これは、「正体」の藤井道人監督が、舘ひろしを主演に迎えて描くヒューマンドラマ。
共演は「ブルーピリオド」の眞栄田郷敦、音羽屋の歌舞伎役者でもある尾上眞秀、他、椎名桔平、黒島結菜、斎藤工、ピエール瀧など。
能登の小さな漁港で、漁師として日銭を稼ぐ三浦諒一……元々、地元のヤクザ、河村組の若頭だった彼は、港の漁師たちから後ろ指を指され、家族もなく、孤独に過ごしていた。
そんな彼はある日、白杖の少年を見かける。交通事故で両親と共に視力をなくした少年・幸太は、自堕落な叔母に引き取られ、学校にも通えず、家庭でも村でも、除け者扱いだった。そんな幸太に自分を重ねたのか、三浦は幸太に「おじさんの船に乗ってみるか」と海に誘った――そして、親しくなったふたりだが、三浦は幸太の目が手術により視力を取り戻せると知って、幸太に「手術を受けさせる」と約束、危険な賭けに出て……
これはもう、何とも古臭い映画――予告編を観た時から、古臭い人情譚なのは見え見えで、舞台が冬の日本海と言うから舞台もベタ。湘南の海を歌うのが本領の桑田佳祐の歌でさえ、これに宛てられては演歌にしか聴こえないと言う有様……しかも、監督は藤井道人だ。これはもう嫌な予感しかしない(日本映画界では“期待の新星”とされている藤井道人だが、自分は評価していない)……まぁ、そうしてダメと判っている映画を観に行く、と言うのもいい映画の見方ではないとは思うが……
物語の原案は、チャップリンの「街の灯」だと言う。これまた名作を下敷きにし、ヤクザ映画に手慣れた東映ならば大丈夫か、とも言えないのが藤井道人監督で、脚本。あちこち、どうにもひっかかってしまう。まず、三浦が漁師として生計を立てているようには思えないし、幸太の目の手術後、いきなり12年後に飛ぶ展開も乱暴だろう。また、河村組の麻薬取引の様子は、「こんなのすぐバレる」と言う噴飯ものの描写で、この映画を安っぽくしている。確かな考証と、ディティールに拘り、リアリティを積み上げてこそ、映画は人の心を打つ確かなものになるのだが、藤井道人は、そうした部分を疎かにするのが問題だと思う。
演者としては、やはり舘ひろしだろう。年齢を感じさせない立ち姿の美しさに、穏やかな表情からのドスを効かせた台詞……惜しいのはずっと同じ調子で力んでいるように見える事、だろうか。
また、幸太を演じたのは、本作が映画デビューとなる尾上眞秀だが、血筋のなせる業か、視点と焦点を定めない盲目の演技など、見事なものだったが……映画としてのアクティングが行われていないのだろう、台詞回しが拙く、説明的に過ぎているようで、これは勿体なかった。
映画撮影は、昨年末に行われ、ロケ地の石川県輪島は、撮影後に能登半島震災で甚大な被害を受けた――今となっては、輪島の街並みや朝市などの映像は貴重なものだろう。それを、木村大作のカメラは、美しく、かつドラマチックに捉えている。また、木村大作は、藤井道人如きの言う事など聞くはずもなく、変な遊びもないし、流行りのドローン撮影などもないのには、むしろ好感を覚えた。
映画は、最後に、バイオレンスなクライマックスを迎えるが、これまた冗長な上にひねりがない……幸太が手にした手術代や、婚約者を巻き込んでのサスペンスにも出来ただろうが、リアリティも盛り上がりもなく、感動も薄味なのが藤井道人か……昨日観た細田守監督映画もそうだったが、本作についても、いい脚本家がついていれば、と思わずにはいられなかった。
ログインしてコメントを確認・投稿する