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2026年02月20日07:27

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「コート・スティーリング」感想

 これは、ダーレン・アロノフスキー監督が、「エルヴィス」のオースティン・バトラー主演で贈るクライム・サスペンス。
 共演はレジーナ・キング、ゾーイ・クラヴィッツ。

 1998年、ニューヨーク。かつてはメジャーリーグを目指す野球少年だったハンクは、ある事故で野球人生を絶たれ、バーテンダーとして働きながら、酒浸りの日々を過ごしている。恋人・イヴォンヌの存在が救いだが、その暮らしには行き場のない閉塞感がある。
 そんなある日、ハンクは怪しい隣人のラスから、留守の間、ネコの世話を頼まれる。気安く引き受けたハンクだが、その日から、ロシアンマフィアら、危ない連中たちが代わる代わるやって来て、ラスの行方を追い、とばっちりを受けてハンクも大怪我をしてしまい……

 ダーレン・アロノフスキー監督の新作だが、これまでの人の不安や絶望に向き合って来た作品群とは大分趣が違い、ブラックコメディ的な部分もある、軽いノリでエンタメ性を高めたものになっているの事にちょっと驚く。如何なる心境の変化があったのか、あるいは、本作の原作はチャーリー・ヒューストンの同題小説であり、作者が脚本にも関わっているせいか――尚、原作小説は三部作なので、本作が好評なら続きがあるかもしれない……

 物語は、典型的な巻き込まれ型サスペンス。平穏に暮らしていたハンクは、ネコの世話を引き受け、イヴォンヌが猫砂を部屋に持ち込んだ事で、ロシンアン・マフィア、ユダヤ人フィクサー、警察、それに騒動元のラス、と言う四つ巴の争奪戦に巻き込まれてしまう――訳の判らぬうちに、状況はあっと言う間に泥沼化し、しかもハンクは何時の間にかその中心にいる事に気づく……軽いノリと、見合わぬ状況の苛烈さ、そしてハンクを見舞うトラブルの多様さも合わせ、アロノフスキー監督、冴えた手腕を見せているが意外にも思えた。
 あと、本作は時代設定がいい……1990年代後半の、かつての困窮から抜け出しつつありながらも、過去のしがらみも残す街並みがハンクの状況とも重なる辺りは絶妙だ。また、これは余談だが、街並みを捉えたカットの中に「キムズビデオ」の看板が映り込むのにはニヤリ、とさせられた。

 物語は、終盤になって逆襲に転ずるハンクを描く。ここで、過去のトラウマに立ち向かい、それにより難局を打破する、と言う展開に出るのには唸らされたし、同時に、これはダーレン・アロノフスキー監督らしい、と納得もした――これもまた、己の内面に向き合い、因果応報を巡る物語であったのだ、と……
 事故で将来を失ったハンクは、再び同じ“事故”を起こす事で、新たな可能性を手に入れる。だが、それがイヴォンヌを含めた、それまでのハンクの人生と引き換えなのだ。
 物語は明るく能天気な場面で締め括られるが、そこにほろ苦さがあるのは、こうした宗教説話めいた物語構造のせいであるかも知れない。
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