これは、ホロコーストを生き延び、戦後アメリカへ渡ったユダヤ人建築家ラースロー・トートの30年にわたる数奇な運命を描いたヒューマン・ドラマ。
出演は「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディ、「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズ、「メメント」のガイ・ピアース。監督は「ポップスター」のブラディ・コーベット。
ハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート。第二次世界大戦下のホロコーストを生き延びた彼だったが、戦後の東西対立により家族と引き離されてしまう。
ラースローは、ユダヤ人のコネクションを頼りに、アメリカにひとり移住、新天地での生活を切り拓こうとするが、なかなか上手くは行かない。しかし、裕福な実業家ハリソンと出会った事で、その運命は大きく変わる事になる。ハリソンは、ラースローの才能を高く評価し、彼の家族のアメリカ移住と引き換えに、新たな礼拝堂の設計と建築を依頼するのだが……
この映画、途中に15分の休憩を挟み、前後編それぞれ100分、215分にもなる大長編――伝記映画的作りであり、波乱の人生を描くにはそれだけの長さが必要なのか、と思っていたのだが、実はこれは実話を元にしている訳ではなく、ラースロー・トートと、その建築は、実在の建築と建築家らのエピソードを組み合わせた虚構なのだ、と言う。
そんな映画で、核心となるのは、ホロコーストを生き延び、戦後をアメリカで生きたユダヤ人の物語だ――戦後・イスラエルのようなユダヤ人の国ではないアメリカで、ユダヤ人が如何なる戦後の人生を送ったのかを描こうとしているように思えた。
タイトルの「ブルータリスト」とは、建築様式におけるブルータリズム(brutalism)を貫く建築家を言う。近現代のモダニズム建築は、鉄とコンクリートとガラスで出来ていると言われるが、虚飾を廃止し、その構造を剥き出しに仕上げるのがブルータリズム建築なのだ。所謂、“打ちっぱなし”のコンクリート外壁は、その特色となっている。
こうしたタイトルを抱き、建築家を主人公としているのだから、ブルータリズム建築と、その虚飾を排した生々しい精神性が描かれるもの、と思ったのだが、映画は意外にもそこに踏み込まず、あろうことか、逆に虚飾に走るのだ。
この時代に、敢えてのビスタビジョン撮影を敢行(これでアカデミー賞撮影賞を受賞)、章立てにされた映画の構成、重厚な交響曲を多用する音楽、そして凝った構図に陰影の強い映像――如何にも、映画通を唸らせるような仕掛けが随所に施されており、そうした表現の工夫と努力の一方で、物語はホロコーストにもブルータリズムにも迫らず、むしろ空虚に感じてしまう程……長尺の映画で疲れはしたが、心動かされるものではなかった、と言うのが正直な所だ。
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