これは、アメリカの魂を歌う、ロックの英雄にして“The Boss”と慕われるブルース・スプリングスティーンの若き日の苦悩と創造の情熱を描く音楽映画。
原作は、ウォーレン・ゼインズの小説「Deliver Me From Nowhere」(映画原題も同じ)。監督は「クレイジー・ハート」や「荒野の誓い」のスコット・クーパー。
出演は「アイアンクロー」のジェレミー・アレン・ホワイト、「アプレンティス」のジェレミー・ストロング、「リチャード・ジュエル」のポール・ウォルター・ハウザー。
1980年のアルバム「ザ・リバー」で全米トップのロックシンガーに登り詰めたブルース・スプリングスティーン。
ツアーで全てを吐き出し、次のアルバム製作に向けた充電期間に入ったブルースは、ニュージャージーの、かつての実家の近くに家を借り、その一室で、彼はニューアルバムのデモテープの制作に取り組む事になる。4トラックレコーダーで、カセットテープに録音したそれは、やがて6枚目のアルバム「ネブラスカ」として結実する――
「ボヘミアン・ラプソディ」のヒット以降、多くの音楽伝記的映画が作られるようになったが、これは、その中でも、かなり特異な内容――映画は、ブルース・スプリングスティーンを、彼のステージを「アメリカ」から「世界」に引き上げた大ヒット作「ボーン・イン・ザ・USA」ではなく、「ザ・リバー」との狭間にある異色のアルバム「ネブラスカ」の誕生を描くものとなっているのだ。
音楽スターの伝記映画と言えば、天性の才能の発露によりスターダムを駆け上がる一方で膨れ上がる孤独と疎外感、お決まりのスキャンダルに挫折、その後立ち直って代表曲を歌う大団円、と言うのが定番だろう。(「ボヘミアン・ラプソディ」が正にそれ)
本作とて、如何に原作ありとは言え、「ザ・リバー」の後、燃え尽き症候群から鬱状態となったブルースが、見事立ち直って「ボーン・イン・ザ・USA」で締める、と言う辺りが商業的には望まれたのだろうが、敢えてそこに背を向け、彼の孤独と鬱屈の原因となった、幼年期のトラウマを前面に出し、映画もそこに向き合った。ドラッグも乱痴気騒ぎもなく、音楽製作以外のプライベートも浮いた話処か、同郷のシングルマザーとの純愛ロマンス……浮ついた部分は全くなく、ブルースの孤独で、内向きで、そして何事にも真摯な人柄を描き出して行くのだ――そんな、まるで遅れて来たアメリカン・ニューニシネマのような内容は、確かに観客を選ぶとは思うが、同時に、ブルース・スプリングスティーン本人も製作に関わった事もあり、描くべき事をちゃんと描く、真摯な映画として、支持をされるのではないか、と思う。
また、ブルースを演じた、ジェレミー・アレン・ホワイトは、これまで人前で歌った事も、ギターを弾いた事もない、と言う事で、当初はオファーを断ったと言うが、特訓により本作では歌唱・演奏シーン共、本人が行っている、と言うのだから凄い……ハリウッドの役者の役作りには、毎度の事ながら、「よくぞここまで」と感心させられる。
音楽映画としては、ブルース・スプリングスティーンの音楽家としての才能、そして、「ネブラスカ」の特異な製作過程と、ブルースの。音と作品のこだわりなどを興味深いものがあり、盛り上がりにこそ欠けるものの見応えはある。何より、音楽に対しても、真摯えにそれを描く、と言う映画の姿勢が一貫させているだけでも、これが数多ある音楽伝記映画とは別物であるのが理解出来るのではないだろうか。
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