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2026年09月22日21:20

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「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」感想

 これは、「野火」の塚本晋也監督が、ベトナム帰還兵のアレン・ネルソンによる回想録「『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』 ベトナム帰還兵が語る『ほんとうの戦争』」を元に“戦争加害者の傷”に切り込んだ衝撃作。
 出演は、舞台版「RENT」のロドニー・ヒックス、新人のマーク・マーフィー、それに名優ジェフリー・ラッシュなどで、全編英語台詞となる。
 アレン・ネルソンは、日米両国で精力的に講演活動を行って戦争の現実を訴え続け、2009年に逝去。墓碑は石川県にある。

 ニューヨークの貧しい家庭に生まれ、貧困から抜け出すため18歳で海兵隊に志願したアレン・ネルソンは、1966年、ベトナム戦争の最前線へ送られる。
 だが、ベトナムでの戦いは、名誉とも栄光とも無縁な、凄惨な反米ゲリラとの殺し合いだった。アレンの心は次第に壊れ、23歳で帰国する事になる。
 だが、彼の戦争は終わっていなかった。退役後も戦争PTSD(心的外傷ストレス障害)により、大きな音や暗闇に怯え、パニック発作により家族との関係も崩壊し、やがてホームレスとなる。
 そんなアレンは退役軍人病院のダニエルズ医師に出会って……

 この映画、「野火」から始まる塚本晋也監督の戦争映画の集大成と言えるものとなっている。
 ベトナム戦争帰還兵を主人公に据えた事で、キャストのほとんどが外国人で、撮影もアメリカ・タイ・ベトナムと、塚本監督映画としては勿論、日本映画としても異例の大スケールの映画となっている。
 それにより、これまでの塚本監督映画では描けなかった“戦闘”を描く事も出来るようになり、これまでの“イメージ”ではなく、実態としての戦争加害を描けるようになった、と言うのはインパクトが大きい。もっとも、塚本監督は「戦争」についてのマニアックな知識もなければ、ロマンやヒロイズムも描く事をしない監督であり、そこにはマニアを唸らせるリアリズムや活劇としてのダイナミズムには欠けているが、それは作品の性質上仕方のない事だろう。
 この映画が描かんとするのは、戦争加害者の視点であり、だからこそ、一般の戦争映画が避ける、撃たれる者の顔、そして人間性を描いて、戦場で“敵を倒す”のではなく“人間を殺す”と言うのをまざまざと見せつける。更に、そうした行為を兵士にさせる為、人種差別、アジア人蔑視を植え付けられた事をも描いて、米兵による沖縄での乱暴狼藉――それも、ある種の“訓練”であった事が示される……この辺りは、日本人としての塚本監督の想いもあるように感じた。

 もっとも、この映画で重要なのは、戦場の描写ではなく、アレン・ネルソンがそんな戦場で受けたPTSDによる苦難とその克服にある
 心の傷は、それを隠しても、遠ざけても治らない。それに自ら向き合い、認め、更に言葉にして口に出し、他者に語って、共感をされないと癒されないのだ。
 タイトルの「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」は、アレン・ネルソンが、幼馴染の教師に頼まれ、小学生らの前で戦争加害を語った際、女児から発せられた問いだ――これを子供らしい、残酷な問い、と思うかも知れない。だが、これに「はい」と答え、「ネルソンさん、かわいそう」とハグされた時に、彼の傷は確かに癒されたのだ。
 他者を傷つけた事で傷ついた、己の心を癒すのはやはり他者にしか出来ない……真摯に謝罪をし、互いを受け入れなければ、関係は改善されないし、心の傷が癒される事はないのだから……アレン・ネルソンは日米で講演活動を行い、映画の最後にあるようにベトナムでも講演を行った、と言う。
 これは誰にでも出来る事ではないし、己の傷を曝け出すのはある意味、戦場に立つよりも恐ろしいのではないか、と思う――しかし、それでもやらなければ、信頼もされず、許されもしないのだ。
 これが「戦争」の“後始末”……これは誰にでも出来る事ではないし、だからこそ、「戦争」などやるものではない、と心から思う。
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