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2026年08月02日19:23

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「開戦前夜」感想

 これは、猪瀬直樹のノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」を原案に制作された、2025年8月放送のNHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」のドラマパートをベースに約40分を追加した劇場版。
 主演は池松壮亮、他出演は仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、二階堂ふみ、國村隼、佐藤浩市と言う豪華キャスト。
 監督・脚本は「月」、「人はなぜラブレターを書くのか」の石井裕也。

 昭和16年4月、官僚・軍・民間から、若き英才たちが秘密裏に集められた。そこは内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」。
 彼らに与えられた任務は、“模擬内閣“を結成して将来あり得る日米戦の行く末をシミュレーションすることであった。4ヶ月後、宇治田洋一を“総理大臣”とする研究所の“模擬内閣“は、熾烈な議論の末に結論に辿り着く……それは「日本、必敗」と言う残酷なものだった――

 本作が描く「総力戦研究所」は、実在の機関であり、研究所が昭和16年8月に出した太平洋戦争の推移は、真珠湾攻撃と原爆を除き、ほぼ史実を予測しており、戦後、調査したアメリカも驚いたと言う――この映画は、そうした知られざる歴史を発掘し、それでも尚、戦争を止められなかったと言う事実から、戦争、いや、国家と政治と言うものを考えさせるものなのだ。
 そうした狙いは理解するし、こうした歴史秘話に陽を当てた猪瀬直樹の着眼点には素晴らしいものがある……だが、本作については、その建付けに、疑問を持たざるを得ない。日本映画に有り勝ちな事ではあるのだが、本作が描く「総力戦研究所」の中での出来事、登場人物の殆どがフィクションとなっているのだ。その結果、史実で総合戦研究所の所長を務めた飯村穣中将の子孫から批判を受け、抗議活動が拡大するなどしてしまったのは、後述する理由もあって、残念、としか言い様がない。
 物語としてもかなり脚色されており、総力戦研究所がそもそも教育機関であり、国家運営に当たる次世代の学びと交流の場であった、と言う側面が省略され、カリキュラムの一部でしかなかった模擬内閣による戦争シミュレーションが活動の中心だった、と言う描写にも疑問を持ったし、強権的で好戦的な陸軍と、紳士的な海軍と言う、ステレオタイプな描写も気になった。

 勿論、本作のそもそも狙いでもある、戦争へ向かう“空気”と言うもの――その方向付けをした政治、煽るマスコミ……そして、燃え広がってしまえば、もう理屈は通らないし、政治家でさえ手綱を握っていられない、と言う事にもなる。それが、“国”をも動かす人々の力なのだ。
 そして、その“空気”は戦争には限らない。現在社会、そして世界のあちこちで起きている問題の背後には、判っていても、それを止められなかった“空気”がある……だからこそ、ひとりひとりが、間違った事には流されないよう、おかしな事には「違う」と言える、理性と勇気を持つべきだ、と言う本作が訴えるものは、確かに今、現在の社会から見ても必要な事のように思える。
 だからこそ、史実を脚色し、フィクショナルな“悪”を描いて、そこにサスペンスフルなドラマを描くと言うのは、本作に対しては余計な事でしかなかったように思えてならない。
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