これは、イラストレーターのナガノによるX発のショート漫画「ちいかわ」の劇場版長編アニメ。シリーズ中でも異色の長編エピソード“セイレーン編”を映画化したものとなる。
監督は及川啓。ナガノも脚本に参加している。
ある日、ちいかわとハチワレのもとに、うさぎがチラシを顔に貼り付けてやって来た。チラシは、南の島への招待状で、「島での討伐で100倍の報酬」、「甘いもの辛いものみーんな実質無料」と言う謳い文句に釣られ、ちいかわたちは先生のラッコと共に島への船に乗る事になる。
そして到着した南の島で、彼らを待ち受けていたものは……
「ちいかわ」は、原作漫画、アニメ版とも未見で、予備知識なし。子供向けのほのぼのアニメだろう、と見送りのつもりだったのだが、映画はチケット完売を繰り返す程の人気で、「ムービーウォッチメン」でも取り上げられたのをきっかけに鑑賞するに至った。
一応、鑑賞前には基本設定などをネットで確認してから観たのだが……なるほど、この「ちいかわ」、決して子供向けではなく、作中世界には、ちいかわ(これは“なんかちいさくてかわいい”の意だと言う)の他に、対照的な存在である“でかつよ”(でかくて強い、か)、サポートする“鎧さん”などがいて、そこには“他者”と“格差”があり、“労働”して“報酬”を得る、と言う現実社会を引き写したものとなっている。しかも、その“労働”の中には、害虫やモンスターと戦う“討伐”と言ういささか物騒なものがあり、ちいかわはかわいらしいながら武器を持って戦い、時には死ぬ事もある、と言うなかなかシビアな内容である事は理解した。
もっとも、映画となった“セイレーン編”は、そうしたちいかわたちの世界とは切り離されたもので、物語的にも、この1作で完結するもので、初見の観客にも入り易く、それがヒットの一因だろう、と思う。
そんな映画は、ちいかわたちが訪れた島の島民と、彼らを襲うモンスターであるセイレーン、そしてちいかわたちがセイレーン討伐の為に戦う、と言う物語になるのだが、セイレーンを倒してめでたしめでたし、と言う展開にはならない。
これは、コミュニケーション不全を描く物語であり、それが決して“悪意”ではなく、“無作為”と“配慮(善意と言ってもいい)”によって生じた、と言う事、そして、子供から大人まで「では、どうすればよかったのか」と、考えさせるものになっているように思う。
また、夏休み映画に相応しく、バカンスに夏祭り、そしてちょっぴりホラー要素も盛り込まれた、楽しい映画になっており、これは大人気になるのも当然、と納得した。
ただ、元々がショート漫画で、原作でも長編エピソードはこの“セイレーン編”のみであり、これだけの人気でも続編も難しそう……そんな“プレミアム感”もまた本作の人気の要因かも知れない。
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