤にしている ── の
zolla [ ' ツォッら ] (土の)かたまり、芝土、角砂糖
に相当するようです。
〓この zolla という単語は、ラテン語に起源を求めてもムダです。どうやら、ゲルマン語らしいのですね。ローマ〜イタリアという土地は、ローマ帝国時代から傭兵としてゲルマン人を迎えており、そのうえ、ゲルマン人の一派であるヴァンダル人やゴート人の侵入によりローマ帝国が崩壊へ向かったことは周知ですね。
〓そのうえ、ゴルゴンゾーラのあたりは、ミラノともどもフン族にも襲われています。
〓しかし、この zolla という単語は、ゴート語などではなく、ドイツ語に由来するらしい。11世紀の古期高地ドイツ語では、
scolla [ ス ' コッら ] かたまり
という語形を記録しています。
〓おそらく、10世紀以前にドイツ語から借用され、俗ラテン語 ── すなわちイタリア語で ── で、語頭の sc- が変化して [ tsi- ] になった。はて、なるだろうか?
〓トスカーナ方言では [ ts- ] のままで、ロンバルディア方言・ピエモンテ方言では、[ dz- ] となった。
〓この単語は、現代ドイツ語でも、
Scholle [ ' ショれ ] 土のかたまり、土地、耕地
を意味します。他のゲルマン語では、
skolla スウェーデン語 「金属板」
schol [ ス ' ほる ] オランダ語 「氷塊」、<方言> 「土のかたまり」
などが見られるだけです。
〓どうも、zolla, zola というのは、「耕地、畑」 を指すようです。
〓とすると、「ゴルゴンゾーラ」 は、
“ゴルゴーン” の耕地
と言うことになる。
〓この Gorgon- というのは、ギリシャ神話に登場するポルキュス Phorcys の3人の姉妹の総称です。ラテン語で、
Gorgō(n) [ ' ゴルゴー(ン) ]
〓一般には、複数形で Gorgōnēs [ ゴル ' ゴーネース ]。3姉妹の中でも、髪の毛がヘビで、見たものを石に変えてしまう 「メドゥーサ」 Medūsa を Gorgō で呼ぶことが多い。
〓俗ラテン語では Gorgone 「ゴルゴーネ」 という語形をとります。
〓メドゥーサはペルセウスに首を切られて退治されます。ペルセウスは、その 「見たものを石に変えてしまう首」 でポセイドーンと戦って勝利します。このあたりは、レイ・ハリーハウゼンの 『タイタンの戦い』 を見ると、一目瞭然なんですが。
〓そんなことで、「正面を向いたメドゥーサの首の図案」 は、後世、“魔除け” に使われたそうです。
〓しかし、他に、解釈のしようがないんですね。
「ゴルゴンゾーラ」 = 「ゴルゴーンの耕地」
〓ことによると、フランス語で gorges [ ' ゴルジュ ] 「谷」 となっているラテン語の
gurges, -gitis [ ' グルゲス ] 渦巻、水、深淵
と関係があるかもしれません。gurges は現代イタリア語では、
gorgo [ ' ゴルゴ ] 渦巻、<文語> 川
になっています。-n が足らないんだよなあ……
〓さて、「ゴルゴンゾーラ」 に “ゴルゴーン” 三姉妹は入っているでしょうか。
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