これは、ガザ紛争における「ヒンド・ラジャブ事件」を基に描く実録ドラマ。ガザ地区のヒンド・ラジャブからパレスチナ赤新月社に届いた実際の通話音声を使用し、彼女の救出に奔走する人々の姿を再現した。
本作には、ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラー、アルフォンソ・キュアロンなどハリウッドからも錚々たる顔ぶれが製作に名を連ね、銀獅子賞を受賞したヴェネチア国際映画祭では23分という記録的スタンディングオベーションが巻き起こったと言う。
監督は「皮膚を売った男」のカウテール・ベン・ハニア。
2024年1月29日、ヨルダン川西岸地区のパレスチナの人道支援組織・赤新月社の緊急対応チームが緊急通報を受ける。
それは、ガザ地区北部で戦闘に巻き込まれた車両の救出を求めるものだった。当該の車両に連絡はついたが、銃撃で6名が死亡。ひとり生き残り、車内に閉じ込められた6歳の少女ヒンド・ラジャブを救出すべく、赤新月社は彼女との電話をつないだまま、救出するためにあらゆる手段を尽くして奔走するのだが……
これは、現在の“世界”を理解するための必見の1本、と言えるだろう。
これは、今現在、パレスチナで起きている“現実”であり、同時に“戦争”についても雄弁に語るものとなっている。
映画に使われている音声は、その時の実際の音声記録――観客は、少女が撃ち殺され、勇敢な男たちが戦車砲で吹き飛ばされる、その瞬間のリアルな音を耳にする事になるのだ。
映画は、そんな現実の音声を軸に、記録されていない赤新月社の対応を再現する――感情を揺さぶられて激情を噴き出す担当者、過労とストレスで倒れるその上司、苦悩しながらも最善を尽くさんとする調整者……映画は敢えてドラマを作らず、その時、何が出来たか、そして何が出来なかったのかを描いて行く。
この現実を前にしては、作為も演出も不要――そして、そんな現実が、観る者をも無力感に苛むのだ。
そして、最後にはイスラエル軍も救助要請に応じる。ガザ北部に残った最後の救急車が駆け付けたが、それがイスラエル軍の狙いだったのだろうか?現場に到着した救急車をイスラエル軍は戦車砲で撃った。(救急隊員2名は焼け焦げた骨片しか残らなかった)
その後の19時30分、ヒンド・ラジャブの乗る車も銃撃を受けて連絡は途絶えた。イスラエル軍が撤退した2週間後、現場を確認した赤新月社は、ヒンド・ラジャブの遺体を回収……彼女の乗っていた車には300発以上の弾痕があり、戦車に轢き潰されていた。
本作については、批評する言葉がない……ただ、これを観て、この現実を受け止めて欲しい、としか言い様がない。
これは、そんな映画の限界を示すものと思う。
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