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2026年03月20日21:17

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「罪人たち」感想

 これは、「ブラックパンサー」のライアン・クーグラー監督、マイケル・B・ジョーダン主演で描く異色のサバイバルホラー。
 共演は、本作がデビュー作となるマイルズ・ケイトン、「バンブルビー」のヘイリー・スタインフェルド。
 
 1932年。アメリカ南部ミシシッピ・デルタの小さな町クラークスデールに、シカゴで悪名を馳せた双子の兄弟、スモークとスタックが帰ってくる。彼らは故郷の町で酒場を開くことにしたのだ。場所は町から離れた川沿い元製材所。
 兄弟は開店準備の為に、旧知の仲間を呼び集める。その中に、従弟で歌の名手・サミーもいた。
 店がオープンし、サミーが自慢のギターで歌い出すと店は一気に盛り上がる――だが、この日のサミーのブルースは、招かれざる客までも店に呼び込んでしまうのだった……

 この映画は非常に奇妙で複雑な映画だ。青年が人生を決める一夜を描いた青春映画であり、アメリカの黒人音楽をフィーチャーした音楽映画でもあり、後半は吸血鬼と戦うサバイバルホラーとなる……しかも、全体的にアメリカの近現代史が頭に入っていないと理解出来ない描写が多く、これはかなり観客を選ぶと思う。
 舞台となるのはアメリカ南部、人種差別が色濃い農村地域。そこで高級車を乗り回し、白人女性を恋人にする黒人が真っ当な人間である訳がない。禁酒法時代だから、酒場は人里離れた場所で営業しないとならないし、飲酒はそもそも違法。サミーは牧師の息子で、普段は教会でゴスペルを歌っているのだけど、彼自身は、教会では禁じられたブルースに惹かれている――前半の、このサミーのブルースが圧巻で、当時、<悪魔と契約する歌>と呼ばれたブルースは、サミーのギターと歌声で、正に魔力を発揮して先祖の奏でていた呪術的な音楽から、彼らからしたら未来の現代音楽までを呼び込み、サミーとセッションを行うと言う、黒人音楽史を詰め込んだようなものとなっているのだ――そして、そんな様々な悪行を重ねた人々が集ううちに、その魔力により“吸血鬼”までも引き寄せてしまい、後半は、その吸血鬼と、彼らの配下となった者らと、生き残りを賭けて戦うサバイバルホラーに転換して行く。

 だが、興味深いのは、この吸血鬼がアイルランド系移民、として描かれ、彼らもまた楽器を持ち「セッションをしよう」と奏でるのはケルト音楽を元とするアイルランド民謡……それもまた、アメリカの音楽史の一側面なのだ。なにしろ、このアイルランド民謡をベースに、ゴスペルとブルースと言う黒人音楽を取り入れて、この後、ロックンロールが生まれるのだから――それを大成功させたのが(時代はかなり後になるが)、御存じ、エルヴィス・プレスリーとなる――まぁ、ロックンロール誕生のルーツが吸血鬼、と言うような描写は、白人には面白くないかも知れない。ただ、自身の音楽に飽き足らず、黒人音楽を飲み込み、我が物にしてしまった白人らを、黒人目線から見ると、こうなると言う事だろう。

 そんな映画の語り手はサミーだが、実質的な主役はスモークとスタックの兄弟となる。かなり対照的な性格で、しかも同時に画面に存在するにも関わらず、マイケル・B・ジョーダンが二役をひとりで演じている。これは、自分は言われるまで気づかなかった程……これは、さりげなくも見事な映画の魔術だ。
 サミー役のマイルズ・ケイトンは、本業は歌手であるだけに、見事な歌唱パフォーマンスを見せている。

 ホラー映画らしく、魔物は夜明けと共に消える――だが、物語は終わらない。エピローグで描かれるその後のサミー(演じるのは本物のブルース・レジェンド、バディ・ガイ!)の音楽に引き寄せられるように現れた人物にはっとさせられるだろう。
4 5

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